モホーク族最高位のシャーマンが祈りを込めた「ドリーム・ヴィジョン・ボックス」

文=高田篤志

モホーク族の神具が導いた再会と大金

 

「私は、一夜にして億万長者になりました」

こう語るのは、メキシコ生まれのパサマさんだ。

パサマさんは、家の貧しさゆえ、苦しい人生を歩んできた。10代のころ、家計を救うために身売りを余儀なくされ、幼い妹も同じ目にあうのではないかと心配しながら家を離れた。

成人後、妹の安否を確認するため故郷を訪ねたが、家族はその数年前に引っ越し、生家には見知らぬ家族が暮らしていた。引っ越し先の町で調べた結果、両親はすでに病死し、妹の行く先は不明であった。

どうすればよいのか途方に暮れていると、親しい友人が声をかけてくれた。

「私の師匠に会ってみない? 力を貸してくださるはずよ」

師匠というのは、アメリカ先住民モホーク族のシャーマン、コヤバ・ディバ師であった。シャーマンの最高位「ワカン」に就任していたディバ師の仕事を手伝いながら、その友人は修行をしていたのである。

コヤバ・ディバ師(右)と、先代のワカンだったノボルカウィ師。
コヤバ・ディバ師(右)と、先代のワカンだったノボルカウィ師。

 

パサマさんは、藁にもすがる思いでディバ師と対面し、これまでの経緯を話した。するとディバ師は、ワカン就任の際に最長老から授けられた神具「ドリーム・ヴィジョン・ボックス」を手渡し、こういった。

「紙にあなたの願いを書き、この羽で3回なでてから箱に入れて、しばらく待つのです」

ドリーム・ヴィジョン・ボックス。
ドリーム・ヴィジョン・ボックス。

 

パサマさんは、「妹と再会できますように」と書いた紙を羽で3回なで、箱に入れた。

その6日後、朗報が届いた。生家の近所の住人から、「妹さんが数年ぶりに訪ねてきた」と連絡が入ったのだ。ふたりは涙ながらに再会を果たした。

妹は、その数日前に、パサマさんが自分を捜す夢を見たという。ドリーム・ヴィジョン・ボックスの力に違いないと、パサマさんは感じた。

姉妹は、お礼を述べるためにふたたびディバ師を訪ねた。するとディバ師は、ふたりで旅行することをすすめ、妹にもドリーム・ヴィジョン・ボックスを使ってみるよう助言した。

妹は、「姉と楽しく暮らしていけるだけのお金を手にできますように」と書いて箱に入れ、ふたりで旅行に出かけた。

旅先で姉妹は、生まれてはじめてカジノで遊ぶことにした。

すると、驚いたことに「当たり」がつづき、一夜にして1億円もの大金を得たのである!

 

聖なる木と羽の神具

 

願望を実現し、財をもたらすドリーム・ヴィジョン・ボックスは、シャーマニックな伝統を誇るモホーク族にとっても、非常に貴重な神具だという。

なぜなら、神具を持つことが許されるのは、モホーク族最高位のシャーマンであるワカンのみだからだ。

先代のワカンが逝去し、新しいワカンが選出されると、長老たちの話しあいによって神具が決定される。ディバ師がワカンに就任した際、ドリーム・ヴィジョン・ボックスの授与が発表されると、その場にどよめきが起こった。というのも、これまではほとんどの場合、悪い精霊を祓う武器のような神具が授与されてきたのだが、ディバ師の神具は、夢を実現するという性質のものだったからだ。

素材となる聖木パロサントにも注目が集まった。パロサントは「神の木」という意味で、その場を浄化し、幸せを招くといわれている。中南米に自生する木だが、モホーク族では、ワカンが逝去したときのみ伐採することが許されている。

願いを記した紙をなでる羽は「サンク・ウィング」と呼ばれる。モホーク族では、長生きした鳥には精霊が宿り、空から幸運や財を運んでくると考えられている。そのなかでも、とくに力の強い鳥の羽からつくられたものだ。

つまり、ドリーム・ヴィジョン・ボックスは、いくつもの呪術を重ねがけしたようなアイテムなのだ。パサマさんの幸福もまた、その賜物といえよう。

ニューヨーク州北部のセント・レジス。モホーク族最大のコミュニティーがある。
ニューヨーク州北部のセント・レジス。モホーク族最大のコミュニティーがある。

 

(ムー2017年9月号より抜粋)

文=高田篤志

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