数字の「八」にまつわる妖怪/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第16回は、漢数字「八」に関係する妖怪を補遺々々しました。

 

数がなにをあらわすのか

妖怪の中には名前に「漢数字」の入っているものがあります。「一つ目小僧」「一本だたら」「三つ目入道」のように多くは目の数や脚の数など、その妖怪の姿・形に関係していますが、「七人みさき」「七本鮫」のように現れる数を表しているケース、「権五郎火(ごんごろうび)」「弥三郎婆(やさぶろうばばあ)」といった数量とは関係のないものもあります。

とくに多いのは目の数を表す名前でしょう。通常、人の目はふたつ備わっているのですから「二つ目小僧が出た!」とはいいませんし、いわれてもピンときません。ですが、それ以外の数の目を持っていた場合は違います。一つ目では足りませんし、三つ目、四つ目では多いので、そういう者と真夜中にバッタリと出遭ってしまったら「すわ妖怪」となるのです。

このように名前の中に数を入れることで姿・形を表している妖怪は、名を見聞きするだけでその姿を想像しやすく、こまごまと説明をされなくとも充分に怖いものだということがわかります。ですから、子供を脅かすときには最適なのです。

ですが、中には数字が入っているために混乱するものもあります。「一つ目小僧」の回でも紹介しましたが、「八日」に訪れる「一つ目小僧」系の妖怪に「八日僧」という変わり種があり、これは「千の目」を持っているという、なんともわかりづらい妖怪です。ここは八つの目の小僧でいい気もするのですが――。

今回は数字にまつわるもの、その中の「八」の数に関係する怪しき存在をご紹介いたします。

 

八の数にまつわる動物たち

わが国の最古の歴史書『古事記』には、すでに「八」と関連する化け物「やまたのおろち」の名があります。これは八つの頭と八本の尾を持つ大蛇ですが、このような「八」と関わりを持つ動物の伝承は各地に見られます。

山梨県北巨摩郡の安都玉村(あつたまむら・現在の北杜市中部)の池には「八つの頭を持つ牛」が住んでいたといわれています。しかし、この池は八ヶ岳が噴火したときに少しずつ埋まってしまい、住みつづけることのできなくなった八つの頭の牛はこの池を飛び出して、長野県南佐久郡八那池の湖水に移り住んだのだといわれています。その池では、水が濁ると雨が降るといういい伝えもあったといいます。八つの頭の牛が人々に報せていたのでしょう。

長野県下伊那郡大鹿村には七不思議が伝わっており、その中のひとつに「八つ鹿」というものがあります。これは山の中で8頭の鹿が揃って歩くという怪異です。これだけでは怪異でも何でもないのですが……これを見た猟師が1頭を撃ち、次の日に同じ場所に来ると、また同じ場所で八頭が揃って歩いています。ここでは何度撃っても、次に来ると鹿は8頭いるという不思議があったのだそうです。

沖縄県には「物いう豚」の話があります。これはある家の主人が唐へ旅に出ているとき、食肉にされようとしている豚が「主人はやがて帰ってきます」と言葉をいって、主人が帰ってくる8年後まで生きつづけたという話です。これは「八年豚の神(ヤトゥウワーヌカミ)」といわれています。

 

高知県の「八」

高知県には「八」のつく妖怪が複数伝わっています。有名なものは民俗学者の桂井和雄氏が著書『土佐の伝説』に書いている「三目八面(さんめやづら)」という怪物でしょうか。

これは土佐郡土佐山村の申山に棲んでおり、その名のとおり、顔が8つあるのに目が3つという奇怪な姿をしております。名前にふたつの数を入れて特徴を現しているものも珍しいのではないでしょうか。
この怪物は森を通る人を捕らえて喰ったので、土佐山の豪族、永野若狭守の弟である注連太夫(しめだゆう)という者が退治したといわれています。この怪物の死骸は隣村にまたがるほどであったといいますから、大きさは相当なものだったということはわかるのですが、顔が8つで目が3つといわれても、それが人のような顔なのか、動物のものだったのか、資料からではわかりません。昭和期に刊行された子供向けの妖怪図鑑などでは8つの人間の生首が集まった姿で描かれていますが、それが何らかの資料に準拠して描いたものか、創作されたイメージであるのかも不明なのです。

同県には8つの頭をもつ狸の話もあります。この「八面狸(やづらたぬき)」は、8つの頭がある狸の化け物です。人々に悪さを働いたので鉄砲の名人に退治されることになったのですが、8つの頭にそれぞれ鍋をかぶって身を守るなど、なかなか知恵のある化け狸だったようです。結局、気を抜いて鍋を脱いだところを撃たれてしまいますが……。8つも脳があれば、もう少しよい防御法が思い浮かんでもいいものですが、数があればよいというものでもないのでしょう。

同県幡多郡山奈村(現在の宿毛市山奈町)では、「八つの顔になる面」というものがありました。天から降ってきたとされるお面で、これは八王子神社のご神体だったといいます。上下左右に開いて8つの顔になるという変わった仕組みを持つ面で、歯はすべて金の総入歯であったといいます。

この奇妙な面は不思議な現象を起こします。ある者がこれを盗みだそうとすると、どんどんと重くなって歩けなくさせたというのです。また、日照りのときに木綿などで面を包んだまま柄杓で水をかけると、たちまち大雨が降ったといいます。近村ではこの面を祀った神社で雨乞いが行われたのを知ると、「大雨になるぞ」と恐れたそうです。

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文・絵=黒史郎

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