殺人鬼H・H・ホームズと切り裂きジャックの正体/ヒストリーチャンネル

文=星野太朗

殺人鬼の正体に迫るドキュメンタリー

19世紀のアメリカ、シカゴで200人以上を殺害したシリアルキラー、H・H・ホームズ。彼を題材とする興味深い番組が、CS放送の「ヒストリーチャンネル」で制作・放映された。その番組の邦題は『アメリカン・リッパー 猟奇連続殺人の真相』。

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ネタバレを避ける意味で番組の最終的な結論は敢えて伏せるが、その奇抜な着想や行動力溢れる広範な取材による迫力ある映像は十分に説得力を持ち、一度見はじめたら止められない魅力ある作品に仕上がっている。
番組のホストを務めるのは、カリフォルニア在住の弁護士ジェフ・マジェット。彼の高祖父はハーマン・ウェブスター・マジェット、すなわちH・H ・ホームズその人であるというから驚く。こういう人物を実際にカメラの前に連れてきて、しかもその彼が素人離れした堂々たるホストぶりで番組をリードしていくのだから、アメリカのTV番組の底力は侮れない。

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H・H・ホームズの謎に挑むジェフ・マジェット(中央)とアマリリス・フォックス(左)。

単に番組の司会進行のみならず、H ・H・ホームズと同じDNAを持つ彼が、自らDNAを提供して分析の被験者となったり、さまざまな専門家に突撃取材を敢行したりと、その芸達者ぶりを遺憾なく発揮している。そんな彼は、20年前に自らの先祖がH・H・ホームズであると知って以来、彼に関する研究を続けてきたのだという。
番組で彼の頼もしいパートナーとなるのが、元CIA捜査官のアマリリス・フォックス。テロリストの分析と追跡が専門で、心理学的プロファイルの手法を駆使してロシアの武器ディーラーや南米の誘拐犯、中東のテロ組織のリーダーなどを割りだした実績を持つ。
このふたりが、現代の最先端の捜査技術と潤沢な制作費を駆使して、H・H・ホームズの謎に挑んでいくのだ。

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H・H・ホームズの偽名で殺人を繰り返したハーマン・ウェブスター・マジェット。

 

H・H・ホームズ=切り裂きジャック?

マジェットとフォックスの基本的な仮説は、H・H・ホームズが〈殺人の城〉建設前に密かにイギリスに渡り、ホワイトチャペルの連続殺人事件を犯していたのではないかというもの。すなわちH・H・ホームズこそが〈切り裂きジャック〉の正体だというのである。
マジェットとフォックスの推理によれば、〈切り裂きジャック〉の犯行の手口で何よりも目を引くのは、その死体の解体の技術の鮮やかさである。
前述のように、〈ジャック〉はわずか15 分かそこらのうちに死体を切り開き、目当ての臓器を特定し、それを切り取って持ち去るという離れ業を見せている。この高度な技術は、とても素人の仕業とは思えない。つまり〈ジャック〉は外科医の素養を持っていたということになる。

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番組ではH・H・ホームズと切り裂きジャックとの関連が調査される。

実際、H・H・ホームズは医師としての教育を受けていた。16 歳で高校を卒業した彼は、そのまま教師として働きはじめたが、21歳で教職を辞し、ミシガン大学医学部に入学。1884年6月に卒業して医師免許を取得している。
彼が死体やその解剖に興味を持っていたのはごく幼いころからで、少年時代にも街の開業医と親しく接して、解剖の手伝いなどをして技術を磨いていたともいわれている。また、思春期のころから動物を虐待し、日常的にその命を奪っていたという。
そんな彼が18 歳のとき、従姉妹のメアリが謎の死を遂げるという事件が起きた。その死の状況は不明だが、そのとき、そばにいたのはホームズただひとりであったという。メアリは近くの小川で溺死体となって発見されたが、ホームズが殺したという噂が地元で根強く囁かれていた。
さらに記録を調べてみると、ホームズが思春期のころから、彼の周囲では尋常では考えられないほど多くの子供たちの死亡事件が発生していた。「溺死」と記されている事例のほか、死因が不明のままのものも多数あった。
つまりH・H・ホームズは、シカゴに〈殺人の城〉を築く遙か以前、すでに思春期のころから、人知れず殺人を繰り返していた可能性が高いのである。

 

ジャックの殺人手法が進化していった理由

シリアルキラーの行動は一般に、年月を経るごとに次第にエスカレートしていくという傾向を持っている。ホームズの場合も、一番初めの殺人は水の中に被害者を突き落とすという、いわば非常に単純で、武器も道具も使わない原始的な手段だった。
こうしていったん「人を殺す」という行為、それに伴うスリルや快感を知った彼は、次第にその手法をエスカレートさせ、最終的には〈殺人の城〉というシステマティックな、いわば「殺人の産業化」ともいうべき高度な手法にまで進化したと考えられるのである。
しかし、困ったことにH・H・ホームズの場合、水中への突き落としと〈殺人の城〉の間の中間段階というものが確認されていない。だがどう考えても、それは一足飛びに到達できるような進化の段階ではない。どこかに必ずその中間段階があるはずだ。
フォックスによれば、〈切り裂きジャック〉の一連の殺人事件こそ、その「中間段階」にほかならないという。彼女によれば、〈切り裂きジャック〉による5件の殺人は、後になるほどその手法が進化して高度化していく過程を辿っている。初めは単純な通り魔殺人、続いて殺すと同時に死体を解剖し、内臓を奪い去るという猟奇性が加味される。さらに、遺体の足下に指輪や銅貨を並べるという意味不明の儀式も行われる。
その次には、まるで記録に挑むかのように一夜のうちに2件の殺害、というように犯行は進化を遂げ、そして最終的に室内でのメアリ・ケリー惨殺に至るのだ。
フォックスは特に、このケリー殺害に注目する。前述のように、彼女の死体はそれまでよりも遙かに凄惨に破壊されていたが、この「死体の破壊」こそ、〈切り裂きジャック〉が本当にやりたかったことではないのか、というのが彼女の推論である。そしてそのためには路上での通り魔的殺人ではなく、室内こそが理想的な犯行現場であるとの認識を得たことが、後のH・H・ホームズの〈殺人の城〉の構想へと繋がっていくというのである。

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ホームズが建設したワールズフェア・ホテル=「殺人の城」。

また彼女は〈切り裂きジャック〉の「ディア・ボス書簡」の分析を専門家に依頼し、その英語の書き手がイギリス人ではなく、アメリカ人であるという確証を得る。
さらに彼女は、〈切り裂きジャック〉事件当時のH・H・ホームズの足取りを辿り、〈ジャック〉の事件が起こっていた3か月弱の間、ホームズの居場所が解らなくなっていることを突き止めた。そして、当時の船舶乗船記録の中に、H・H・ホームズらしき人物の痕跡を発見するのである。
はたして彼女の推理の通り、アメリカ英語の使い手である〈切り裂きジャック〉は、ロンドンで存分に殺人を堪能した後、アメリカに戻ったのだろうか。そして今度はH・H・ホームズとして、あの〈殺人の城〉を建てたのか? 番組で検証されているように、その可能性は高い。

 

(ムー2018年3月号「完全解明 切り裂きジャックの正体」より抜粋)

「アメリカン・リッパー 猟奇連続殺人の真相」
CS放送「ヒストリーチャンネル」にて、 特別一挙マラソン
3月3日(土)13:00-16:30
3月4日(日)13:00-16:30ほか 再放送予定 !

(C)2018 A&E Television Networks. All rights reserved.

文=星野太朗

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