有名妖怪「一つ目小憎」、その亜種たち/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(毎月末水曜日)! 連載第5回は、みなさんもご存じの妖怪「一つ目小憎」のなかでも関東地方で語られる亜種をご紹介します。

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『一目小憎その他』(柳田國男著・角川文庫)と、トミーのお化けビニール人形(黒氏私物)。

 

八日の夜に、ヤツが来る

虫も鳴かぬ静かな夜、玄関からゴトリと物音が聞こえてきます。こんな時間に来客だろうか、と廊下へ出ると、暗い玄関に子供の影が立っています。その顔の中央には、ランランと輝くひとつ目が……そうです。夜の訪問者は、招かれざる客だったのです。

昔の人は外からやって来るものをとても警戒し、怖れました。病や事故や不作といった厄を村の中に持ち込む厄神(やくじん)かもしれないからです。そのため、村境に塞の神(サエノカミ)を祀り、災いから村を守っていたのだそうです。

南関東の多くの地域では、こんないい伝えがありました。

旧暦2月8日と12月8日の事八日(ことようか)の夜。

ひとつ目の小僧が災厄を持って、家にやってくる。

この小僧は帳簿を持っており、そこに名前を書かれると、その人には災いが降りかかるといいます。人々はこれを怖れ、魔除けとして目籠(メカゴ、メカイ)という竹で編んだ籠を竿の先につけて庭に掲げ、あるいは吊るしました。籠は網目が多いので、目がひとつしかない小僧は恐れるからだといわれています。また、妖怪の目を突くようにと、葉にトゲのある柊(ひいらぎ)などを籠につける地域もあるようです。

家に災いをもたらす怖い存在が、妖怪の中でも抜群の知名度を誇る、あの一つ目小僧というのは大変面白いです。

今回は皆さんの家にもやって来るかもしれない、「8日の小僧」たちを紹介します。

 

一つ目小僧のバリエーション

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  • 一つ目小僧

神奈川県川崎市下黒川に伝わるものは、ただのひとつ目ではありません。赤い目玉を持っています。赤く充血しているのか、光っているのか、詳細はわかりません。やはりこれも、災厄を持って家々を巡るものです。同市の生田では2月8日を「魔日」と呼び、この日は妖怪が来るだけでなく、山へ入ると怪我をすると忌まれました。『川崎の民俗』という民俗誌に見られます。

 

  • 一ツ目子僧

神奈川県横浜市旭区では、12月8日になるとこれが家にやってきて、玄関に置いた下駄に判子(はんこ)を押していきます。判子を押されてしまった下駄の持ち主は、病気になるといいます。帳簿に判子、まるで事務仕事です。『旭区郷土史』に見られます。

 

  • ヒトツマナコ

一つ眼(ひとつまなこ)ということでしょう。神奈川県相模原市津久井町青根に伝わるもので、やはり悪病が流行るのはこれが持ち込んでくるからだといわれています。12月8日にはカヤの木(イチイ科の針葉樹)を燃やし、この木の枝を目籠に入れて柱に吊るしたそうです。『神奈川県史 各論編5民俗』にある名称です。

 

  • 八日僧(ヨウカゾウ)。

ヨウカドウともいいます。8日に来る小僧だからでしょうか。横浜市や川崎市で伝わっています。横浜市港北区太尾町の八日僧は、ひとつ目どころではなく、なんと1000の目を持っています。12月8日にやって来て、屋根の上を通りながら1000の目で睨むので、人々は屋根に目籠を出したといいます。はたして、目籠の目は足りたのでしょうか。『神奈川県史 各論編5民俗』にある妖怪です。

 

  • ヤツメコゾー

横浜市港北区青砥町に伝わるもので、こちらは8つの目を持つ小僧です。8日に来るものだから目を8つにしたのでしょうか。『民間伝承』十四巻六号掲載の稲垣純男氏の論文に見られるもので、こちらは一体だけでなく、「ミカリバアサマ」という妖怪と一緒に来るといわれています。

 

そうなのです。事八日の夜に来るものは、小僧だけではありません。

「ミカリバアサマ」「ミカワリバアサン」「メカリバアサン」などと呼ばれる婆さんの妖怪と一緒に来ることもあれば、それぞれが単体で来ることもあります。

このバアサンについては、また機会があればお話ししたいとおもいます。

文・絵=黒史郎

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