恵みか罠か怪しき食べ物/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第15回は、随筆に伝えられる奇妙な妖怪事件を補遺々々しました。

 

天からのめぐみ?

空から降るものは雨や雪や星だけではありません。

魚、カエル、作物、菓子、動物の毛といった、通常は降るはずのないものが大量に降ってくる、そんな現象は世界各地で古くから記録されています。それらの原因として竜巻、飛行機や鳥からの落下物などがあげられますが、いずれの説も確かな根拠に基づくものではなく、まだ謎の多い現象なのです。

有名な天から降る異物といえば、「エンゼル・ヘアー」ではないでしょうか。

「天使の髪」と呼ばれるこの不思議な糸状の物質は、長さが2メートルに及ぶものもあり、しばらくすると消えてなくなってしまいます。UFОが目撃された後に降ったという記録もありますから、むやみに触れてはいけないものなのかもしれません。

そんな空から降ってきた怪しい物を食べてしまったという話があります。

加州(現在の石川県南部)の鶴来というところで起きた出来事です。

この年は大飢饉に見舞われ、飢えに苦しむ人々は神仏に祈ることしかできませんでした。そんなある日、突然、空が曇りだし、「石のような真っ白いもの」が天から降ってきました。

人々は天の恵みだと思ったのか、あるいは口に入るものならなんでもかまわないと必死だったのか、なんとこれを食べてしまいます。

するとどうでしょう、「石のような真っ白いもの」は乳のような甘みがあり、食べられるではありませんか。

こうして天から降ってきた不思議なもののおかげで、多くの命が救われたといいます。

『北国奇談巡杖記』ではこれを「石麪(せきめん)」というものの類だろうと書いています。

奇跡と呼ぶべき不思議な現象ですが、こういうものはたびたび降ったのだそうです。

 

食べるかどうかは自己責任

本所(東京都墨田区)南割下水には毎晩、蕎麦の屋台が出ていました。

しかし、この屋台は明かりがついておらず、人の姿もありません。行灯に火をつけてもすぐに消えてしまいます。そうして屋台と関わってしまうと、後に必ず凶事があったといわれています。江戸本所七不思議のひとつ「あかりなし蕎麦」という怪異です。

当時の蕎麦は今のラーメンのように、気軽に寄って食べられる大衆食の代表です。そうして人々が求め、集まるものには自然と奇妙なウワサは生まれるものです。古い文献には「タニシの肥やしで作った蕎麦は毒」「蕎麦をたくさんたべて風呂に入ると死ぬ」「蕎麦を食べると死ぬ」といった蕎麦にまつわる怪しげな俗信も見られます。

蕎麦でもうひとつ。大田区で採集された「どこまで行っても蕎麦の山」と題された実話です。

話者の母親が昔、山で何かに化かされ、どんどん奥深い場所へと入ってしまいました。ただ迷わされたのではなく、歩いても歩いてもたくさんの蕎麦があって、なかなか歩けずに困らされたというのです。

こういった山で起きる怪事は、たいてい狐狸の仕業とされています。狐が人を化かし、蕎麦だといってミミズを食わせようとした話もありますから、いくら空腹でも得体の知れない蕎麦には手を付けないほうがよさそうです。

 

最後は『西遊記 続編』巻四にある「豆腐怪」という不思議な話です。

薩摩国の今泉という場所で、ある朝、数百丁の豆腐が街道に棄てられているということがありました。10丁、20丁ずつ、うずたかく積まれています。自分の家の門前にあるのを見た人たちは何者かの悪戯だろうと憤りましたが、同様のことが他でも起きていると知り、これはただごとではないと大騒ぎ。狐狸の仕業ではないかと、怖がって触らない人もいます。

さて、昼になり、夜となり、これといった怪しいことも起こりません。

これはただの豆腐だということになり、みんなで持って帰って煮て食べましたが、祟りのようなことはなかったということです。

後に近くの村にある豆腐屋を調べましたが、こんなにたくさん豆腐を買った家はありません。これだけの豆腐をいったいどこから取り寄せ、そして、どうしてこんな奇妙な捨て方をしたのか、多くの謎が残る怪事です。

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文・絵=黒史郎

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