ニセ記憶による歴史改竄!? マンデラ効果都市伝説

文=宇佐和通

マンデラは獄死したという記憶

“マンデラ効果”という、昨今ネットを騒がせている旬なワードをご存知だろうか。まずは言葉自体の定義を簡単に行っておきたいと思う。

マンデラ効果とは、多くの人々が実際には起きなかった出来事に対する明確な記憶を有している、あるいは重要な出来事や事実を明らかに間違った形で記憶している状態を意味する。転じて、世界レベルで多くの人々がFalse Memory=虚偽記憶を常識や史実として受け容れている状況を説明する際にも使われる。

南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラ氏が1980年代に獄死したと“明確に”記憶している人は、意外に多い。しかし実際は、27年間にわたる獄中生活の後1990年に釈放されて1994年に大統領に就任し、亡くなったのは2013年12月だ。どんな手段であれ、あえて確認など必要のない明らかな史実のはずだ。しかし、実際はそうはいかない。

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マンデラ効果という言葉を生み出したのは、超常現象研究家のフィオナ・ブルームという人物だ。専門分野は心霊現象で、著書も14冊出している。

彼女が2010年の「ドラゴン・コン」(SFとゲームの見本市)に出展者として参加した際、信じられないくらい多くの人がマンデラ氏の死について記憶違いをしている事実に気づいた。しかも、記憶違いの内容まで一致している。

ブルーム自身の中にも、マンデラ氏の死を伝えるニュース映像や新聞記事を鮮やかな記憶として残っていた。しかしマンデラ氏は当時まだ生きていたので、世界中を駆け巡ったはずのニュース映像など存在しえなかった。彼女を含む多くの人々が、起きてもいないことを史実として認識していたのである。

この現象に関する仮説はさまざまあるが、有力なのは「パラレルユニバース説」と「意図的に埋め込まれる偽記憶説」である。本稿では、後者について詳しく掘り下げていきたい。パラレルユニバース説よりも有力な論拠となりえるものがあると感じられるからだ。

 

取るに足りないことの怖さ

話をブルームに戻そう。後に自らがマンデラ効果と名付けた現象に強い興味を抱いた彼女は、すぐに「マンデラエフェクト・ドット・コム」というウェブサイトを立ち上げた。このサイトに寄せられた多くの書き込みから、驚くべき事実が明らかになる。多くの人々が記憶違いをしていたのは“1980年代のマンデラ死去”だけではなかった。いかなる時代区分においても、さまざまな分野においてマンデラ効果的な事例が見られることがわかったのだ。

たとえば、1989年の天安門広場事件では戦車にあらがったデモ隊の人が戦車に轢かれたと言い張る人がたくさんいた。こうした“事実”は学校で教わったと主張する人も含まれていたくらいだ。マンデラ効果の実例をもう少し紹介しておこう。

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  • ・ボードゲーム『モノポリー』のロゴのおじさんは、片眼鏡をかけている。
  • ・1998年スタートの大ヒットドラマのタイトルは、『セックス・イン・ザ・シティ』である。
  • ・ポケモンのピカチュウの尻尾の先端は黒い。
  • ・ミッキーマウスはサスペンダーを愛用している。
  • ・映画『フォレスト・ガンプ』の名セリフは“Life is a box of chocolate”である。

事実は、いずれも「ノー」である。「そんな取るに足らないことがマンデラ効果なのか」と言われそうだが、もちろんこの程度の事例が本質ではない。こうした取るに足らないことの向こう側に、黒い霞のようなものが広がっている。

黒い霞のようなものという表現を使った理由は、マンデラ効果がインターネットを媒体とした心理操作であり、新・集団的無意識あるいは代替現実を創出するプロセスであるとする陰謀論が存在するからだ。

マンデラ効果の向こう側にあるのは、意図的に生み出した代替現実の中に人類の意識を閉じ込めようとする計画かもしれない。こういう言葉遣いをすると、筆者自身がすでに陰謀論者のレトリックにはまっていると思われてしまうだろうか。

 

記憶のメカニズムを操作する

マンデラ効果はミーム(meme)であると唱える人がいる。ミームという言葉は、ウィキペディアでは次のように定義されている。

“人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報であり、例えば習慣や技能、物語といった人から人へコピーされる様々な情報を意味する科学用語”

実際には起きていないこと、存在しないものに関する偽情報としてのミームが事実として受け容れられるようになる絶妙なタイミングがあるようだ。そのタイミングを計っているのは誰なのか。それとも、“何か”なのか。

“〇〇死亡説”といった都市伝説めいた話も、ミームの例として挙げられると思う。少し前、ハリウッドスター死亡説が世界中を駆け巡ったことがある。日本でも大物お笑い芸人や女性タレントなどが亡くなったという噂がインターネット上で流れ、関係者のコメント付き記事までアップされた。

名前を出された有名人にとってはきわめて迷惑な話だろうが、この種の噂が広がるメカニズムには人間の脳の働き方の奇妙さが関与している。コンピューターより優れた独自の処理能力があるが、記憶の正確性となるとあやふやな部分があることが否めない。虚偽記憶が入り込む隙間は、その部分に生まれる。

それに、群集心理という要素もある。嘘であっても、それを信じる人間の絶対数が一定に達すると、虚実が事実や史実に変わっていくプロセスの歯車が回り始める。

「個人の鮮明な記憶の内容が、事実や史実と著しく反する状態に起きるもの」

マンデラ効果について、ブルーム自身はこう語っている。こういう言い方をしたこともある。「ある事実に関する、同期しない記憶が、実際は起きていない出来事につながってしまうのは、並行宇宙あるいはパラレルユニバースと呼ばれるものの作用を受けるからだ」

いかにも超常現象研究家らしい解釈といえなくもない。

 

マンデラ効果とAIの暴走

ジョン・タイターという名前に聞き覚えがある人は少なくないはずだ。2000年11月初頭、インターネット上に突如として現れた自称“2036年からやってきたタイムトラベラー”である。さまざまな掲示板への書き込みと多くの人々とのチャットを通じて、時間旅行理論や未来に関する事実、そして自らが未来からやってきた証拠を示していった。

ジョン・タイターのタイムマシンとされるもの。
ジョン・タイターのタイムマシンとされるもの。

ジョン・タイターが語っていたのは、タイムマシンやタイムトラベルについてだけではない。パラレルユニバースの概念についても触れて、「ヒュー・エベレットの概念は正しく、時間の異なる別の世界は無限に存在する」と語っている。

パラレルユニバースが無限に存在するなら、ひとつの史実に関する事実も、無限にあるそれぞれの世界に無数に存在することなる。

筆者は、こう思うのだ。ジョン・タイターとは、ラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンが理想としたタイプのAIが創り出したアバターのような存在ではなかったか。生身の人間が、たとえ今のわれわれには想像もつかないような洗練されたタイムマシンを使ったとしても、物理的な形で時間と空間を自由に行き来できるとは考えにくい。

しかしAIが自ら考え、何の疑いもなく誰もが利用する検索エンジンをプラットフォームにして、特定の意図を多くの人々に刷り込もうとしたらどうだろうか。あるいは、そう遠くはない将来の時点でそういう過程を成功させるための実験を行っていたとしたら……。

自ら進化したAIが意図的にマンデラ効果を生み出しているのか。それとも、誰かがAIを使ってマンデラ効果を管理・操作しているのか。ここで結論を出してしまおうと試みるのは性急だろう。

 

(ムー2017年9月号より抜粋)

文=宇佐和通

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