「七福神」の謎(5) 海の彼方から福を招く 恵比寿神

文=本田不二雄

十日戎の祭礼と商売繁盛

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恵比寿神。ソ連の切手/1969年/ロシア国立東洋美術館。

 

狩衣姿に烏帽子をかぶり、片手に鯛を抱き、もう片手に釣り竿を持って破顔一笑。「エベっさん」と親しげに呼ばれるのがよく似合う福神である。十日戎(大阪市・今宮戎神社)の「商売繁盛笹もってこい」でも知られるように、商売繁盛の神で知られるが、本来は海運・漁業の守護神だったといい、七福神の仲間入りをしてからは、律儀・清廉の神ともみなされている。

恵比須、恵比寿、戎、夷とその表記もさまざまだが、実はエビス神のルーツも諸説あり、謎めいている。代表的なものを挙げるとこうだ。

 

1:エビス=蛭子(蛭児)命説

『古事記』によれば、イザナギとイザナミとの間に生まれた最初の神で、次子の淡島とともに2神の子の数に入れられず、葦の舟に入れられオノゴロ島から流されたと書かれた神である。

2:エビス=彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)説

日本神話では、ニニギ命の第3子で、通称・山幸彦。兄の海幸彦から借りた釣り針を海中に失い、シオツチ神の手引きで海中のワタツミ宮殿に赴き、海神の娘・トヨタマ姫と結婚。のち地上に帰還したとされる神である。

3:エビス=事代主説

『古事記』の国譲りの項に登場する。大国主命の子で、狩りと魚釣りをしに出雲・美保の御崎にいたところ、アマテラスの使いに国譲りを迫られて同意し、船を踏んで傾け、手拍子を打って海の中に消えてしまった神である。

 

エビス神を祀る総本社・西宮神社の主祭神はえびす大神(蛭児大神)であり、正解は1である。ただし、平安時代末の記録に「西宮の夷社の三郎殿なる摂社に事代主神を祀っていた」とあり、その祭神の像がエビス神として拝まれたとする説も有力だ。また、釣り竿を手にするエビス像は、事代主や彦火々出見尊の逸話を彷彿させる。

西宮神社によれば、「茅渟海といわれた大阪湾の神戸・和田岬の沖より出現した御神像を、西宮・鳴尾の漁師が祀っていたが、御神託によりそこから西の方(現社地)にお遷し、お祀りした」のが同社の起源という。

民俗学の知見では、漁村では、海岸に漂着した漂着物(鯨やイルカ、ときに死体なども)をエビスと呼び、大漁をもたらすものとして祀っていたされる。つまり、海の向こうの他界から福をもたらす神への信仰が、エビス信仰の起源であったと考えられるのだ。

それがいつからか、神話の神々に比定されるようになったのだろう。思えば、3つの説はすべて海の彼方の他界に赴いた神々であった。エビス神とはすなわち、神の世界から来訪し、僥倖をもたらす客人神だったのである。

文=本田不二雄

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