髪の毛が伸びる「お菊人形」の怪

文=並木伸一郎

亡き女の子の魂が宿った無気味な市松人形

髪の毛が伸びる人形として有名な、北海道岩見沢市の「萬念寺」に安置されているお菊人形。それは、身長約40センチの市松人形で、その目が異様に無気味だ。それもそのはず目は黒目で瞳がない。その目には、黒いガラスか樹脂のようなものが埋めこまれており、それが自然光に対して鈍く反射し、見るものに恐怖を感じさせずにはおかない。
さらには、やや半開きになった口元が、顔全体に笑みを浮かべたような表情をつくり、問題の髪の毛は長く伸びて足元まで達している。

P226-229-1(髪の毛が伸びはじめたころのお菊人形)

当寺の今川準応住職が生前に語った人形の由来はこうだ。
時は大正7年8月15日、折しも札幌で開かれた大正博覧会を見物に来ていた鈴木永吉さん(当時17歳)が、妹の菊子ちゃん(当時2歳)のみやげにと、市内の狸小路の商店街で、おかっぱ頭で胸の鳴る日本人形を買い求めた。兄からもらった人形を大事にして、菊子ちゃんは毎日楽しく遊んでいたが、大正8年1月24日風邪をこじらせて、わずか3歳でその生涯を閉じてしまう。

葬儀の際、永吉さんは人形を棺に入れて送り出そうとしたが、なぜか入れ忘れてしまった。出棺後、発見された人形をお骨といっしょに仏壇にまつり、生前の菊子ちゃんを思い出しながら朝夕回向しているうちに、なんと人形の髪の毛が伸びはじめたのだ。その後、樺太に移転することになった永吉さんは、昭和13年8月16日、お菊ちゃんと父親の助七さんのお骨とともに箱に入れた人形を萬年寺に託して出発した。

戦後のこと。永吉さんがふたりの追善供養のため萬年寺を訪れたとき、人形の髪の毛が肩まで伸びていることに気づいた。不思議なことがあるものだと思い、あらためて人形を寺に納めて永代供養を願い出た。その永吉さんもなくなって、以後、人形は「お菊人形」と呼ばれて、正式に本堂に安置されるようになった。

その後も髪の毛は伸び続け、腰のあたりまで伸びたところで一度断髪されることになった。このとき切られた髪は、北海道大学医学部で分析され、人毛と確認されている。また当寺では、毎年3月に人形の髪を切りそろえる「整髪会」を実施している。
その髪の毛だが、それがよく伸びたのは、実は先代の準応住職のときで、現住職の代になってからは、ほとんど伸びていないという。

その代わりに、1982年ごろから、人形の口が少しずつ開きはじめるという怪奇な現象が起こりはじめ、さらには顔つきもすこしずつ変わってきているという。
たしかに以前に撮られた写真のお菊人形はどことなく幼い顔でほほ笑みかけているようだが、筆者が取材で訪れた際、目のあたりにしたお菊人形はどことなく大人びており、しかも悲しげな表情を見せていた。まるで歳月とともに、この人形が成長しているかのようであった。

P226-229-2(当初の写真と見比べると、表情の違いは明らかだ)

髪の毛が伸びたばかりでなく、今度は口が開き、童顔から大人の顔に変貌しつつあるお菊人形……この“超常怪奇物”は、いかなる行く末をたどるのだろうか。ちなみに現在は拝観できないようになっている。

文=並木伸一郎

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