電気で硬直を解けば美味しい!? 謎の電気肉02/グルメの錬金術師

文=川口友万

凍った固い肉と感電する羊

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「1951年、アメリカのハーシュマンとディサージュ(Harsham and Deatherage)は肉を軟化させるための電気刺激法について特許を出願した。そして電気刺激によって畜肉の死後の解糖とphの低下を促進できるとした。

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エサが十分に与えられていないなど飼育状況が悪いと、筋肉中のグリコーゲンが著しく減少した肉になる。こうした肉はphが高く、保水力が高くなる。これをDFD肉という。

たとえば食肉に塩を加えると筋繊維の結合が緩み、保水力が高まる。合わせて肉のphが上昇する。すぐに食べる場合は肉が軟らかくなるので好ましいが、商品として扱う肉は、一定期間保存する必要がある。保水性が高いということは、それだけ雑菌が増えやすく、腐りやすいのだ。また肉の色が濃い暗赤色で、印象もよくない。

電気刺激法は質の悪いDFD肉中の糖を解糖してグリコーゲンを増やし、質を向上させることができるのだ。

発表当時、彼らの電気刺激法はまるで注目されなかったが、1970年代に入り、一気にメジャーになる。当時、ニュージーランドから輸入される羊肉のコールドショートニング(寒冷短縮)が問題となっていた。冷凍により、肉が異常に収縮し、まずくなるのだ。

なぜ異常収縮が起きるのか?

屠畜した肉をすぐに冷凍すると、筋肉中にATPが大量に残っている。ATPは筋肉の燃料で、筋肉を収縮させる。摂氏5度以下では酵素が働かず、ATPがほとんど分解されない。ATPが残っているので、筋肉は収縮したままになる。これが死後硬直だ。

冷凍羊肉は死後硬直を起こした状態で出荷されるのだ。解凍しても、肉の死後硬直は解けておらず、固いままだ。固い肉はおいしくない。つまり売れない。

では解凍した肉の死後硬直が解けるのを待って、それから売ればいいのではないか? それがそうもいかない。肉を解凍するとドリップが出るのはご存じだろう。肉から染み出す赤い汁だ。冷凍によって筋肉内に氷の塊ができ、繊維を破壊してしまう。肉汁がダダ漏れで、寝かしておけばうま味が抜けて肉のカスしか残らない。

そこで電気刺激法である。解凍直後の羊肉に通電、ドリップが流れ出す前に死後硬直を強制解除するのだ。

1975年にニュージーランド食肉産業研究所が発表した論文『電気刺激と子羊肉の軟性(Electrical stimulation and lamb tenderness)』によると、屠殺後すぐに凍結した子羊の肉に高電圧(3600V)の刺激を与えることで、軟化に必要な16時間から24時間をカットできるとしている。

電気刺激法は牛肉や豚肉でも有効なことがわかり、解凍肉の質の向上や屠殺後の肉の熟成期間の大幅短縮のために使われている。

 

フランケンシュタインの肉

生物と電気の関係は古く、18世紀ごろから知られていた。

当時のヨーロッパは電気がブームで、どんな病気も治すという電気治療や電気風呂が公然と行われていた。今の水素水みたいなものだと思えばいい。なぜ電気治療なる根拠不明の疑似科学が公然と知られるようになったかといえば、この頃、ライデン管(もっとも簡易な蓄電池である)が発明され、それによってだれもが容易に“感電”できるようになったからだ。感電の衝撃に、病気が治ると錯覚したわけだ。1775年には、生きた電気ウナギがロンドンに輸入され、40人以上が電気ウナギによる感電実験を楽しんだという。平賀源内のエレキテルの原型である。

電気を流すと筋肉が収縮することが分かると、生物と電気の関係へと興味の対象は移っていく。

1789年、イタリアの解剖学者ルイージ・ガルヴァーニは、起電機とカエルを使って筋肉の収縮を実験していた。その最中、鉄の柵にひっかけておいたカエルの足に黄銅と鉄でできたメスで触ったところ、電気を流してもいないのにカエルの足が動いたのだ!

なぜそんなことが?

当時、動物電気という、生物の中には電気が溜まっているという考え方が主流だった。筋肉に電気を流すと収縮するということは、電気こそが体を動かすエネルギーであろう。私たちの体は何らかの方法で電気を生み出し、たくわえ、それにより体を動かしている。

だからメスと鉄柵が電極となり、カエルの足にたまっていた電気が流れた? とガルヴァーニは考えた。神経は動物電気を流す管で、全身に動物電気を流す役割を果たす。

ガルヴァーニはこれにより動物電気を理論化し、ガルヴァーニ動物電気理論、通称『ガルバリズム』を打ち立てる。さらに動物電気学会も設立され、動物電気は当時の医学界の主流になっていく。

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ルイージ・ガルヴァーニの実験。

しかしこれは話が逆だった。カエルの足の中に電気があったのではなく、ポイントは金属だ。カエルの足の電解液と2種類の違う金属との間で電池が形成され、それによってカエルの足が動いたのだ。

ガルヴァーニの実験を再試験していたボルタはこのことに気がつき、1800年、世界初の電池を発明する。カエルの足の代わりに希硫酸を浸した布を用意、それを亜鉛の板と銅の板で交互に挟み、起電に成功した。ガルヴァーニが亜鉛と銅の合金である黄銅のメスを使ったことが大きなヒントになっている。

カエルの感電実験から蓄電池が誕生し、この蓄電池を使って、今度はガルヴァーニの甥であるアルディーニ・ガルヴァーニが動物電気の公開実験を開始する。ボルタの電池は、動物電気はないことの証明になるはずだったが、当時はそうは考えられず、“切断されたカエルの足に動物電気は残っていない”ことの証明となったのだった。

アルディーニは根っからの山師だったらしい。広場に医療関係者を集め、動物や人間の死体にボルタの電池から電気を流して見せた。電気を流された死体は踊り、顔に突き刺さった電極に電流を流すと、死体はまばたきし、にやりと笑ったという。

こうした興業の噂を聞いた作家メアリー・シェリーが、1818年に発表したのが『フランケンシュタインの怪物』なのだ。フランケンシュタインは電気うなぎの放電によって生命を得るが、その元ネタはアルディーニが阿呆な興業なのである。

生命と電気の関係はカエルからフランケンシュタインを生み、凍った羊肉を軟化させ、21世紀の日本へ到達することになる。私はそれを『電気肉』と呼んでいる。

 

文=川口友万

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