「七福神」の謎(7) 地上に降りた星の化身 寿老人と福禄寿

文=本田不二雄

天下泰平を告げる南極老人星

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寿老人。柴田是真/1889年/ホノルル美術館。

 

「七福神図」では、寿老人は頭巾をかぶった老人の姿で、杖の先に巻物を結びつけたものを持ち、鹿を伴って描かれている。日本では寺社に祀られることは少なく、ふだんは馴染みのない神といっていい。しかし中国では、寿老人は南極老人星の化身とされ、人間の寿命をつかさどる神としてあがめられている。

ちなみに、その一軸の巻物は、人間の寿命の長短を記した司命の巻で、彼が従える鹿は、玄鹿を干肉にして喰らえば二千歳の長寿を保つともいう道教説に由来するもので、やはり長寿の象徴とされるものである。

日本では星の神は馴染みが少ないが、中国やインドや西洋ではそうではない。とくに中国では、科学から哲学にいたるさまざまな思想が、天・地・人の照応という考え方をベースに語られ、天の星の有りようが地上にも反映され、人間の命運を握っていると考えられた。

このため、中国人は吉事のときにあらわれる星や、凶変の前兆としてあらわれるという星に目をこらした。そんななか、地にあらわれることが稀な星のひとつが南極老人星だった。

その星は、現代ではカノープスと呼ばれている。赤緯マイナス52度40分に位置しており、南半球では容易に観測できるが、北半球の多くの場所では、地上すれすれにあらわれる星である。

このため、その星があらわれるのは祥瑞とされ、夕日と同じく赤みがかって見えることから、青白く光る「若星」に対し、「老人星」と見なされた。これが転じて、この星が人間の寿命をつかさどるものと考えられたのである。

ちなみに、かの『史記』には「地平線近くに南極老人という大きな星があり、それが明らかで大なるときは天下が安泰で、そうではないときは兵乱が起こる」と記されている。

この「老人星」の信仰が、中国・南宋の時代(1127~1279)ごろ、寿老人と福禄寿という別々の神格を生んだと考えられているのだ。

 

下界に光臨した3つの福星

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福禄寿。伊藤若冲/1790年頃/キンベル美術館。

 

一方の福禄寿は、頭部が異常に長くて尋常ならざる容貌で描かれ、おもに鶴(や亀)を伴い、多く杖を持って描かれ、こちらはとくに、人望をつかさどる福神とみなされている。

また、福禄寿は宋の時代に星が人間界に降り、老人としてあらわれたとされ、次のような伝説が残されている。

中国・北宋の仁宗の時代、嘉祐8年(1063)11月のこと、都にひとりの老人があらわれ、街を歩き回りときに立ち止まっては占いをはじめた。その容姿は特徴的で、背丈はさほどではないが、長頭で尋常ならざる姿である。しかも、たいそうな酒飲みで、酒屋と見れば入りこみがぶ飲みするものの、酔った顔ひとつ見せなかった。

やがてその老人の噂は高まり、仁宗も興味を抱いて、ある日老人を御前に召し出した。仁宗は酒一石(100升)を持ってこさせ、遠慮なく飲むよう命じた。小躍りして飲み始めた老人は、ぐいぐいいつまでも呑み続け、居合わせた陪臣らもみなあきれ果ててしまった。7斗まで飲み干したところで、悠然と立ち上がり、御殿を出て行き、そのまま行方知れずとなったという。

翌日、天文台長が「寿星が帝座の近くに行ったまま、突然見えなくなってしまいました」と上奏してきた。仁宗は「さてはあの老人は寿星の化身だったか、道理でよく飲むと思った」と、いたく感心したという。

また、同じく北宋の時代、老人星の化身という老人が都にあらわれた。その身長がわずか三尺(約90センチ)で、頭と体が同じ大きさだったという。やはり占いで生計を立てており、銭が入ると酒代に充てていた。しばしばみずからの頭を叩き、「われは寿命を益する聖人である」と語っていたという。

ふたつの話は同工異曲で、その容姿はまさに福禄寿の異相そのものだが、老人星の化身となれば、寿老人と混同して伝わったのはまちがいない。

一説には、福禄寿は福星、禄星、寿星の3つの星を合わせたものともいわれる。実際、中国ではこの三星の像を正月に掲げて祝う風習も残っている。

ともあれ、同じ星の信仰に発するものであれば、寿をもって寿老人に配し、人望をもって福禄寿に配する天海の「正説」は、やや苦しげな説というほかない。長頭の異相を長寿の象徴とするならば、寿老人のそれこそ長くてしかるべきだし、寿老人の持ち物とされる司命の巻物が福禄寿の持物になっている場合も多い。

このあたりの収まりの悪さが、ときに福禄寿を外して吉祥天が入ったり、寿老人を外して猩々が入っていたりした要因だろう。

それでもなお、なぜ福禄寿が別立てとして残ったかといえば、別々に図像が描かれてきた経緯もさることながら、福禄寿すなわち「幸福・富貴・寿命」という人間の三大願望を叶える神が、めでたさを求める正月の気分にマッチしたこと。そして長頭短躯の異相が、「神選抜」のキャラクターとして、ビジュアル的に効果的なアクセントになっていたからにちがいない。

 

(月刊「ムー」2015年2月号より)

文=本田不二雄

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