鵺の正体は巨大なレッサーパンダだった!? 妖怪古生物学で検証!

文=元城 健

妖怪は空想の産物ではない!?

妖怪として描写されている存在は、実在する動物だったのではないか―― と考える気鋭の古生物学者がいる。現在、兵庫県丹波市を中心に活動している荻野慎諧さんだ。

荻野さんが提唱しているのが“妖怪古生物学”である。妖怪やUMAとして扱われる存在が記録された文献を丁寧に読み解き、実像を探ろうというもので、とくに西洋からサイエンスという言葉が輸入される前の、江戸時代以前にまとめられた記述が興味深いという。

歌川国芳「木曽街道六十九次」に収められた「京都 鵺 大尾」。
歌川国芳「木曽街道六十九次」に収められた「京都 鵺 大尾」。

荻野さんが正体の解明を試みた妖怪のひとつが“鵺”である。『古事記』、『平家物語』などにも登場する鵺はさまざまな動物の特徴を組み合わせた外見で、いかにも妖怪らしい。

『平家物語』でのエピソードを簡単に紹介しよう。

――平安時代末期のこと、近衛天皇が暮らす宮中の清涼殿に、毎晩のように鵺が出現したという。どこからともなく聞こえてくる鳴き声に恐怖を感じた天皇は滅入ってしまい、病を患ってしまった。

そこで、弓の名手として知られた源頼政が鵺退治を命じられた。頼政は山鳥の尾で作った矢で見事に鵺を射て、最後は家来の猪早太が刀で9度突き刺してとどめをさしたという。それからというもの、鵺は宮中から姿を消し、天皇の病も完治したといわれている。

『平家物語』には鵺退治のいきさつだけではなく、鵺の特徴までもが事細かに記されている。それによると、サルの顔、タヌキの胴体、トラのような手足をもち、尾はヘビに似ているという。夜な夜な現れては、「ヒョー、ヒョー」という無気味な声で鳴くことも特徴だ。この鳴き声が“鵺鳥”と呼ばれるトラツグミという鳥に似ていることから、鵺の名が一般化した。

「夜に現れることから夜行性だとわかりますね。宮中の屋根に飛び乗ることができるわけですから、優れた跳躍力をもつ動物といえます。さらに、『源平盛衰記』にも鵺が登場します。特徴はほとんどが『平家物語』と共通しますが、こちらでは尾がキツネに似ていると記されているのです」

荻野さんは『源平盛衰記』に著されたキツネのようだとする特徴に注目する。

サルの顔、タヌキの胴体、トラのような手足、キツネのような尾という条件を満たし、夜行性で跳躍力をもつ動物であれば現在でも合致するものがあるのだ。

月岡芳年「新形三十六怪撰」での鵺退治。
月岡芳年「新形三十六怪撰」での鵺退治。

 

“鵺”の正体はレッサーパンダ

「記述にもっとも近い動物は、レッサーパンダです」

荻野さんが語ってくれた正体は、予想だにしなかった動物だった。

恐ろしいはずの鵺がレッサーパンダと聞いて、拍子抜けした人も多いだろう。しかし図鑑などの姿と照らし合わせれば、荻野さんのいうとおりである。

とはいえ、動物園で愛嬌を振りまいているイメージしか浮かばないレッサーパンダを、本当に平安時代の人々は恐れたのだろうか。荻野さんは続けてこう解説する。

「現在のレッサーパンダの体長は100センチほどしかありませんが、約200万年前まで遡れば、体長約150センチにも達する大型種が生息していたことがわかっています。これは、平安時代の一般的な大人の背丈とそれほど変わりません。猪早太が苦労してとどめをさすに値する、巨大な動物です」

そもそも、レッサーパンダは警戒心が強く、樹上で生活することが多い。夜中であればなおさら、姿を見ることは難しいだろう。体長150センチの異形な動物が夜に宮中の屋根に乗っていたら、どうだろうか。当時の人々が“妖怪”と捉えても、なんら不思議ではないはずだ。

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さらに、描写を冷静に読み解いていけば、鵺にもそれほど恐ろしさを感じないと、荻野さんは指摘する。

「人を怖がらせる目的であれば、サルやタヌキを例に挙げることはしませんよね。もっと恐ろしい動物に例えた方が、はるかに迫力を感じます。鳴き声にしても、トラツグミのような悲しげな声よりも、“オオカミのように吠える”とでも記述した方が、恐ろしさが増すのではないでしょうか。これらのことから、いたずらに恐怖を煽ったわけではないと思えるのです。私には、人里に迷い込んでしまったレッサーパンダが、トラツグミを彷彿とさせる怯えた声で鳴いている光景が浮かんできます」

 

意外に多い 近現代の絶滅動物

絶滅した大型種のレッサーパンダは、現在見られる種の祖先ではない。進化の過程で小型化したわけではなく、あくまでも別種のレッサーパンダである。荻野さんが説明する。

「北半球の広範囲に分布していた何種類かのレッサーパンダのなかで、現在は、小型のものだけがたまたま生き残っているのです」

荻野さんの学説を裏付ける化石が、新潟県で発見されている。約300万年前に生息していたという巨大レッサーパンダの臼歯の化石だ。現在は絶滅しているため、その容貌を確認することはできない。しかし、確実な生息記録が日本にあることは、大きな確証といえるだろう。

とはいえ、『平家物語』がまとめられたのは、時代がぐっと下って約800年前のことだ。残念ながら、この時代の骨などは発見されていない。太古の動物が、この時代まで生息していた可能性はあるのだろうか。

「大型種のレッサーパンダが、いったいどの時代に絶滅したのかは定かではありません。しかし、仮に人類の時代まで生き延びていたとしても、なんら不思議ではありませんよ。たとえば、ニホンオオカミが明治時代、ニホンカワウソが昭和時代の後半と、近現代に入ってから絶滅した種もたくさんいます。ほかにも、オオヤマネコは全国から化石の報告がある動物ですが、現在は離島にしか生息していません。動物の絶滅は、ひょんなことで起こりえるものなのです」

 

未知の生物が記録されている

鵺の正体がレッサーパンダという説は、インターネットやSNSで大きな反響を呼んだ。昨年、荻野さんはある雑誌の取材で博物学者の荒俣宏さんとともに、河童の伝説が残る新潟県を訪れた。取材を通して、新たな仮説が生まれることも少なくないそうだ。

「一般的に知られる河童は緑の身体を持ちますが、江戸時代以前には赤く描かれることもありました。ちぎれた腕が再生されるという特徴も有名ですね。これらの特徴は、アカハライモリというイモリによく似ています。水中で生活する点も、両生類の性格と合致するのです。これは現地でお話をうかがうなかで、浮かんだ発想のひとつです」

河童の例のように、妖怪として知られている存在には、身近な生物によく似た特徴を有するものがまだまだあるかもしれない。

妖怪のみならずUMAとして認知されている謎の存在も、大型種のレッサーパンダのような絶滅動物か、はたまた新種として記録されていない生物であってもおかしくはない。荻野さんによると、すべてが実在すると断定はできないものの、可能性もゼロではないとのことだ。絶滅動物や未知の生物のなかには、現在、われわれが目にする生物とは姿かたちや大きさまでもが、極端に異なる種も珍しくないためである。

ジャイアントパンダですら、しっかりと存在が確認されたのは20世紀に入ってからのことだ。新種の動物は今なお世界中で発見されている。日本はもちろん、世界には人類が踏破していない土地が依然として存在する。そんな場所にこそ、だれも知らない動物が生息している可能性があるだろう。妖怪古生物学は、未知の生物の謎を解明する手がかりになる学問なのだ。

 

(「ムー」2017年10月号「鵺の正体は巨大なレッサーパンダだった!?」より抜粋)

 

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