おんぶお化け〜バイロン石/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第32回は、新潟県に伝わる「背負う怪異」、いわゆる〝おんぶお化け〟の類を補遺々々します。

 

背負ってくれ

急に「背負ってほしい」と頼まれたら、どうしますか?

相手は病人や怪我人ではありません。困っているお年寄りや子供でもないのです。

あなたがひとりで暗い夜道を歩いているとき――

なんにも見えない真っ暗闇の中から、得体の知れないものの声に頼まれるのです。

 

妖怪には、そのように声をかけてくるものがあります。

頼まれるままにソレを背負ってしまったら、その人にはなにが起こるのでしょう。

今回は新潟県に伝わる「背負う怪異」を数例、ご紹介いたします。

 

バイロン石

  • 金塚村のバイロン石

これは、新潟県北蒲原郡のお話です。

金塚村小中山の入り口付近は、夕暮れ時になるとほとんど人が通りませんでした。

ここには「バイロン石」と呼ばれる、3、4尺の高さの石があったからです。この石は夜になると、「バイロン、バイロン」と叫ぶといわれ、村人たちはひどく恐れていました。

「バイロン」とは「負われたい」という意味で、「負う」とは人や物を肩や背中に載せることです。

そうです。この石は通った人に自分を背負ってもらおうと声をかけるのです。

これを、背負った人がいました。

 

ある晩のことです。

暗い夜道をひとりで歩く者がいました。金塚村の桶屋の旦那で、隣村へ仕事に行った帰りでした。

噂のバイロン石が近くなってきたので、恐る恐る歩いていますと、

「バイロン、バイロン」

何者かの声が聞こえてきました。

あの石が呼び止めているのです。

「桶屋どん、バイロン、バイロン」

明らかに自分を呼んでいます。これでは無視できません。度胸を決めた桶屋の旦那は、すうっと息を吸い込み、こう返しました。

「おー、バイロン、バイレ(おんぶしろ)」

――ズシリ。

なにかが背中に載ってきたような重みを感じます。なにが載ったのかは見ず、それを背負ったまま、まっすぐ家へと向かって歩きました。

そして家に着くなり、暗い中でそれを「そーれ」と下ろす素振りをします。すると背中が軽くなり、なにやら妙な音がしたので、すぐに家の人を呼んで明かりを持ってこさせました。

なんと、そこにあるのは例の石ではなく、思いがけないものでした。

たくさんのお金だったのです。

翌朝、桶屋の旦那はバイロン石を見に行ってみましたが、石にはなんの変化もなかったといいます。

この石は別に、自分を運んでもらいたかったわけではなかったようです。桶屋の旦那の度胸を試していたのでしょうか。

 

  • 乙(きのと)村と金屋村のバイロン石

 

北蒲原郡乙村の小学校の近くに「バイロン石」というものが祀られています。

付近には森があり、その奥深くには化け物がいるといわれていました。

この化け物、よく森から出てきては「ドーリ、ドーリ」と叫んで村中を行ったり来たりし、人の姿を見ると「バレロン、バロー」と呼びかけながら追いかけてきました。だから村の人たちは夕方になると戸を閉めて、めったに外へは出なかったといいます。

 

ある五月の雨の日のことです。

江端村で酒屋をやっている渡邊新左衛門という者が、夜の道を歩いていました。網元に呼ばれ、ごちそうになった帰りでした。

乙村にさしかかったとき、遠くからこんな声が聞こえてきました。

「ドーリ、ドーリ」

その声はだんだんと近づいてきます――かと思うと「バレロン、バロー、バロー」と繰り返しだします。

武芸に心得のある新左衛門はビクリともせず、こう返しました。

「バイロン、バイルならバイレ」

――と、その途端、ズンと背中に重みがかかりました。

次の瞬間、振り向きざまに刀を抜いて、背後の相手に一太刀浴びせます。

確かな手ごたえがあり、背中も軽くなったので、新左衛門はそのまま帰ってしまいました。

翌日になって、彼は数人の村人を連れて調べに戻りました。すると、庚申塚で祀られていた石に斬られたような跡があり、そこからは血が流れていました。

それ以来、「バレロン」と呼びかける化け物は出なくなったといいます。

 

岩船郡金屋村金屋では、化け物を背負って帰ったら石の仏像だったという話があります。喜んで仏像を祀ったら、次々と幸福が舞い込んできたという、めでたい話です。

 

油断ならないバイロンの化け物

新潟市沼垂(ぬったり)の元火葬場付近は、夜になると化け物が出るといわれていました。

その辺りは草も伸び放題のもの寂しい場所で、そこを通りかかると、何者かが「バイロン、ババロー」と呼びかけてきたそうです。

 

ある晩のことでした。

ひとりの男性が、件の元火葬場の辺りを歩いていると、

「バイロン、ババロー」

そんな声が脅かしてきました。

しかし、男性は臆することなく、「そら、バレロ」と返すと背中を出しました。

――と、次の瞬間、背後から見知らぬ娘がおぶさってきたので、あらかじめ用意していた紐を使って、すぐさま自分の身体に括りつけました。

そうです。この男性は、化け物の正体を暴いてやろうと、この機会がくるのを待っていたのです。

「うちには子供がいないから大事にしよう」

背中の娘に聞こえるように呟きますと、そのまま家へ向かって歩きだします。

ですが、持ちかえることはなく、すきを見て、商売道具の大きな鍋を娘にかぶせました。

するとどうでしょう。鍋から太い尻尾がはみ出ているではありませんか。

それは、ムジナの尻尾でした。

このムジナが退治されてしまうと、それからはもう、化け物は出なくなったといいます。

 

島の坂が来るぞ

「島の坂」とは、中蒲原郡金津村朝日と東島との間にあった小さな峠のことです。

とても物寂しい場所で、夜になると「バイロン、バイロン」と叫ぶ化け物が出て、通行人を脅かしたといわれています。他にも、棺から「大入道」が這いだして睨みつけたという怪異も起こったことがあるので、この峠を人々は避けて通っていました。

そのような怖いものが出る物騒な場所なので、子供がくずついたりすると、

「そーら、島の坂が来るぞ」といって、脅かしたといいいます。

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文・絵=黒史郎

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