三種の神器「八咫鏡」に記されたヘブライ語の謎

文=伊集院卿

小説『聖なる鏡』と八咫鏡

いま欧米の一部のオカルトマニアのあいだで『The Sacred Mirror (聖なる鏡)』というミステリーが話題になっている。

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『THE SACRED MIRROR(聖なる鏡)』。

そのストーリーは、こうだ。

伊勢神宮の神官タイラ・ツトムが何者かに殺され、神宮に伝わる八咫鏡が盗まれる。八咫鏡はアマテラスがニニギノミコトの降臨に際して授けた神鏡である。伊勢内宮に本物が、宮中賢所にレプリカが奉齋されている。

盗難事件は公にはされず、警視庁のヤマシタ警部と國學院大學教授のウィリアム・サンドウェル、そして宮内庁のエージェントであるキャッシー山崎の3人が極秘の捜査にあたる。

サンドウェルはアメリカ人だが、吉田神道研究の権威で國學院大學の教授という設定だ。

宮内庁は影の強大な権力機構で、その実質的トップは書陵部長のキヨノブ・イヘイ。最後に明らかになるが、代々このポストは秦氏の独占で、キヨノブは秦氏の族長である。

宮内庁には秘密警察があり、秦氏=ユダヤ人説を唱えた学者タカムラ(秦氏=原始キリスト教団説を唱えた佐伯好郎がモデルか?)を、自殺にみせかけて暗殺しているが、キヨノブの姪キャッシー山崎にはそのような暗黒面は知らされていない。

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佐伯好郎博士。

この盗難を計画したのは、ダビデの末裔と称するユダヤ人、シャムバーグだった。

盗んだ八咫鏡を紀州沖から船で搬出する計画であったが、ヤマシタ警部はそれを阻止し、いったん八咫鏡を奪還する。しかし運搬途中でタカムラの息子キヘイに横取りされる。シャムバーグはキヘイに取引をもちかけ、八咫鏡を手中にする。

ヤマシタ、サンドウェル、キャッシーの3人組は、太秦の蚕の社に潜むシャムバーグを襲撃し、八咫鏡を再び奪還する。

八咫鏡には「エイエ・エシェル・エイエ」=「我は在て在るものなり」というヘブライ文字が刻まれていた。負傷したシャムバーグは、八咫鏡の正統な所有者は自分であると延々と講釈を垂れる。

キャッシーが叔父のキヨノブに連絡すると、宮内庁の秘密警察が現れ、秘密を知った3人を欺して愛宕山の秘密基地に連れ込み抹殺を謀るが、ヤマシタとサンドウェルが逆襲して射殺。そこへキヨノブが現れるが、揉み合ううちに重傷を負い、死の間際に秦一族の秘密を語る。

これが最後のどんでん返しで、実は、シャムバーグに八咫鏡の情報を流していたのはキヨノブだった。キヨノブはユダヤ人秦氏の末裔として、八咫鏡をイスラエルに返還するという野望と、天皇制の管理者としての職務の板挟みになり、マッチポンプのようなことをしていたのだ――。

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神聖四文字=テトラグラマトン。

 

八咫鏡に隠された謎の数々

著者のベン・ミッドランドはライデン大学で日本研究の学位を取ったオランダ人で、1980年代に数年、日本に教員として滞在したことがあるという。

ただ、宮内庁の秘密警察という設定には無理があり、どうせなら「八咫烏」にしろと思ったが、書陵部長が宮内庁の影のトップという設定はよく考えられている。というのも書陵部は皇室所蔵の文書、古典籍と天皇陵を管理する部書である。表向きは図書館になっているので、たいした部署ではないというイメージだが、八咫鏡とそれにまつわる文書を管理するなら、この部署以外にありえない。

この小説は、八咫鏡の裏面にヘブライ文字が刻まれているという一種の「都市伝説」をテーマにしているわけだが、筆者がこの噂を耳にしたのは、かれこれ40年以上も以前、つまり1970年代のことである。

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八咫鏡のスケッチ。

当時は「ムー」などなかったから、一般の人が『竹内文書』や「日本ユダヤ同祖論」といった、メインストリームから排除された異端の歴史セオリーに触れる機会はほとんどなかった。

彼らは各地で小さな秘密めいたサークルを作っていたが、蛇の道は蛇で、筆者はそういう会合のひとつに出席を許された。

そこで、年配の老人が、宮中賢所の神鏡の裏に古代ヘブライ文字で、「エイエ・エシェル・エイエ」(我は在りて在る者なり)という言葉が刻まれていると唐突に語りだしたのが、この噂を聞いた最初である。

しかし、いったいだれがそれを見たのかと質問しても、老人は、口をもごもごさせながら、宮中関係者はみんな知っていると答えるのみであった。

だから筆者はよくある与太話の類かと思ったが、ある人が、有名なクリスチャンである賀川豊彦から聞いたと答えたことで興味をもち、この奇怪な伝説のソースを追跡することになった。

その過程で『歴史の裏側/日本史上の奇談発掘』という発行年月日不明のガリ版刷りの冊子と出会った。著者は神田孝一という人で、「心の科学会刊」となっていた。その中に「神鏡の裏にヘブライ文字」と題してこの八咫鏡の話が、やや詳しく紹介されていたのだ。

それによれば、この噂は早くから囁かれていたが、「きよめ教会」の牧師である生田目俊造が昭和23年5月10日の「きよめの友」に「神秘日本」と題してその真相を発表し、ついで28年1月の英字紙にそれに関する三笠宮の談話が掲載されてからは、「単なる噂の域を出てしまった」ということであった。

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(ムー2017年12月号 特集「三種の神器『八咫鏡』とヘブライ語の謎」より抜粋)

文=伊集院卿

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