灯を取る怪異/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第11回は、ホラー映画でよくある、都合よく明かりが消えて暗くなる怪異……そんな現象から補遺々々しました。

 

明かりを奪われる恐怖

暗い森の奥に、ひっそりとたたずむ無気味な廃屋。懐中電灯のたった一筋の光で、慎重に闇を切り開きながら、おそるおそる廃屋の奥へと歩みを進める。闇を蹴散らしてくれる頼もしい光……それが今、弱々しくしぼんでいき、明滅し、そして……消えてしまう。絶望的な闇が視界をふさぐ。鼻先に立たれてもわからぬほどの闇の中から、何者かの息遣いが聞こえる――。

暗い場所で光を失うという状況は、ホラー映画でよく使われています。わざわざ光を奪う理由は、暗闇とは、不安や恐怖を呼び込む最大の演出だからです。また、暗闇は魔のはびこる領域。彼らが活躍するのに最適の環境なのです。

そのようなホラーな状況でなくとも、私たちは普段から明かりに頼りきって生きているので、それを突然、奪われてしまうとパニックを起こしてしまいます。明かりは私たちにとって重要なライフラインのひとつなのです。

それは昔も同じです。夜の脅威から身を守るため、明かりは欠かせないものでした。ただでさえ不安な夜間の移動時、突然、提灯の火が消えてしまったら……。たとえそれが風によるいたずらであったとしても、怪(あやし)のものの仕業かもしれないと戦慄したのです。

kaii_kurosirou2

 

灯取りの怪

光を奪う怪異は、あらゆる文献に見られます。

もっとも知られる灯取りの怪は「火取魔(ひとりま)」ではないでしょうか。その名のとおり、火を取ってしまう魔物のことです。

石川県江沼郡山中町(現在の加賀市)の蟋蟀橋(こおろぎばし)の近くに、姥(うば)の懐(ふところ)という場所がありました。この近くを夜間に通ると、提灯の火がスーッと細くなってしまいます。ですが、通りすぎてしまえば、また提灯は明るくなるのだそうです。この不思議な現象は「火取魔」の仕業とされていました。なんとなく名前は怖いですが、速足で駆け抜けてしまえばなんとかなりそうですね。

高知県に伝わる「ヒタタキ」も「火取魔」の一種ですが、こちらはしつこい性格です。道端に現れる妖怪で、提灯を追いかけて火を消してしまうのです。火を叩いて消すので「ヒタタキ」なのでしょうか。追いかける上に叩くなんて、乱暴な妖怪です。

同県の高知市には「ヒタタキ」の他にも、ちょっと変わった灯取りの怪が伝わっています。

桂井和雄著『土佐の伝説』に見られる「種崎の灯とり墓」です。

壽仙院(じゅせんいん)という寺の西方にある、田所丹波守(たどころたんばのかみ)の墓の付近を通ると、なにものかが提灯の火を取りにくるので必ず明かりが消えてしまうといいます。また、この墓のそばに生えている木に触れると身体のどこかが痛み、墓の付近で畑を作ると病気になるといわれています。火どころか、命まで取られかねない危険な場所のようです。

このような灯取りの怪は、動物が正体であると伝えている話もあります。その代表は狐ですが、中山三柳著『醍醐随筆』には、意外な火消しの怪が書かれています。

福岡県のある武家の屋敷で起きた出来事です。この屋敷では用心のため、夜通し行灯を灯していました。ところが真夜中になると必ず、行灯の火が消えてしまいます。どんなに油を多くし、灯心を太くしても、真夜中になると火は消えてしまうのです。これはただごとではありません。

そんなとき、ある勇敢な者が名乗り出て、ひとりで火の番をすることになりました。彼は火を消す怪しのものの正体も暴くつもりでした。

そして、いよいよ火が消されてしまう時刻になります。「化け物をとらえたぞ!」という声が屋敷中に響きわたります。駆けつけた屋敷の従者たちは驚きました。毎晩、火を消していた化け物の正体は、なんと大きな梟(ふくろう)だったのです。鼠(ねずみ)を捕食しようと屋敷の広間へ飛び込み、その際、羽ばたく風によって火を打ち消していたのです。

 

文・絵=黒史郎

  • 1

この記事と同じトピックを探す

関連記事

編集部おすすめ

アクセスランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • トータル