異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

シェイヴァーが体験した「地底世界」

米国SF文学史における最大の「汚点」として語り継がれる「シェイヴァー・ミステリー」とは、いかなる内容のものだったのか? まずはその概要を解説してみよう……。

と書いたところで、いささかゲンナリしてしまう。この物語というか、手記(と呼ぶべきなのか?)は、荒唐無稽で乱雑なエピソードと奇々怪々な設定の集積であり、手際よくサラリと整理して紹介できるようなシロモノではない。

しかも、まとまった形での翻訳本は刊行されておらず(しかし英語文献は比較的容易に入手可能)、あちこちのオカルト雑誌や書籍に紹介される解説記事を参照するしかなく、さらにそれらの記事が互いに矛盾していたりしていて、とても僕ごときの手に負えない。

おまけにガンバってまとめたところで、おそらく大半の人に「アハハ、バカみたい!」と笑われるような内容にしかならないのは目に見えているわけで、要するに「よしっ、やるぞ!」という気にはとてもなれない作業なのである。

 

なので、あくまで乱暴で雑なまとめ方をさせてもらうが、ことの発端はシェイヴァーがデトロイトの自動車工場で溶接工として働いていた1930年代初頭に遡る。

このころ、彼は奇妙な「声」を聞くようになった。彼の頭の中にだけ響く「声」だ。最初は周囲の人間の思念がテレパシーによって聞こえているのだと考えたらしいが(そう考えるのもどうかと思うが)、この現象はそんな生やさしい(?)ものではなかった。

やがて「声」は彼に知られざる「地底世界」についての解説をはじめ、さらには邪悪な「地底人」が地上の人間を残酷極まりない形で虐殺する様子を語りはじめたという。

この恐ろしい怪現象にとりつかれてしまった彼は仕事を辞め、各地を転々と流浪する生活に入る。「いや、まずは病院に行けよ」と我々のような凡人は思ってしまうところだが、実際、彼は精神を病んでいると診断されて病院に収容されていた時期もあったらしい。

彼の私生活については確かな情報が少なく、諸説入り乱れているのだが、この流浪の時期に英国への密航を企てて失敗、獄中で暮らしたという証言もある。

そうした苦難の日々のなか、彼のもとに「ニディア」という名の謎の美女が現れる。驚くなかれ、なんと彼女は「地底人」だった。「テロ」と呼ばれる種族の「いい地底人」なのだという。そして、「地底世界」には「デロ」と呼ばれる「悪い地底人」が存在し、彼らが地上の人類に災厄をもたらしていると語る。

ちなみに、「ニディア」は盲目だ。まばゆいばかりの金髪をなびかせた盲目の「地底人」というモチーフは、この連載でもちょっと触れた『ウルトラマン』に登場する「地底人」に影響を与えているかも知れない(ただし「ニディア」には目がないのではなく、美しく大きな瞳を持っている)。

「ニディア」はシェイヴァーに「世界の真実」を見せるため、「地底世界」に誘う。そして彼は特殊なマイクロフィルムが保管される「テロ」たちの「思考記録室」に連れていかれ、一人の「テロ」の「思考記録」によって「地底世界」の歴史を仮想体験的に学習する。この「思考記録室」には、特殊なヘルメットをかぶって記録媒体を再生することによって、過去の「地底人」たちの体験をヴァーチャルに追体験できるシステムがあるのだ。

ここで僕ら世代の多くは永井豪の『デビルマン』を連想するだろう。あの作品の導入部で「不動明」は歴史を記録した仮面をかぶり、悪魔族と人類の世界史を体感的に把握するが、あれとまったく同じなシチュエーションだ。

このシステムによってシェイヴァーは1万2千年前に遡り、人類の「創造主」たる地底人の歴史と、現在の人類が実は「地底人」たちの手のうちにあるという危機的状況、つまりは知られざる「世界の真実」のすべてを知ってしまうのである。

 

シェイヴァーが知らされた驚愕の「世界の真実」とは……。

かつて、地球には高度な文明を誇るふたつの大陸があった。「ムー」の読者にはおなじみ、こうした話にはつきものの「レムリア」と「アトランティス」である。

ふたつの大陸はタイタン、アトランなどと呼ばれる巨人種族が支配していた。そして「レムリア」に暮らす巨人種族たちが遺伝子工学技術(?)によってつくりだした労働用種族(つまり奴隷)こそ、我々人類の祖先なのだそうだ。

「レムリア」は高度な文明と平和のなかで栄華を極めていたが、ある時期、太陽になんらかの変化が起こり、有害な光線を地球に放射しはじめた。多くの「レムリア人」が光線の影響で病み、死んでいった。

そこで彼らは有害な太陽光線を避けるために地下深くに都市を建設する。しかし、光線の影響は地底にまで及んでしまう。万策尽きた彼らは、ついに地球を捨てる決定を下す。新たな惑星に移住するため、宇宙船で旅立っていった。

しかし、人工的に創造された労働用種族は地底に残された。これがやがて二つの種族に分化する。ひとつは有害光線の影響でケダモノのように退化し、凶悪なモンスターと化した「デロ」。もうひとつは理性的で高貴な心を残した平和的種族「テロ」。

「デロ」は「レムリア」に残されたさまざまなテクノロジーを駆使して地底世界を支配したうえ、さらには人間に幻覚を見せたり妄想を抱かせたりする怪光線(?)を照射する装置によって地上世界を操り、さまざまな凶事を起こしているという。人類史におけるさまざまな災の多くは、怪光線を使った「デロ」の陰謀であり、「テロ」は劣勢になりつつも、「デロ」の悪事に対して日夜戦い続けてきたのだという……。

 

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「ムー」1981年5月号より。「レムリア」の高度の文明が遺し、現在は凶悪な「地底人デロ」が使用しているという恐ろしいテクノロジーの数々が解説されている。多くが「精神兵器」とでもいうべき禍々しいシロモノだ。

 

「私も地底人に出会った!」

書いていて頭がクラクラしてくるような話だが、読んでいる皆さんもポカンとしてしまっただろう。しかし、この話には単なる「狂人のたわごと」と笑い飛ばせないような、なにかしら人を不安にさせるような手触りがないだろうか?

ウェルズの『タイムマシン』を筆頭に、この「体験談」の設定に影響を与えたと思われる神話や過去のフィクション作品をあげていけばキリがないだろうし、同時に、この「シェイヴァー・ミステリー」に影響を受けたであろう後のSF作品も多数連想されると思う。いずれにしても、我々が置かれているこの世界が、知られざる領域での「善」と「悪」の戦いの影響を受けつづけている……という設定は、ある意味で多くの宗教のコンセプトの本質に触れるような「原初的な物語」に近いものだ。

そしてこの設定がさらにやっかいなのは、「この世の災いはすべて『デロ』の陰謀である」という、極めて魅力的(?)な脈絡を含んでいることである。これが掲載された雑誌『アメイジング・ストーリーズ』には読者から多くの反響が寄せられたが、過去の自然災害も戦争も殺人事件も経済恐慌も「デロ」の陰謀だったという説に共鳴する「陰謀大好きっ子」たちからの賛同が多かったそうだ。

さらには、「デロ」は人々を精神レベルで操って混乱に陥れるという設定があることから、自分の個人的な生活、仕事、恋愛などなどのアレコレがうまくいかなかったことも、「ぜんぶデロの陰謀」だったと考えはじめる読書も急増したという。苦悩や不安を抱えて生きる多くの人々に「そうか、ぜんぶ『デロ』のせいだったのか!」という、非常に都合のいい脈絡というか、奇妙な救い(?)を与えてしまう形になったようなのである。

そして多くの人が「実は私もこんな体験をした」といった「地底人」がらみの「体験談」を告白しはじめ、「シェイヴァー・ミステリー」は作者たちの手を離れ、制御不能なほどに肥大・増殖してゆく。

 

なかでも「ムー」にも掲載されたエピソード、ナチス占領下のフランス人女性が、デパートのエレベーターで地底深くまで運ばれ、化物のような生物の群れにおぞましい性的拷問を受けたという体験談が引き合いに出されて有名になると、この種のフロイト風の性的妄想を盛り込んだ「地底人体験談」が盛んに語られはじめる。

ブーム全体が「家畜人ヤプー」のようなエログロSFポルノのような方向へ引きずられていったわけだが、その萌芽はすでにシェイヴァーとパーマーによるオリジナルのテキストにもあった。「シェイヴァー・ミステリー」のひとつの特徴は、そこかしこに被害妄想的な意味付けや、倒錯したセクシャルな妄想を刺激する設定があり、ある種「病的なリアリティ」とでもいうものが全体を貫いていることだ。そこに共振してしまう人が続出してしまったのだろう。こうしたころからも、このブームは高まる批判によって沈静化するまで、ひたすらエグく、センセーショナルに語られていったのである。

 

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「ムー」1981年5月号より。戦時下のフランスで起こった「地底人集団レイプ事件」(?)が紹介された。「私は地底の魔界で獣人の遊び道具にされた」というセンセーショナルな見出しが鮮烈。

 

 日本の子ども文化における「シェイヴァー・ミステリー」

さて、こうした形でひとつの「現象」にまでなってしまった「シェイヴァー・ミステリー」が、70年代の日本の子どもたちにどのような影響を与えたのか?

当初から日本でも一部マニアたちの間では「シェイヴァー・ミステリー」の騒動は知られていたらしいが、子ども文化において本格的かつ大々的に紹介されたのは、70年代初頭の「週刊少年マガジン」誌上においてだ。

なんと1971年の『少年マガジン』は、「シェイヴァー・ミステリー」を『異常体験手記 私は地底人の世界を見た!』と題し、絵物語風にアレンジして連載していたのである。構成はかの南山宏先生(さすが!)、そして挿絵は御大・生頼範義画伯! ちなみに、南山氏は同年に刊行された「超現実の世界」(大陸書房)でも、「地球空洞説」を網羅的に解説しながら「シェイヴァー・ミステリー」の概要を紹介している(この本は1971年の刊行だが、後に社会現象を巻き起こす超能力者・クロワゼットやノストラダムスの予言を取り上げており、本書自体が数年後のオカルトブーム勃発を「予言」しているような内容なのである)。

この連載が当時の子どもたちの間でどの程度の反響を得ていたのか、世代的に僕にはリアルタイムの実感としてはわからないし、時代的にも少年マンガ誌の絵物語はすでに役目を終えていたころで、当時の読者は「文字だけのページは読み飛ばす」という状態になっていたと思うので、おそらくドカン!と話題になったわけではなかっただろう。

しかし、少年マンガ誌の口絵などにおけるオカルト特集記事が、その後に多くの「怪奇系児童書」にパクられまくり、結果的に多くの子どもたちに共有されていくのは70年代の定番の流れだった。

「少年マガジン」の連載は、子どもたちの間に直接的なブームを起こすことはなかったにせよ、日夜ネタを探している児童書編集者などの大人たちに注目され、類似の記事がオカルト児童書の世界に氾濫することになるきっかけとなったはずだ。この連載こそ、間接的にせよ、シェイヴァーの「地底人観」を70年代の日本の子どもたちに波及させるトリガーの役割をしたのだと僕は思っている。

 

今回、アレコレの断片的な資料をあたって、あまりに荒唐無稽な「シェイヴァー・ミステリー」の世界を味わいなおしてみて思うのは、この話……というか、話とすらいえないほど破綻した矛盾だらけの設定とエピソードの集積は、やはり非常に魅力的だし、なにかしら誘惑的だ、ということだ。もっといえば、強烈な「真実らしさ」がある。いや、おそらくそれは文字通りの「真実」だったのだろう。

宗教の本質にも通ずるスケールの大きな世界感、多くの未来的ガジェットが登場するSF観、古代文明や失われた大陸への憧れを掻き立てる古典的オカルト観、それらに病的な被害妄想と倒錯した性的妄想までが交錯し、なにか人間の根本的な危うさというか、誰もが多かれ少なかれ抱えている「狂気」のような部分を、まるごと吸い寄せてしまう強力な求心力を持っている。「壊れている」ということにこそ、このテキストの核心がある。

間違いなく、シェイヴァーはなにかを聞き、なにかを見て、なにかを体験したのだろう。この奇々怪々な手記を読んでいてわかるのは、それらの多くがまぎれもなく「真実」だということを示すテキストの「強度」だ。

もちろん「しかし、それは『シェイヴァーにとっての真実』だろう」といってしまえばそれまでだ。だが、そうタカをくくって安心できないのは、正気と狂気の境界など本来はありもしないし、勝手に引いたありもしない線など、ちょっとした刺激であとかたもなく消え去ってしまうことを、このテキスト自体が如実に示しているからだろう。僕らが信じているこの世界こそ、むしろ幻影なのかも知れない……。シェイヴァーの手記が僕らに突きつけてくるのは、そうした危うい誘惑だ。

シェイヴァーの壮大な体験は、ある日の仕事場でふと「声」を聞いてしまったことからはじまった。その「向こう側」に誘う「声」のささやきを、僕らもいつか聞いてしまうかも知れない。ほかの誰かが「幻聴だ」と笑おうと、結局のところ、この現実世界など人間の主観的認識に過ぎない。一度「声」が聞こえてしまえば最後、今の僕らが確信している「真実」などいとも簡単にあとかたもなく破壊され、その向こうには「別の真実」が待っているのである。

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「異常体験手記 私は地底人の世界を見た!」が連載されていた1971年3月14日号の「少年マガジン」と連載扉。『あしたのジョー』『アシュラ』などが掲載され、同誌が70年代的アナキズムを濃厚にまとっていた時期だ。

 

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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