カバラの根本図象「生命の樹」(近代)/秘教シンボル事典

文=松田アフラ

神の内的世界を顕す逆さ吊りの大樹

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セフィロトの樹。アタナシウス・キルヒャーのエジプト学文献に記されたものに着色し、明瞭化したもの。

 

「今や生命の樹は上より下に伸びゆく、それはすべてを照らし出す太陽である」(『ゾーハル』)。ユダヤ神秘主義カバラにおいては、不可知の超越神と創造された顕現世界との間にひとつの神秘的な関係が措定されていた。カバラの徒によれば、世界の創造とは神の内的世界が外的な現象形態として顕現することに他ならない。そして彼らは、この「創造=神の顕現」のイメージを逆さ吊りにされた樹の形で図示化した。これがカバラの根本図像としての〈生命の樹〉である。

カバラの〈生命の樹〉は一般に「セフィラ(複数形はセフィロト)」と呼ばれる10個の球体と、それを繋ぐ22本の経路(パス)で表される。各セフィラは左から順に「慈悲の柱」「均衡の柱」「峻厳の柱」と呼ばれる3本の「柱」の上に配置される形を採るが、このセフィラこそが各段階における神の「流出」である。

1から10までの各セフィラはそれぞれ固有の属性を持ち、それぞれが神の多様な位相、力、潜勢力などを表している。最上位の「ケテル(王冠)」がこの宇宙における神の最初の顕現であり、最下位の「マルクト(王国)」が最終の顕現、すなわち物質界である。

カバラの徒にとっては、この図形は宇宙生成の秘儀を説き明かすものであると同時に、また霊的修行によって魂を純化する道筋を描いた地図でもある。

すなわち神が自らを流出させ物質界にまで顕現した過程を逆に辿り、「マルクト」から「ケテル」へと〈生命の樹〉を登攀することにより、人間は神に回帰し、各セフィラが表象する大宇宙(宇宙)と小宇宙(人間)のすべての秘密に通暁する。これにより、人間は『創世記』において神によって禁じられた「生命の樹」の実を手に入れ、「神に等しき者」となることができるのだ。

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カバラにおけるセフィロトの樹。天から逆さに伸びる樹が神の顕現を象徴する。図はロバート・ブラッド「神聖哲学」記載のもの。

 

19世紀末に登場した魔術結社〈黄金の夜明け〉団は、カバラを初め錬金術、数秘術、タロット、薔薇十字思想など、多種多様な西洋隠秘学思想を統合した体系を生み出したが、その統合の鍵とされたのが、この〈生命の樹〉であった。彼らはこれをあらゆる象徴体系を格納する「ファイリング・システム」として用いることにより、全魔術思想のエレガントなシステム化に成功したのである。

 

(ムー2015年9月号より)

文=松田アフラ

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