天下太平を兆す五彩の霊鳥「鳳凰」/幻獣事典

文=松田アフラ

天子の即位に出現する瑞兆

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中国や台湾の寺院、廟には、屋根を守護する鳳凰像が飾られることが多い。

 

前漢代初期の地理書『山海経』に、次のような一節がある。

「丹穴の山……鳥あり、その状は雞の如く、五彩で文あり、名は鳳凰。首の文を徳といい、翼の文を義といい、背の文を礼といい、胸の文を仁といい、腹の文を信という」

ここに記された「鳳凰」とは、古代中国において麒麟、霊亀、応龍とともに「四瑞」と称された霊鳥である。鳳が雄で凰が雌という説も既に中国最古の辞書である前漢代の『爾雅』に見られる。鳳という文字は殷墟卜辞に、祭祀の対象である風神の意味で登場するのが最古の例で、おそらく元来は鳥の形を採って祭祀の場に降臨する祖霊を表していたのであろう。

古くから瑞兆とされ、特に聖徳の天子が位に就くと出現するといわれる。前述の『山海経』にも「これが現れると天下は太平である」と記されている。神話上の聖帝である黄帝や舜の時代には宮廷に鳳凰が飛来したとも伝えられている。だが孔子の時代(紀元前5世紀)まで下ると、もはや世は乱れ、鳳凰が姿を現すこともなくなっていた。孔子は「鳳鳥至らず、河、図を出さず。吾已んぬるかな」(『論語』「子罕第九」)と歎いたとされる。

日本にも仏教伝来とともに飛鳥時代には伝えられていたと考えられ、『日本書紀』では鳳凰は騏驎、白雉、白烏と並んで「休祥嘉瑞なり」とされている。奈良時代以降、鳳凰のイメージはことのほか愛好され、さまざまな美術作品として表現されることとなる。中でも、法隆寺金堂西の間の天蓋の鳳凰は、白鳳文化を代表する傑作として知らぬ者はないだろう。

また随時代の『五行大義』には、「羽蟲三百六十、鳳これが長たり」と記されている。「蟲」とは昆虫ではなく生物一般を指す文字で、中国古来の伝統において生物は「五蟲」と呼ばれる五つの群に分類される。この内、「羽蟲」とは羽根のある生物群で、鳥や羽虫などが含まれる。鳳凰はこの「羽蟲」の王であるとされているのだ。ちなみに人間はこの「五蟲」の中では「裸蟲」、すなわち毛のない生物の群に入れられており、ミミズなどと同じ仲間である。なお、この「裸蟲」の王が「聖人」。

文学者ホルヘ・ルイス・ボルヘスは鳳凰を「中国のフェニックス」と呼んでいるが、その形態や生態からして、鳳凰とフェニックスは別系統の幻獣と考えられる。
(ムー2016年2月号より)

文=松田アフラ

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