万物を見通す至高存在の視線「ホルスの眼」/秘教シンボル事典

文=松田アフラ

太陽も象徴する再生と叡智の眼

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左右のウジャト(ホルスの眼)が描かれている壁画(ルーヴル美術館蔵)。

 

「おおラー神よ、トート神はウジャトをもたらし給い、そが去りし後は休ませ給えり。そは嵐にいたく悩まされたれども、トート神はそが嵐より逃れし後は休ませ給えり。我は健やか、ウジャトも健やかなり」

これは有名な古代エジプトの葬祭文書である『死者の書』の第167章に記された呪文の一節である。これを唱えることにより、死者はウジャト、すなわち「ホルスの眼」の力をわが物とすることができるとされている。

ホルスは鷹の姿で表される古代エジプトの神である。神話によれば彼は冥界神オシリスとその妹である女神イシスの息子で、悪神セトの手によって父オシリスが殺害されると、自ら父の仇を討ってセトを倒し、エジプトの統治者となった。

この戦いの際に左眼を失うが、後にその眼は広くエジプトを旅して知見を得た後、ホルスの元に戻り、叡智神トートによって癒されたという。こうして再生した彼の眼は「ウジャト(健全なるもの)」と呼ばれるようになった。前述の『死者の書』の呪文はこの逸話を背景としている。

その後、ホルスはオシリスの復活を願ってこの眼を献げた。ゆえにホルスの眼は犠牲、治癒、再生、保護の象徴とされる。

元来、天空神であったことから、ホルスのふたつの眼は太陽(右眼)および月(左眼)と同一視された。太陽と月は光の根源であり、光は知性と霊性の象徴であることから、古来、眼によってものを「見る」という行為自体が霊的な営為であり、人間の悟性を象徴すると考えられてきた。

ゆえにホルスの眼は「万物照覧の眼」、すなわち光と生命の熱を与える可視の太陽であると同時に、人間に霊的な火、知性を与える至高存在の隠喩でもある。

かくしてホルスの眼はそれ自体が信仰の対象となり、聖なる護符として崇拝されるに至った。古代エジプト学の泰斗であるウォーリス・バッジは、ウジャトの護符は「夏至における太陽」を表しており、その目的は「それを身に着ける者に、その最盛時の季節における太陽と同じ強さと健康をもたらすことにあった」と述べている。

 

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ウジャトは、全知全能の神ヤハウェの目として、時と場所を超えた別のシンボルに転じていったともいわれる。

 

(ムー2015年6月号より)

文=松田アフラ

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