怨霊と祟りは北東よりやって来る! 鬼門の起源と謎

文=多田克己

丑と寅の方角=鬼門

陰陽五行説で、鬼の出入りする不吉な方角として、「鬼門」は万事に忌み嫌われる。「鬼方」ともいい北東方向、すなわち十二支で方位を示した丑(北北東)と寅(東北東)の間である丑寅(艮)の方角、またはその方位の場合をいう。鬼門は「鬼の出入りする門」の意で、陰悪の気が集まり、百鬼(多くの鬼)が出入りするといわれる。

kimon2-1
陰陽道で用いられる式盤。陰陽五行説では、東北は鬼が出入りする不吉な方角として「鬼門」と呼ばれ、忌避されてきた。

陰陽五行説を唱える陰おん陽みょう道どうは、5〜6世紀ごろに中国大陸から日本に輸入され、朝廷の大宝律令(701年制定)には、中務省に陰陽寮が設けられている。天皇として陰陽道に精通していたと思われる天武天皇は、天武11(682)年正月13日に、陰陽師に食と禄(代価)を下か賜しされたとする記録がある。

同年の5月24日、天武天皇は重病に陥った。6月2日には陰陽師たちに官爵を授け、同月10日に陰陽師らに天皇の病因が占わせた。

このとき宮廷内に、尾張国の熱田宮(現在の熱田神宮)の御神体としてあるべき草薙剣が置かれていたためと占いに出、ただちに神剣は熱田宮に送り戻されたが、天皇の病気は回復せず、9月9日に崩御した。神剣の祟りは怒れる雷のなせる業、鬼神の障りであると考えられた。

草薙剣は八岐大蛇の亡骸から出てきた叢雲の剣であり、荒ぶる神・素盞鳴尊(須佐之男命)の神力が宿った神剣であった。

尾張国の熱田宮の位置は、大和国の宮廷、すなわち飛鳥浄御原宮から見て、ちょうど北東の方角にあたる。まだこの時代の日本に「鬼門」の語はないが、このころより王権は鬼門の怖さを意識するようになる。

もとは陰陽五行説と無関係であった「鬼門」が、陰陽道や仏教と結びつき、わが国特有の鬼門信仰が成立したのだ。

 

中国に見る鬼門の起源と由来

中国は後漢時代の文人・王充(27〜97年ごろ)が撰した『論衡』の「討鬼篇」は、紀元前3世紀ごろに成立した『山海経』の逸文を引用し、こう記す。

「東海の中に度ど朔さく山がある。山上に大きな桃の木があり、3000里にわたってくねくねとわだかまって(繁茂して)いる。その枝の間の北東を鬼門といい、多くの鬼どもの出入口になっている」

また同書「乱竜篇」には、次のようにある。

「大昔に神荼と鬱塁という兄弟の神がおり、彼らは鬼を捕らえることが上手かった。東海の度朔山上の桃の木の下にいて、すべての鬼どもを検閲していた。もし道理をわきまえず、人間たちに禍わざわいを起こす鬼がいると、蘆(葦)で編んだ縄で縛り、虎のところに連行して喰わせた。今、県の役人たちはこれにあやかって桃の木を削り、神荼と鬱塁を象った人形を作り、戸口の傍かたわらに立て、虎が描かれた画を門の敷居につける」

神荼と鬱塁を門戸の鬼除けとする漢代の風習は、唐代の皇帝・太宗の時代には王朝の将軍・秦叔宝と胡敬徳のふたりに置き換わり、現在に至るまで魔除けの「門神」として信仰されている。だが門神信仰には、日本のように北東(鬼門)を忌む考えはない。三皇五帝のひとり、伝説の黄帝による『黄帝宅経』には、「鬼門の宅は気を塞ふさぐ。缺(欠)け薄く空しく荒るるは吉よし。これを犯せば偏へん枯(半身不随)淋腫(性病による病の一種)等の災あり」とあるが、鬼門が北東の方角であるとは説明されていない。

kimon1
十八宿の図。左から2列目、下から2番目に「鬼宿」が見える。古代中国ではこの星を、鬼(死者)の門戸と考えた(『安倍晴明簠簋内傳圖解』より)。

また中国の古代神話を編纂した『神異経』の「中荒経」には、こうある。

「北東に鬼星の石室が300戸あり、ひとつの門を共有している。門榜(表札)には鬼門とあった。(中略)鬼門は昼は開かず、日が暮れるとすなわち人の声がし、青い火が飛び交う」

鬼星は二十八宿(古代中国の暦)のひとつ「鬼宿」であり、12星座の蟹座の甲羅の部分に相当する4つの暗い星と、その中央に青白く淡い雲のように見える散開星団「プレセペ星団」を指す。中国では「積尸気」と呼び、積み重ねた死体から立ち上る鬼火の燐光であると想像し、鬼(死者)たちの魂の住居や門戸と考えた。日本では忌まれる鬼門信仰と正反対に、占星術および風水学では鬼宿(鬼星)の巡る方角は吉とされている。

 

一方日本では宅地や家屋でも、地相や家相(家の位置、向き、間取り)でもっとも忌み嫌われるのは、北東および南西への出っ張りである。北東は艮(うしとら)の鬼門、南西は坤(ひつじさる)の裏鬼門にあたる。

鬼門に張りだした家屋には病難があり、裏鬼門へ張りだした家は、女の権勢が強くなるともいわれている。そこで北東隅を人為的に欠かす例も多い。

ところが逆に、鬼門または裏鬼門方角を欠けた家は凶相で、子孫に恵まれないとする説もある。

間取りは鬼門の方角には床の間、戸口、水屋、便所、湯殿(風呂)、蔵を作ることが避けられる。鬼門除けには、屋根に魔除けの鬼瓦をつけたり、稲荷神の祠を祀ったりする。梅、槐、桃などを植えることも良しとされたようだ。

月刊ムー 2018年4月号
月刊ムー 2018年4月号

 

(ムー2018年4月号 特別企画「鬼門の謎」より抜粋)

文=多田克己

  • 1

関連商品

ムー
2018年4月号

ムー
2018年4月号

定価:800円
発行:学研プラス
発売日:2018/03/09

この記事と同じトピックを探す

関連記事

編集部おすすめ

アクセスランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • トータル