ちょっと怖い「妖怪談」~山伏の災難/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第33回は、著者から猛暑にぴったりの納涼の贈り物、ある山伏が体験した妖怪談から補遺々々します。

 

ある山伏に起こった怖い出来事

日本各地で厳しい猛暑が続いています。読者の皆様に少しでも涼しくなっていただきたいと思い、今回は怖めの妖怪談をご用意いたしました。

 

長崎県の島原半島に伝わるお話です。

ある日の正午ごろ、北串山村をひとりの山伏が訪れました。

2、3軒の托鉢を終え、次の村へ向けて移動していますと、一時もたたない間に、とっぷりと日が暮れてしまいました。

 

――今日は、ずいぶんと暮れるのが早いな。

 

少々、不審に思いながら歩を速めていますと、向こうのほうから白衣を着た人々がやってきます。

葬式の行列でした。

山伏が歩いているのは、路傍へ避けることのできない、細い一本道。このままでは、葬式の場へ向かう者たちの邪魔になってしまいます。

しかたがありませんから、元来た道を引き返しました。

ですが……葬式の行列の移動はとても速く、疲れた山伏の足では追いつかれてしまいそうです。

困った山伏は行列をなんとかかわそうと、道端に生えている木によじ登りました。行列が通過するのを、木の上で待とうと考えたのです。

ところが。

葬式の行列は、山伏の登った木の前でピタリと止まってしまいます。

なんだろうと見ていますと、白衣の人々は運んでいた棺桶を木の根元に下ろし、なんとその場で葬式を始めたのです。

これには山伏も驚き、木の上でじっと、その様子を見ていました。

 

 

 

無気味な葬式の後

 

葬式が終わりますと、白衣の人々は棺桶を木の根元に埋めてしまいました。

それも終わるとふとりふたりとその場から去り、やがてだれもいなくなってしまいます。

取り残された山伏は、ひどく気味が悪いです。

自分のいる木の下に、棺桶が埋まっているのですから。棺桶があるということは、当然、そこに人の死体があるのです。

下りたくても下りられず……かといって、このまま木の上で夜を明かすわけにもいきません。どうしたものかと困り果てていますと、どんどんとあたりは暗く、静かになっていき、そしてとうとう、世にも恐ろしいことが起きてしまうのです。

埋められていた棺桶から、何者かが這い出てきたのです。

棺桶の中身ですから、おそらく死体でしょう。

それはすぐに山伏のいる木を登ってきました。

山伏は必死になって上へと上へと逃げ、ついには木のてっぺんまで登りました。

棺桶から出てきた者は、白い手を伸ばして山伏の足を掴もうとします。

恐ろしさが極まった山伏は、そこで持っていた法螺貝を大きく吹き鳴らしました。

 

ぶおぉぉぉぉぉぉぉ

 

なんでしょう……法螺貝の音に重なって、人の声のようなものが聞こえます。

山伏は、そこで気がつくのです。

山の向こうに没していたはずの陽が、まだ空の上にあることに。

まだ、日は暮れてはいなかったのです。

木の周りには、いつの間にか畑仕事をしていた村人たちが集まって、山伏を見上げてワイワイと騒いでいます。

いったい、なにが起こったのでしょう。

 

 

怪異の真相?

実は、このようなことがあったのです。

この村で托鉢にまわる前、山伏は諏訪の池と呼ばれる池の近くを通りました。

ふと見ると、路傍に生えている木の根元で一匹の狸が気持ちよさそうに昼寝をしていたので、つい茶目っ気を出した山伏は持っていた法螺貝を狸の耳のそばで大きく吹き鳴らしてしまったのです。

当然、寝ていた狸は驚いて飛び上がり、大慌てで逃げてしまいました。

きっと、狸に仕返しをされたのでしょう。

 

kuroyoukai20180724

文・絵=黒史郎

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