全宇宙を知る世界樹「生命の樹」(古代)/秘教シンボル事典

文=松田アフラ

創成から終焉までを知る

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神学者ボナヴェントゥラの『生命の樹』を主題とした聖画(14世紀初頭)。

 

「園の中に生命の樹、および善悪を知るの樹を生ぜしめ給へり」ーー『創世記』の人類誕生説話において、人類の原郷たるエデンの園に「善悪の知識の樹」と並んで生えていたとされるのが「生命の樹」である。神のいいつけに背いて知識の実を食べ、“目が開けた”人祖アダムとその妻エヴァは楽園を追放され、以後「生命の樹」は人間が近づくことのないよう、剣と炎で守られる。

というのも、この樹の実を食べた者は「永遠に生きる者」になるからである。すでに「知識の樹」の実を食べた人間がさらに「生命の樹」の実まで食べれば、人間は「神に等しき者」になってしまう。

この説話の起源は紀元前10世紀ごろとされるが、ここに見られる「生命の樹」の概念それ自体はおそらく人類の始源そのものにまで遡る。宗教学者ミルチア・エリアーデによれば、「聖木や植物の儀礼・象徴は、どの宗教史にも、世界中の民間伝承にも、古代の形而上学、神秘学にも、まして聖画像や民俗芸術には必ず見出されるのである」という。

人類が意識を獲得して以来、樹木は生命力の源泉、枯死しても無限に再生する永遠の生命、豊饒と生産の象徴でありつづけた。あるときには、それは宇宙そのもの(ウパニシャッドの「無花果樹」(アシュヴァッタ)」など)と同一視され、またあるときには世界の中心で全宇宙を支える樹という概念(北欧神話の世界樹「ユグドラシル」など)が生まれ、そしてあるときには宇宙における神の顕現(アッシリアの最高神アスールなど)となった。

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世界樹ユグドラシル。

 

このように、途轍もなく古い起源を持つ「生命の樹」の象徴であるが、キリスト教美術においてそれが独立した図像として顕されたのは、神学者ボナヴェントゥラが1274年に構想した『生命の樹』が最初である。

そこでは12の枝に配された48のメダイヨンにキリストの生涯が再現され、樹の最下部は『創世記』の物語を、最上部は天界を表している。すなわち、歴史の始めから終りまで、当時のキリスト教的世界観における全宇宙がこの樹の中に示されているのだ。

(ムー2015年8月号より)

文=松田アフラ

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