話してはいけないタブーとされた亡霊譚/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第24回は、口にすることすら恐れられる「決して話してはいけない怪異」を補遺々々しました。

 

話してはいけない話

百物語をすると怪異が起きる。怪談を語ると霊が寄ってくる。このようなことは昔からいわれてきました。こうした前振りがあると、語る者や聞く者に特別な緊張感が生まれ、座も盛り上がるというものです。

今回ご紹介するのは、そういった類の話ではありません。

口にすること自体、タブーとされている禁じられた話です。

鹿児島県奄美の一部地域では、「イマジョ」「イマジョゥ小(グワー)」という人物の話をすることはタブーとされてきました。

仲宗根幸市氏は「沖縄・奄美の怪談三題」 (『南島研究』二十九号) の中で、このイマジョゥ小について大変興味深い報告をされています。なかでも、取材を受けた人々の対応が、とても印象的でした。知っていても「知らない」と答える人、「怖い話だからかんべんしてくれ」と多くを語りたがらない人、「このあたりでその話をすると大変なことになる」と恐れる人。

住人たちはいったい、何を恐れていたのでしょうか。

以下は、1975年に採集されたという、たいへん哀しく、恐ろしい話です。

 

タブーとされた悲劇

薩摩藩の黒糖政策に苦しんでいた時代のことです。イマジョゥ小という女性が、寂しい海辺の村に住んでいました。とても貧しい家に生まれた彼女は、多くの土地を持つ農家へと奉公にいくことになりますが、そこで困ったことになってしまいます。奉公先の主人が美しい彼女に心を奪われ、なんとかモノにしたいと考えるようになったのです。

イマジョゥ小は賢い女性なので上手にかわしていたのですが、主人の妻が黙ってはいませんでした。夫のイマジョゥ小への感情を知ってしまい、嫉妬に狂った妻は彼女に対し、壮絶なイジメを開始するのです。

イマジョゥ小は女主人から厳しいしごきを受け、毎日のように泣いていました。イジメは日を追って激化していき、やがて、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。

主人が留守中のことでした。あらぬ噂を立てられてしまったイマジョゥ小は、女主人から折檻を受けることになるのです。あまりにもひどい内容なので詳細をひかえますが、焼けた火箸を身体のあらゆる箇所に押しつけるといった残酷な行為でした。

その結果、無念にもイマジョゥ小は死んでしまいますが、病死ということにされて村のはずれに埋められてしまいます。娘の死を知った家族は驚き、哀しみ、奉公先のある村へ遺体を引きとりにいきました。しかし、奉公先の家はそれを断りました。

これを不審に思った家族が、周囲の人々から話しを聞いてみると、娘が殺されて埋められているという物騒な噂を耳にします。

遺体の状態を見れば、イマジョゥ小の身に何が起きたのか、わかるはず……遺族は埋められているという場所へと向かいますが、奉公先の主人に雇われた用心棒がいて、だれも近づけさせません。両家は対立してしまいます。

しかし、時間が経てば経つほど真相を知る機会は失われてしまいます。そこで遺族は奉公先に和解を持ち掛けました。これには奉公先も喜び、では、手打ちにしようとなって、酒宴が行われることになります。こうして警戒が解かれた隙をついて、遺族たちは埋められているイマジョゥ小を掘り起こしにいき、その無残に変わり果てた姿を目にしてしまいます。

 

怒り、悲しんだ遺族は、遺体を引き上げるとき、イマジョゥ小にこう伝えました。

奉公先の家を呪え……その家があるこの地を徹底的に呪え、と。そして、彼女が埋められていた場所に竹を逆さまに植え、そこにも呪いをかけました。こうしてイマジョゥ小は故郷へ帰ることができ、遺族たちによって手厚く葬られます。

 

――その後、呪われた地域ではさまざまな怪異が起きることになります。

奉公先の庭に血だまりが現れる。風呂敷包みを持った女がイマジョゥ小の姿に化ける。白い犬がイマジョゥ小に化ける(南島では白い犬が怪異をもたらす話がいくつかあります)。

また、逆さに植えた竹が成長し、枝が枯れて折れる毎、人が変死しました。それは呪われた地域のみならず、なぜかイマジョゥ小の生まれ育った地域でも起こりました。

呪いはおさまることを知らず、その影響は現代にまで及びます。亡霊と化したイマジョゥ小の姿を見たという者が次々と現れ、人々を脅かしました。人の行方がわからなくなると、イマジョゥ小の亡霊に迷わされたのだろうと噂が立ちました。風呂敷包みを持った姿でイマジョゥ小がバスに乗り込んでくるのを目撃した人もいます。山中の拝所で髪を垂らした白装束の女が歩いているのを目撃され、イマジョゥ小がいたぞと村中が大騒ぎになったこともあったそうです。

今も、彼女の呪いは続いているのでしょうか。

 

(※地名や家名といった詳細な部分は伏せています。)

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文・絵=黒史郎

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