やっぱり怖い生首 其の二/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第30回は、前回に引き続き、「生首」を補遺々々します。

 

生首に化ける

前回に引き続き、今回も「生首」がテーマです。

ゴロリと転がる人の生首は、見た目にもとてもショッキングな光景です。真っ赤な血潮、青褪めた肌、寝惚けたような表情。そんな生首がもし、宙を浮き、ギョロリと睨み、ニタリと笑ったら……そんなものを見た人は逃げださずにはおれません。気の弱い人ならば、その場で失神してしまうでしょう。

この見た目のパンチ力を利用するため、生首に化ける妖怪もありました。

 

これは埼玉県川越市に伝わるお話です。

川越城の城下には、人の住まない屋敷がありました。そこは妖怪が出るといわれている、俗にいう化け物屋敷で、物騒な噂が絶えないので人々は恐れて近づきませんでした。

けれども、皆が皆、恐れていたわけではありません。

城には剛勇な気性の近習(主君の側近くに仕える者のこと)がおりまして、この屋敷を賜りたいと主君に願いでると、なんと化け物の出る家に母と妻を連れて移り住んだのです。

各地で語られる化け物屋敷の昔話のように、豪気な男の主人公が化け物を成敗する話なのかと思いきや、近習は宿直で留守にすることが多く、屋敷は母と妻、そして従者が守ることになります。

 

ある晩、母が厠にいこうと縁側に出ますと、大きな釣鐘が置かれています。もちろん、覚えのない物です。噂の化け物の仕業だなと察した母は、臆することなく近づくと釣鐘を手で撫でて、それから厠へ入りました。用を足して戻ると釣鐘は消えていました。

また、他の日の晩のことです。

今度は妻が厠へ行くと、左側の壁の中から怪しげな物音がします。なので、右側にある入口の戸を開けますと、そこからヌッと女の生首が現れました。

しかし、妻は慌てず落ち着いて懐剣を抜くと、生首ではなく、物音のした左側の壁に突き立てました。するとギャッと悲鳴が上がり、なにかが逃げていくのがわかりました。

厠から戻った妻は従者を呼び、「化け物を切った手ごたえがあった。血の跡が続いているはずだから後をつけるように」と命じます。

点々と続く血の跡を追うと、そこには1匹の大きな古猫が血だらけで死んでいました。この猫が、噂の化け物だったのです。

猫は人がなにを恐れるかをよく知っていたのでしょう。人の恐る姿に化けて、人を寄せつけないようにし、自分の住処を守っていたのでしょう。

 

生首と会える場所

できればそんなものとは会いたくはないですが、世の中には物好きな人もいます。いくつか、生首の怪異に出遭える場所をご紹介いたします。

 

  • テンコロショウジ

岡山県邑久郡牛窓町には、「テンコロショウジ」という小路がありました。なんとなく寂しい雰囲気が漂う、神社へと続く道です。ここは化け物の出る場所として、子供たちにとても怖がられていました。テンコロとは藁を打つ槌のことで、このような道具が転がってくるという怪異は他県の伝承にも多く見られます。このテンコロショウジを転がってくるのはテンコロだけでなく、首がごろごろと転がってくることもあったそうです。

 

  • コワクビ

長野県上伊那郡美和村黒河内にあった場所の名前です。ここの畑を耕すと女の人の首が出てきて、それから悪いことが続いたといいます。コワクビとは「コガクビ」が訛ったもので、「コガ」とは桶のことです。女の人の首は桶に入った状態で見つかったのだそうです。

 

  • 生首が下がる

青森県の清水村に常盤坂という場所があり、そこには泉が湧いていました。泉のそばには杉の木が十本ばかり生えていて、そこから生首が下がったといいます。

 

  • 視目嗅鼻(みるめかぐはな)

こちらはだれもが会うことになる「首」です。

「見る目嗅ぐ鼻」を『広辞苑』第六版で引くと、こう説明されています。

  1. 閻魔庁にあるという、男女の人頭を幢(はたほこ)の上にのせたもの。よく亡者の善悪を判別するという。
  2. 世間のうるさい耳目をいう。

 

これは閻魔様の横に立っている、首ののった棒です。首は棒の上にひとつ、あるいはふたつのっており、赤い男の首は「見る目」、白い女の首は「嗅ぐ鼻」だといいます。亡者の生前の罪を報告する役目を持ちます。

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文・絵=黒史郎

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