未確認飛行妖怪テン吊リオロシ/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(毎月更新)! 連載第6回は、現在ならUFO現象の一種とも解釈できそうな、妖怪による怪異をご紹介します。

 

UFОか妖怪か

ひと気のない夜道をひとり、とぼとぼと歩いていますと、ふと、いやなことを思いだしてしまいます。このあたりではよく子供が神隠しに遭うそうです。神隠しといっても、それは山から来た天狗の仕業かもしれませんし、人を喰らう鬼婆なのかもしれません。おお怖い、おお怖い、と歩みを速めますと突然、白い光が頭上から降り注ぎます……。

もし、このような光景を見たら、私たちが真っ先に思い浮かべる言葉は「UFО」「未確認飛行物体」などでしょう。ですが、そのような言葉が使われていなかった時代は、こういった怪しい光は「鬼火」「狐火」といった妖怪的な火であり、人魂や神様の光として伝わりました。

今回は時代が違えば呼ばれ方が違っていただろう不思議なものをご紹介いたします。

tenduriorosi2

  • テン吊(ヅ)リオロシ

映画『七人の侍』でデビューされた俳優の土屋嘉男氏が、著書『思い出株式会社』で書かれている体験です。小学2年生のころ、お祭りから帰っていた夜、自宅付近にあった大きな屋敷の前を通った時でした。屋敷の門前に生えていた大きな楠(くすのき)のてっぺんから、サーチライトのような激しい光が降り注ぎました。木のあたりは真昼のように明るくなり、枝が大きく揺れます。大急ぎで逃げ帰って父親に話すと、それは「テン吊リオロシ」だといいます。昔このあたりに住む若い男が、夜に大木のそばを歩いていると、空から降り注ぐ激しい光に吸い上げられ、そのまま空へと連れていかれて二度と帰ってはこなかった、という伝承があるのだそうです。それを昔は「テン吊リオロシ」と呼んだといいます。山梨県でのお話です。

この他にも土屋氏は昭和11年に空を飛ぶハシゴを見ています。まだUFОという言葉のない時代でした。

 

天より下りたる怪

「テン吊リオロシ」と名前の似た怪異がいくつか伝わっております。

  • 足もとコロリン天吊し

山梨県で起きた怪異です。諏訪神社の境内に大木がありました。夜、この木の下を通ると足元がパッと光り、この時に驚いて転ぶと頭上から大きな化け物が下りてきて一瞬で吊るし上げてしまいます。これは上からではなく、足元が光るという変わった怪異です。

  •  天づるし

これも山梨県の怪異です。ある家では、夜になると天井から小さな子供のようなものが、たびたび下りてきました。神主が祈祷するともう下りてこなくなったそうです。こちらの「天」は天井ですが、空の「天」から下りる子供のようなものでしたら、今ならグレイと呼ばれていたかもしれません。

「足もとコロリン天吊し」と「天づるし」は、どちらも北巨摩郡教育会発行『口碑伝説集』にあるもので、「テン吊リオロシ」と同じ山梨県のお話しです。

  • ティンナビ

鹿児島県大島郡に伝わるものです。天から降りる妖怪で、樹木の生い茂る場所に出るといいます。これが出るときには、木の枝から血が滴るそうです。どのような姿かもわからず、枝から血を流すという、よくわからない妖怪ですが、植物に害を与えるものが空から下りてくるというのは、何かを想像できそうです。『和泊町誌(民俗編)』にあるお話です。

  • 月の輪

岡山県久米郡には、月が田に下りて休む、という伝承があります。同郡では、夜の水田で月の輪が見えるといわれ、月の輪の形に草の生えない場所があり、畑の作物が月の輪状に悪くなるといったことが伝わっております。下りてきた月、月の輪状に草が生えないなど、ミステリー・サークルを思わせます。岡山文庫『岡山の伝説』に見られます。

  •  チューコ

もうひとつ、岡山文庫『岡山の怪談』から不思議な日の話を紹介します。邑久(おく)郡には、雨の夜に提灯ほどの火が灯りました。宙を飛びますが、地に降りると大きく広がって少し明るくなり、そのまま消えてしまいます。また、これは飛んでいるときに人の声が聞こえるとスーッと逃げていってしまうそうです。そばに寄ると鳥のように空へと素早く逃げたという話もあります。燐火なら逃げるのはおかしいので正体不明といわれています。

かつての〝UFOブーム〟当時の本。妖怪テン吊リオロシはUFO現象なのか?(黒氏私物)
かつての〝UFOブーム〟当時の本。妖怪テン吊リオロシはUFO現象なのか?(黒氏私物)

文・絵=黒史郎

  • 1

この記事と同じトピックを探す

関連記事

編集部おすすめ

アクセスランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • トータル