「錬金術」の基礎知識/創作者のためのファンタジー世界事典

文=幻想世界探究倶楽部

神に近い存在となる技術=錬金術

 

錬金術の核心にある思想は「不完全なものを完全に」というものだった。錬金術師たちは、第一質料・四大元素・三原質などの理論にもとづいて、賢者の石やエリクサー、ホムンクルスなどを作り出そうとした。

ウィリアム・ダグラス《錬金術師》(1853 年)。
ウィリアム・ダグラス《錬金術師》(1853 年)。

前3世紀から3世紀頃にエジプトのアレクサンドリア周辺で発祥した錬金術は、中東に伝わってアラビアの学者たちに研究されたのち、ルネサンス期のヨーロッパで隆盛を誇った。その人気は18 世紀まで根強く残っていた。

錬金術は、鉛のような卑金属から金を生成する技術だと、一般に考えられている。しかしその究極の目的は、人間を神のような存在へと高めることだったという。

錬金術の思想的な核心は、不完全なものを完全なものに変えることである。古代や中世の人々は、鉛や銅などは不完全な金属であり、金は完全な金属だと考えていたが、不完全なものから完全なものが作れるのであれば、鉛や銅を金に変えることもできるはずだ。ここから黄金変性技術が研究されるようになったのである。

 

「不完全なものを完全に」という思想を象徴するのが、賢者の石である。卑金属を金に変え、人間を不老不死にし、そのほかさまざまなことを可能にするこのアイテムが、錬金術の目標となった。

どんな病気の人間も健康にする万能薬エリクサーも、錬金術師たちが追い求めたもののひとつである。また、人間が神に近づくためには、神が人間を創造したように、人間が新しい生命を創造できなければならない。そこで考案されたのが、人造人間ホムンクルスであった。

錬金術はさらに目的を広げ、肉体的な面だけでなく霊的な面でも、人間を高めることをめざすようになった。不幸な社会を幸福

な社会に変えることも、錬金術の目的とされたという。

 

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、万物の素材としての第プリマ・マテリア一質料という概念を提唱した。第一質料は唯一の根源的なものであり、これが特定の性質をもつことで、土・水・火・風の四大元素となり、この四大元素の組み合わせによって宇宙のすべてが構成されているというのである。

すべての物質が第一質料からできているのなら、性質や組み合わせを人工的に変えれば、卑金属を金に変換することができるはずだ。アリストテレスの理論は、強力な裏づけとして錬金術に取り入れられた。

また、代表的な錬金術師パラケルススは、硫黄・水銀・塩の組み合わせで万物ができているという三原質理論を唱えた。これらの理論をもとに、錬金術師たちは神秘的な実験を行っていくのである。

 

歴史に名を刻んだ錬金術師

 

錬金術の祖とされるのは、伝説的な存在ヘルメス・トリスメギストスである。そのほか、パラケルススらが錬金術師として有名だ。

ヘルメス・トリスメギストスの絵。
ヘルメス・トリスメギストスの絵。

古代の錬金術師たちは、錬金術を創始した人物として、エジプトのヘルメス・トリスメギストスの名を挙げている。彼はもともと、エジプトの知恵の神トートとギリシアの神ヘルメスが習合した神であったが、伝説的な人間として考えられるようになった。3000 年以上も地上に君臨した王であり、3 万冊以上の書物を著したとされる。

中世には錬金術はアラビアで発達した。ジャービル・ブン・ハイヤーンやイブン・シーナー(アヴィケンナ)などが有名である。

中世末期にアラビアからヨーロッパに輸入された錬金術を、近代化学につながるものへと発展させながら、同時に独自の神秘思想も盛り込んだのが、16 世紀に活躍したパラケルススである。放浪の人生を送ったが、大量の論文を書き、黄金変性から治療薬の開発へと、錬金術を方向転換させた。

 

人工生命=ホムンクルス

 

人造人間ホムンクルスは、ガラス容器の中でしか生きられないが、多くの知識を身につけられる。

フランツ・ザビエル・シムによる、ゲー テ『ファウスト』の一場面の挿画(1899 年)。学者ワーグナーがホムンクルス を造っているところを、悪魔メフィス トフェレスが覗いている。
フランツ・ザビエル・シムによる、ゲー
テ『ファウスト』の一場面の挿画(1899
年)。学者ワーグナーがホムンクルス
を造っているところを、悪魔メフィス
トフェレスが覗いている。

ホムンクルスとは、錬金術によって作り出されるという、小さな人造人間である。優しく穏やかな性格をしており、錬金術師に従順で、人間と同じようにさまざまな知識を身につけることができる。しかし、ガラス容器の中でしか生きられず、寿命は6年ほどだという。

ホムンクルスを実際に製造したとの伝説があるパラケルススは、その作り方を書き残している。それによれば、まずガラス容器に人間の精子を入れて密封し、発酵した馬糞を入れて40日間温める。するとごく微小で透明な人間の形をしたものが生まれる

ので、人間の血を与えて育てる。馬の体内と同じ温度で40週間置くと、体は小さいが人間の子どもに似た生命体に成長する。

ホムンクルスの研究は、自然の摂理を逸脱して人間の手で生命を創造しようとする試みであり、神と肩を並べようとする傲慢な行為であるとの見方もあった。

 

錬金術師が探し求めた賢者の石

 

錬金術において、卑金属を金に変える物質として想定されたのが、賢者の石である。

 

ライト・オブ・ダービー《賢者の石を求める錬金術師》(1771 年)。
ライト・オブ・ダービー《賢者の石を求める錬金術師》(1771 年)。

賢者の石とは、錬金術において、鉛などの卑金属を金に変える黄金変性の触媒効果があるとされた物質である。それだけでなく、不老不死や人間の霊的向上など、あらゆることを可能にすると考えられ、錬金術の究極の目的とされた。

しかし、賢者の石を入手できたのはヘルメス・トリスメギストスだけだったという。

8世紀のイスラムの科学者ハイヤーンは、賢者の石は水銀と硫黄の配合比率によって作られるという説を提唱し、この説はヨーロッパ全土に広がった。錬金術師たちはいろいろな物質から水銀と硫黄を抽出し、哲学者の卵と呼ばれるフラスコに入れて加熱した。最終工程で白色になると、不完全で銀しか作れないが、赤色になれば金を精製できるといわれた。

錬金術師たちの賢者の石をめぐる探求は、化学の発展に大いに貢献している。硫酸も硝酸も塩酸も、錬金術の研究から発見されたという。

 

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(「創作者のためのファンタジー世界事典」より抜粋)

文=幻想世界探究倶楽部

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