爆発的ブームとなった「コックリさん」/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

ブーム以前の「コックリさん」についてはとにかく資料が少なく、今となってはこのあたりの事情は勝手に推測してみるしかないのだが、最初期に花街の「酒宴の余興」として普及した「コックリさん」が、戦後、再び同じような形でバーやスナックでのたわいもない「芸」として復活してきたとき、この戦後型の「コックリさん」は、やはり明治期のそれとはだいぶ違った性質のものになっていたのではないか。戦争を通過してきたことによって、つまり直接的に近親者の生死を占う「悲しい遊び」として捉えなおされたことによって、どことなく重く暗いものになっていたのではないだろうか。ただの「遊び」として行われながらも、やはりそこには「戦争の記憶」「死の記憶」がまとわりつき、「余興」として単純に楽しむにはちょっと不吉な、一種の「嫌な感じ」を漂わせる雰囲気を帯びていたのではなかったかとも思うのだ。

70年代にリバイバルした「コックリさん」がことさら「怖いもの」としてクローズアップされ、盛んに「遊び半分でやってはいけない」と警告された背景には、なにかこうした事情もあったような気がする。

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『狐狗狸さんの秘密 君にも心霊能力を開発できる』(1974年/二見書房サラ・ブックス)。初めて刊行された「コックリさん」入門書であり、中岡俊哉氏の代表的ヒット作のひとつ。ブーム過熱以降は「コックリさん」の具体的なやり方を本や雑誌に掲載することは出版界のタブーとなったので、本格入門書としては本書が最初で最後のものである。

 

子ども文化における「コックリさん」

以上のような経緯で流行しはじめた「コックリさん」に多くのテレビ、週刊誌(主に女性週刊誌)などが追従してブーム化したのだが、とりわけ子ども文化への「コックリさん」普及に大きな影響を与えたのは、73年から『少年マガジン』に連載されたマンガ『うしろの百太郎』(つのだじろう)だろう。この作品の初期エピソード「こっくり殺人事件」のインパクトは絶大で、多くの子どもたちの好奇心を刺激した。同時期に少女マンガなどにも取りあげられ、全国の小中学校では、休み時間になると毎日のように子どもたちが「コックリさん」に興ずる光景が見られるようになったのである。

ところが、ほどなくして「コックリさん」の最中に子どもたちが「狐憑き」状態(一般にはヒステリー的な発作やパニック障害と解釈される)になる事件が続発し、深刻な社会問題となってしまう。全国の学校で「コックリさん禁止令」が発令され、それまでは児童雑誌などによく見られた「コックリさんのやり方」などの記事もすべて封印されることになった。

ちなみに「狐憑き事件が続発!」といっても、おそらく「続発!」はしていなかったのではないかと僕は思っている。当時は全国各地で多数の犠牲者が出ているというイメージが蔓延していたが、声高に騒ぎたてた女性週刊誌などをチェックすると、曖昧な伝聞形式や噂レベルの報道が多かったようだ。数件の事例が複数のメディアで大々的に報道されたため、印象が事実よりもはるかに大きくなってしまったということなのだろう。というか、メディアが確信犯的に過剰に煽ったということなのだと思う。

……ザックリ概要を紹介するだけのつもりがまたもや前置きが長くなってしまったが、実は今回からの「昭和こどもオカルト回顧録」で取りあげたいのは、王道の「コックリさん」そのものではないのだ。

あのころ、全国の小学校でPTA主導の「禁止令」による「コックリさん弾圧」(?)の嵐が吹き荒れるなか、70年代の小学生女子たちは創意工夫をこらして「コックリさん亜種=コックリさんではないコックリさん」を次々と考案、「70年代オカルト女子」ならではの意地としぶとさで規制を潜り抜け、平然と占い遊びを楽しみ続けていた。僕が考察したいのは、70年代後半から80年代初頭の女の子文化を彩った、これらガーリーでファンシーな「脱法コックリさん」の摩訶不思議な世界についてなのである。

 

というわけで、次回以降、いよいよ本題に入る。

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1973年より『少年マガジン』に連載された『恐怖心霊レポート うしろの百太郎』。さまざまな「心霊事件」を実録風に紹介するスタイルの作品で、そのリアリティに多くの子どもたちが震撼した。本作の初期エピソード「こっくり殺人事件」によって、「コックリさん」は子ども文化においても大きくブレイクする。

 

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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