だれしもの日常生活に起こりうる! 実録「奇ッ怪事件」

文・イラスト=西浦和也

西浦和也が集めた実話怪談

職場で、住んでいる部屋で、あるいはたまたま訪れた場所で、不思議な現象に遭遇してしまうことがある。

怪談蒐集家のもとに集められた、何気ない日常に潜む奇怪な出来事を紹介する。

 

もってかないで

都内近郊の警備会社で働いている森田さんは、T市役所の夜間巡回を担当している。

昼間は多くの来庁者で賑わう庁舎も、ひと気の消えた真夜中は恐ろしいほど静まりかえってしまう。

住民課、税務課、福祉課……それらの表示の並んだカウンターの内側には、薄明かりの中、どれも同じにしか見えないデスクが整然と並んでいる。カウンター越しにそれらに視線を送りながら巡回していると突然、“ピーピーピー”とカウンターの内側から甲高い音が鳴り響いた。

突然のことに一瞬たじろいだが、カウンターの中を覗くと、つけっぱなしになった1台のパソコンが音を立てているらしい。彼は「土木建築課」と書かれたカウンターの隙間から中へ入ると、パソコンに近づいていった。音は止む様子もみせず、一定のリズムを繰り返しながら鳴りつづけている。

おそらく故障でも起きたのだろう。急いでパソコンの管理者に連絡しないといけない。森田さんは、各課の緊急連絡先の書かれた手帳を取りだした。

と、そのとき足元で何かがゴトンと音を立てた。見ると、床に置かれたビニール袋から転げ落ちたペットボトルのジュースが何本も転がっている。しゃがみ込んで拾い上げると、どれも埃を被って白くすすけている。

「なんだこれは?」

ビニール袋にジュースを戻そうと中を覗き込むと、茶色く偏食し土に戻りかけた花束らしき残骸と、〈てんごくのともちゃんへ〉と書かれた封筒が見えた。

ぞっとなって、反射的にビニール袋を放り投げた。次の瞬間、森田さんのすぐ背後で、

「おじちゃん。あたしのもの、もってかないで……」

幼い少女の声がした。パソコンの音はいつしか止んでいた。

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メイド喫茶

秋葉原の中心地から少し離れた雑居ビルの5階に丸岡さんの会社はある。以前は店舗の少ない静かな地域だったのだが、ここ十数年あまりのアキバブームで商業地域は拡大し、丸岡さんの会社が入るビルのテナントも、今や大半はそうしたアキバ系のショップとなっている。

その夜丸岡さんは、溜まっていた事務作業にひとり追われていた。気がつけば終電はとっくに終わっている時間。しかも書類はまだ半分以上も残っている。

「こりゃ、今夜は徹夜だな」

腹をくくった彼は、コートを羽織ると夜食を買いにコンビニへ向かった。

夜食を仕入れ戻ってくると、丸岡さんは事務所のドアを開け中へと入った。すると突然、

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

胸のラインを強調したオレンジ系のメイド服に身を包んだ女の子が、お辞儀をしながら彼を出迎えた。

「あれ?」

女の子はニコニコと営業スマイルを浮かべながら、丸岡さんの顔をじぃっと見つめている。驚いて周りを見渡すと、そこは床から天井まで、明るいオレンジ色に統一されたメイド喫茶。奥のほうからは別のメイドが歌う、少し調子の外れたアニメソングが聞こえてくる。

「あ、いや……すみません、間違えました」

慌てて一礼すると、丸岡さんは店から飛びだした。バタンと音を立て鉄の扉が閉まる。途端にさっきまでの賑やかな雰囲気は一瞬で静寂に変わる。

(フロアを間違えたのかな?)

もう一度扉を見直した。そこには間違いなく自分の会社の名前が記されている。狐につままれたような心持ちで、恐る恐るノブを握ると、丸岡さんはもう一度ドアを開けた。扉の奥にはコンビニへ行く前と変わらない、見慣れた事務所があった。

その夜以来、丸岡さんは夜食を買いに出るたび、また事務所があのメイド喫茶に変わっていないかと、少し期待するのだそうだ。

 

(「ムー」2017年4月号 2色刷り特集「実録! 奇ッ怪事件譚」より抜粋)

文・イラスト=西浦和也

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