現世の望みを叶える最強無比の守護神! 「三面大黒天」の謎

文=本田不二雄

福徳開運の善神で商売繁盛の守り神

密教の寺院などでしばしば、複数の顔と腕をもつお像を見かける。菩薩や明王、天部というカテゴリーに属する多面多臂像だ。それらはおもにインド由来の仏尊で、それぞれ固有の由来をもち、その像容や持物にはそれぞれ決まりがある。

たとえば十一面千手千眼観音像の場合、頭上に並ぶ面相も腕の数も大変なことになっているが、基本は観音菩薩であり、その変化相なのである。

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一方、三面大黒天はそれらとはやや性格を異にしている。

そのルーツは、日本仏教の母山と呼ばれる、比叡山延暦寺にあった。

延暦寺の広大な境内の中心をなす東塔エリア。不滅の法灯を伝える根本中堂へとつづくなだらかな下りの手前右側に大黒堂がある。根本中堂を守護するかのように位置しているそのお堂に、その異形の尊像が奉安されており、一般の参拝者も写しの姿(レプリカ)を拝見することができる。

 

「三面大黒天について」という説明書きにはこうあった。原文のまま、記載しておこう。

正しくは三面六臂大黒天といい、日本で最初の三面をもった尊天です。

米俵の上に立ち、食生活を守る「大黒天」を中心に、右には勇気と力を与える「毘沙門天」、左には美と才能を与える「弁財天」。

六本のお手には衆生の福徳を叶え苦難を取りのぞく様々な道具を持っております。

まず、正面の大黒天の左手には願いを叶える如意宝珠を持ち、右手には煩悩を断ち切る智慧の利剣を持つ。

次に(向かって)右側の弁天の左手には福を集める神を持ち、右手には世福を収納し、人人の願いに応じて福を与える宝鍵を持つ。

次に(向かって)左側の毘沙門天の左手には七財を自在に施す如意棒を持ち、右手には魔を下す槍を持つ。

すなわち、福徳開運の善神であり、商売繁盛の守り神として現在は宗派の別なく祀られている──(持物は、これ以外にもさまざまなバリエーションがある:筆者注)。

 

大黒天と弁財天(弁才天とも)、そして毘沙門天。三面大黒天とはつまり、3つの尊格が合体したお姿であり、その発祥が比叡山だったというわけである。

それが合体するにいたった経緯は、じつはよくわかっていない。加えて、一般人がその尊容を目にする機会も多くはない。

なぜなら、三面大黒の像は基本的には秘密修法の本尊であり、多くは秘仏だったからである。

ただ、はっきりしているのは、福徳のご利益で知られる三天が合体することで、現世の望みを叶える最強無比の守護神が顕現したことである。

ちなみに、これら三天は、日本人が愛する福神ユニット「七福神」のメンバーでもある。その主要三神仏が一体に凝縮したオールマイティーな福神であるということは、まず申し上げたいところだ。

 

とはいえ、「三面大黒」の名のとおり、尊格のベースになっているのは大黒天である。そこで、改めて大黒天とは何かをおさらいしておきたい。

この大黒天ほど、インド、中国、日本という仏教伝播のなかで姿形を変容させた尊格はないだろう。日本では打ち出の小槌に大袋を手にした福々しいご尊顔で知られるが、源流のインドでは、それとは似ても似つかないキャラクターだった。

大黒天は破壊神・シヴァの変化身で、本来の名をマカキャラ(摩訶迦羅)という。「大黒」の名は意訳で、その意味するところは「大いなる暗黒(マハー・カーラ)」。暗夜神、暗夜天といった異名がふさわしい〝闇の神〟だった。

その容貌たるやすさまじい。

頭髪を逆立て、三面三目六臂で、正面の手は剣をつかみ、脇の2手は捕らえた獲物を誇示するように兎と人をつかみ、掲げたもう2手で象皮を被っている。また頭上には髑髏が、首や二の腕には蛇が巻きついている──というものだ。

つまり、中国を経て日本で定着したあの一面二臂の福相ではなく、もとは恐ろしげな忿怒のお顔で、かつ三面六臂だった。

つまり三面大黒天は、弁財天、毘沙門天と合体しつつ、図らずもインドのマカキャラに先祖返りしたお姿でもあったのだ。

 

マカキャラとは、次のような鬼神だった。

── 尸林(死体の捨て場)の林の中を、シヴァの変化身であるマカキャラが、もろもろの鬼神や眷属を率いて毎夜遊行している。この神には大神力がある。さまざまな珍宝がたくさんあり、なかには姿を消す隠形薬もあれば延命薬もある。遊行して空を飛び、諸々の幻術薬を人と貿易しているが、代価として取るのは人間の生き血と肉である──。

 

絶大なる現世利益の神通力をもち、人間の血肉を交換条件に取り引きをする。そんな血なまぐさい神格はやがて、お供えを積み、常に敬って礼拝すれば絶大な利益を与える存在へと変化していく。

中国発祥とされる『大黒天神法』には、こんなことが書かれている。

 

「もし人が3年間、専心して私を供養するなら、必ずその人のもとに現れ、世間の富貴や官位、名誉ある位と俸禄を与えよう」

「もし常に私の真言を念誦し、四季を通じてさまざまなごちそうを神前に献じ、他の人々に知られないように私を祀るなら、その人に必ず福を与えよう」

 

こうして、大黒天はねんごろにお祀りすれば、必ず富貴を与えてくれる神として信仰された。

その功徳が最大限に発揮される〝最終形態〟が三面大黒天だったのである。

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(ムー2019年4月号より抜粋)

文=本田不二雄

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