夜の豚は危険 鹿児島の豚妖怪/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第20回は、鹿児島県に伝わる豚妖怪を補遺々々しました。

 

見た目はかわいい、でも、こわい

馬、鳥、猫、蛇と、動物の妖怪はいろいろありますが、沖縄や鹿児島にはなぜか、豚の妖怪が多いです。豚というとどうしてもピンクの鼻で、尻尾がクルンとなった愛らしい姿を想像してしまいますが、南島の豚妖怪はけっして愛らしい存在ではありません。

とても怖い豚なのです。

妖怪には「転がるだけ」「洗うだけ」「砂をかけるだけ」といった、ほとんど無害なものも多いですが、この豚たちはその無害そうな見た目に反して、人の命を奪う恐ろしい妖怪です。

今回はそういった豚妖怪の中から鹿児島県に伝わるものをいくつかご紹介いたします。

 

夜の豚

鹿児島県大島郡徳之島町尾母には「ユナウワ」という妖怪が伝わっています。

名前の意味は「夜の豚」。その名のとおり、夜(あるいは夕方)に現れました。

尾母にある「クラシミチ(暗い道)」と呼ばれる小道は、道の両側に竹が密生し、雀榕(アコウ)や榕樹(ガジュマル)といった樹木も育ち放題になっているので昼間でも夜とさほど変わらないくらい暗い場所でした。この道に「ユナウワ」は現れました。

これはチョロチョロと小走りしながら、人に近づいたり、遠ざかったりします。機敏な動きで逃げ隠れしながら、時には地面をころころと転がって人を惑わすのです。この地面を転がるという動きから「ジンモラ(地回り)」とも呼ばれていました。

他にも「ジンムン(地の物)」「クビキリウワ(首切り豚)」といった別称があり、後者の別称から「ユナウワ」の姿は「首のない豚」、あるいは、そのように見えるものであったと考えられます。首がないなんてなかなかショッキングな外見ですが、この「ユナウワ」が恐れられるのはその姿ではありません。人の股の間を潜ろうとする行動です。

この行動は「マタグィリ」といって、これをされた人は命を奪われてしまいます。「マタグィリ」は南島の妖怪に多く見られる特徴で、このような性質をもつ妖怪と出遭ってしまったときの対処法として、足を交差させ、股の間をくぐらせないようにするというのがあります。

「ユナウワ」にも同様の方法が効果的で、足を交差させて立っていれば、くぐるのを諦めるのだそうです。諦めるまで待っていられなければ、両脚を交差させたまま、ぴょんぴょんと跳ねながらその場から去るという方法もあり、また、足を交差させなくても、土手や石などに腰をかけてじっくり通り過ぎるのを待つというのも有効だったようです。

この「ユナウワ」に股の間をくぐられてしまった人がいました。

その人は竹籠にいっぱいのサツマイモを背負って帰る途中に出遭ってしまい、暗さと背中の荷物の重さでとっさの判断ができず、股の間をくぐられてしまったのです。この人は翌朝に高熱を出し、2日目の晩に死んでしまったといいます。

その村では、こういうモノに出遭って高熱が出ることを「カディオーティ(風に遭った、邪神に出遭った)」といって諦めたそうです。

 

殺人豚とイタズラ豚

徳之島町の井之川には、フーシンコと呼ばれる大きな珊瑚岩があり、ここには「ワンクワグワ」という神様がいます。これも怖い豚なのです。

こんな実話があります。

月夜の晩、フーシンコのあたりを中学生たちが歩いていると、フーシンコから畦道に沿って、子豚のようなものが何匹もピョンピョンと飛びだすのを見ました。

「大人がいたら見せるのにね」

そう話しているところにMさんという方の奥さんが通りがかったので、中学生たちは彼女をフーシンコまで連れていって不思議な豚たちを見せました。Mさんの奥さんはその年に亡くなってしまったといいます。

この岩神様は「ミンキラワー(耳切れ豚)」ともいわれています。

龍郷町には「ミンキラウワックワ」という黒い子豚のような妖怪が伝わっています。ふつうの人は視ることができないもので、これに股をくぐられてはいけないといわれています。

同町には「ウワッグワ」というものもいて、これも黒い子豚の姿をしており、股をくぐられると死ぬといわれています。

「ミンキラウワックワ」と「ウワッグワ」は姿も行動も同じですし、名前も似ているので、同じものなのかもしれません。

物騒な豚ばかりを紹介しましたが、最後はそんなに悪いことをしない豚も紹介します。

「クビキリャウワ(首切り豚)」です。

こちらも龍郷町に伝わるもので、その名のとおり首のない豚の姿をしており、子豚くらいの大きさで色は黒かったといいます。トネンジョという場所のあたりに現れ、前に行ったり後ろに行ったりして人の足にまとわりつき、同じ道を何度も巡らせるといった悪戯をします。朝まで同じ木の周りを回らせられた人もいました。まるで狐に化かされたみたいです。

だれにでも視えるというわけではなく、視える人と視えない人がいたそうです。

徳之島町の「ユナウワ」の別称も「クビキリウワ」ですが、こちらのほうは道に迷わせるだけで「マタグィリ」をしないところをみると、どうも同じものではないようです。

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文・絵=黒史郎

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