妖怪博士最後のフィールドワーク!「水木しげるの憑物百怪」

文=中村友紀

「ムー」から始まった憑物研究

2015年11月30日に漫画家・妖怪研究家の水木しげるが、あの世への冒険旅行へと旅だってから、早いものでもう1年になる。創刊以来、本誌にもたびたびご登場願ったこともあり、多くの読者も感慨深いことだろう。

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ところで、数多い本誌記事のなかで、水木がもっとも力を入れていたと思われるのが、1991年1月号から1995年12月号にかけて連載された「水木しげるの憑物百怪」だった。当時の担当編集者の記憶によると、水木が憑物に対する強い興味を初めて口にしたのは、「ムー」誌上における対談の場においてだったという。1990年11月号に掲載された、英文学者でイギリスの妖精研究の第一人者である井村君江との「超時空ミラクル対談」がそれで、このとき水木は本誌編集者に、これからの人生は憑物研究にも力を入れていきたい、と語ったというのである。

編集部がこのありがたい言葉を聞き逃すはずもなく、その場で新連載を依頼し、翌年1月号で早くもそれが実現したのだそうだ。ちなみに対談に先立ってふたりは、イギリスへ妖精捜しの旅に出ている。そのときの体験を水木は、対談内でじつに嬉しそうにこう語った。

「妖怪がそこらじゅうにおるんですわ。あのへんは特に、妖怪の磁場が強かった……」

おそらく、このときに感じた不思議な感覚も、憑物研究に向かうための強い動機になったと思われる。いずれにせよ、70歳を前にして憑物という大きなテーマに出会った水木は、その研究をライフワークとし、人生最後のチャレンジとすることにした。それこそが「水木しげるの憑物百怪」なのである。

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「狸憑き」

狸が人に取り憑くという話は、四国に集中していて、特に徳島県が中心になっている。
狸に取り憑かれると、その人はやたらと大食いをするようになる。腹は膨れるわけだが、体は衰弱して、やがて命を落としてしまう。これを退治するためには、修験者に頼むよりほかにないといわれる。香川県の山間部では、これを逆手に取るやり方で、古狸に食べ物を与え、仇敵視している家に祟るように依頼するということもある。これをこの地方では、動物(獣)の祟りと伝えている。
しかし、こうした話は珍しく、一般には狸が人に取り憑くのは、本人が狸にいたずらをしたとか、あるいは転んだといった理由によるものが多い。
また、こんな話もある。徳島県名東郡旧八万村のある娘が、山へ薪刈りに行った帰りにひと休みして薪を下ろした。さてそろそろ帰ろうと思い、再び薪を背負うとばかに重い。我慢してやっと帰ってくると、家にいた婆さんが、「ただ今は、(運んでくれて)ご苦労さま」という。じつは娘が先ほど休んだところに狸がいて、その狸がひょいっと薪の上に乗り、家に帰ったところで婆さんに取り憑いた、というのであった。

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