ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

70年代オカルト女子たちの工夫と戦略

こうして数々の女子的「脱法コックリさん」を俯瞰してみると、いくつかの共通要素が見えてくる。もちろん「コンコンさま」のような例外もあるが、全体としてはどれも「憑依されたり呪われたりする心配のない安全な儀式」を(一応は)前提としており、「禁止令」下でも「これは大丈夫」と言い逃れができる儀式でなければならない。

このことは単に「先生対策」であるだけでなく、当時はさまざまなメディアが「コックリさん」の「憑依事件」をおどろおどろしく伝えていたので、本人たちもやはり単純に怖かったということもあったはずだ。とにかく「コックリさん」が持つ「怖いイメージ」をなんとか払拭する必要があったのだ。

そこで女の子たちが考えたのは、「名前をかわいくする」「文字盤をかわいくする」という2点である(笑)。そんなことで「霊障」や「呪い」に対抗できるのかという不安はあるが、恐怖に「かわいい」をぶつけて無力化してしまおうという発想は、やはり女子的には正当な対処のしかただったのだとも思う。

「エンゼルさん」「キューピッドさん」「ラブさま」などは、「呼び寄せるのは霊ではなく、無害で純真な『愛の天使』なのだ」というイメージ転換を意図したものだと思われるが、さらに後年の「フラワーさん」「ニッコリさん」などになると、そうしたコンセプトも消えて、もはやなんだかよくわらない「能天気さ」だけが漂う。とにかく「かわいくて明るくてファンシー」なフワフワ脱力系にしてしまうことで、「霊障」とか「呪い」といったものからできるだけかけ離れたものにしたかったのだろう。その最たるものが「森のシチュー屋さん」だが、ここまでくると「バカっぽい」という問題も出てきて、「天使系」の以降の儀式があまり普及しなかった背景には、「恐怖」を脱色しすぎたということもあったのだと思う。

「文字盤」のアレンジも重要だ。「コックリさん」の「文字盤」において「恐怖」の感情を呼び起こすのは、言うまでもなくあの鳥居である。これをハートマークや花の絵などの「かわいいもの」に変えてしまえば「もう大丈夫!」というわけだ。これまた馬鹿らしいほどシンプルな発想だが、しかし鳥居の印が日本人に喚起する畏敬の感情はやはり強烈である。ここを変更するだけでかなり印象は違ってくるのは確かだ。

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『キューピッドさんの秘密』に付録として折り込まれていた「分身さん」用の「文字盤」。これは相手の「分身」(つまり生霊?)を呼び出し、ダイレクトに気持ちを聞くことのできる恋占い。ほとんど「コックリさん」と同じ文字盤を使用するが、鳥居の代わりにハートマークが描かれ、「yes/no」のアルファベット表記が用いられている。

また、「脱法コックリさん」にはアルファベットを使うものが多いが、これもまた「かわいい」に根差した改変なのだと思う。文字の持つ呪術的な雰囲気を消し去る、ということだ。「コックリさん」の「文字盤」で表記されるひらがなの「はい/いいえ」は怖いが、「yes/no」だと「あ、なんかオシャレ!」という印象になる(笑)……といった認識だったのだろう。

さらにポイントとなるのが、10円玉の代わりに鉛筆を用いる「儀式」が多いこと。これはウチの学校でもそうだったが、当時の先生は「コックリさん」を排斥する際、「お金をおもちゃにするな!」という言い方をよくしていたのである。今思えば、「コックリさんは危ないからやめなさい」と言ってしまうと、教師が「霊」の存在を認めることになってしまう。これに抵抗を感じ、ポイントをずらして「お金をおもちゃにするな!」という部分で子どもたちを叱る先生が多かったのだと思う。このあたりのことは今ではあまり語られないが、教室で堂々と楽しめる「儀式」には、「硬貨を使わない」はけっこう重要な要素だったはずだ。

 

こうして見てくると、僕のようなオカルトかぶれの70年代小学生男子は、常に「バカ丸出し」でアレコレのオカルトネタを楽しんでいたが、同じく当時の女の子たちもやはり「バカ丸出し」だったのだなぁと微笑ましくなってくる。しかし、どうして彼女たちがこれほどアホな試行錯誤と工夫を重ねてまで、男子的にはすでに「終わったブーム」である「コックリさん」に、その後約10年間にも渡ってしつこくこだわり続けたのか?……というのは、やはりひとつの大きなモンダイなのだと思う。

それは結局のところ、どうして多くの女性は昔も今も占いやおまじないに類するものに夢中になるのか?ということであり、これを考えはじめると、自分ではいかんともしがたい「運命」といったものに一方的に翻弄される不安を、男性よりも女性の方がより強く実感しやすい不均衡な社会構造が常にあるから、といった古今東西に共通する暗澹たる話になって、その「主体的には生きにくい」という不自由な感覚を、すでに小学校の低学年女子すらも共有していたのだということが70年代「コックリさん」ブームからも見えてくる……という絶望的な結論になりそうなので、ここらで筆を置くことにする(筆で書いてないけど)。

 

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

 

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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