スコットランドに伝わる馬型の水精「ケルピー」/幻獣事典

文=松田アフラ

生け贄を求める凶兆の水精

ケルピーはスコットランドの民話に登場する水の精である。人間の姿を採ることもあり、ときには美しい若者に化けて無垢な乙女を誘惑したりもするが、通常は馬の姿をしており、その身体には緑の発疹があって、川や湖や沼の中に潜んでいるという。

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馬のような姿だが、自在に背を伸ばすという能力もあるという(イラスト=Wikia)。

 

スコットランド語のkelpieの語源は不明だが、ゲール語で仔馬や仔牛を意味するcalpaもしくはcailpeachと関係しているらしい。ケルピーという名称が初めて文献に登場するのは18世紀のことで、伝承自体はともかく、名称に限っていえばさほど古い起源を持つものではない。

ケルピーは不吉な幻獣で、その姿を見るだけで死、特に溺死の予兆となるという。また、普通の馬のふりをして旅人や子供を安心させ、背中に乗せるともいわれる。そうなったが最後、乗った人の手はケルピーの背中に貼りついて取れなくなってしまう。そのままケルピーは水中に飛び込んでその人を溺死させるのである。助かるためには、乗せられた人が自ら、貼りついた指や手首を切断して脱出する以外に方法はない。ケルピーはこうして殺した人間を喰うのだが、内臓は食べないので、残された内臓だけが水面に浮かんでくるという。

また、背中の長さを自在に伸して大勢の子供を一度に乗せるという、よくわからない能力もある。一方、人間がどうにかして馬勒を着けることに成功すれば、ケルピーを自由に使役して、馬数頭分の仕事をさせることができるという。

ケルピーはある程度の大きさのある湖や沼にはどこにでもいるとされるが、特にスコットランドのネス湖には昔からケルピーの伝承が根強くある。有名な「ネス湖の怪物」の源流のひとつとなっているのであろう。

一説によればケルピーの起源は、かつて水の神を宥めるために行なわれていた人身御供の記憶にあるという。であるなら、前述の手首の切断や水面に浮かぶ内臓などという妙にリアルで陰惨な話も、この人身御供のやり方と関係しているのかもしれない。あるいはまた、ケルピーが馬の姿を採るのは、人身御供の代わりに馬を生贄として献げたことの名残なのだろうか。いずれにせよこのケルピーもまた、元を辿れば落魄した古代の水神の末裔ということになるのであろう。

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ギリシア神話の海馬ヒッポカンポス。一部でケルピーと同一視されているがまったく別物。

 

(ムー2016年9月号より)

文=松田アフラ

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