他者を取り込む禁断の呪術は実在する!? 生き人形「悪偶」

文=松雪治彦

生命を呪力に転換する「蠱毒」

 

全身の骨を砕かれ、血を抜かれ、針と糸で肌を縫われ、人形のように縛り上げられる――。さらに不死の術を施されて、苦痛を味わいながら生きつづけることを強いられた人間は、強力な〝呪具〟となる。

それが「悪偶(あぐう)」である。

生き人形にさせられるのは、天賦の才能を持つ者、天才たちだ。「悪偶」を身につけたものは、犠牲となった天才の能力を得て、この世の栄華に浴することになる。犠牲となる本物の悲劇と、能力を奪うだけの偽物の栄光は、密かにこの世界で繰り返されているのだ……。

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以上の話はテレビアニメ「悪偶—天才人形—」(以下、「悪偶」)の世界のものだが、「ムー」読者なら、この生き人形呪術から「蠱毒」を想起するだろう。ヘビやムカデやカエルなど毒を持つ動物を小さな壺などに閉じ込め、生き残ったものを最強の呪物として用いるという中国古来の呪術だ。「悪偶」だけでなく、映画などの題材になることも多い。

または、生きながらの苦痛を呪力に変える意味では、犬を生きながら穴に首まで埋め、エサを眼前に置いて餓死寸前に追い込んだところで首を刎ねる「犬神」にも通じるものがある。

「犬神」も動物を用いた「蠱毒」の一種であり、これらは古来、中国や日本において実際に行われていたものだ。日本では平安時代、中国では清朝においても、たびたび禁止令が出されているほどなのだ。

または、ネット都市伝説の「コトリバコ」を思い出す人もいるだろう。幼児の遺体をカラクリ細工の箱に詰めて相手に送ると祟りをなし、相手の家系は途絶えてしまう(=子獲り)というものだ。

中国のネット漫画を原作に持つアニメ「悪偶」はフィクションではあるが、「コトリバコ」と同じく、伝統呪術が現代においてさらに凶悪な術式に発展したようなという、史実と地続きの迫真性がある。

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呪力は自らに跳ね返る

 

だが、「蠱毒」「コトリバコ」との根本的に異なるのは、「悪偶」呪術の目的が、憎い相手に祟り、呪い殺そうとするものではなく、他者の才能を簒奪し、安易に栄誉を得ようとする我欲にあるところだ。

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「悪偶」呪術によって求められるのは、ライバルとの競争の勝利であり、社会的な成功であり、また、それらを通じた親からの承認としても描写される。その渇望には限界はなく、その意味で「相手を呪い殺したい」呪詛よりも業は深い。作中人物の心中は複雑に表現されているが、いったい何のために禁断の呪術に手を染めたのかという自問が根底にはあるだろう。

「悪偶」は、術者の身体に縫い付けられることで呪力を発揮する。糸に重ねてしまうイメージは拡張された神経細胞(ニューロン)であり、また、奪ったはずの能力に生き方を左右されてしまう、哀れな操り人形のお糸である。そしてまた、あらゆるモノがネットワークにつながり、相互に影響して監視する世相をも思わせる。

術を行使する目的に我欲が入り込んだとき、術者と呪物の関係は逆転する。生き人形のエネルギーは術者を蝕み、操ってしまうのだ。雑にまとめれば文明批判にもなるが、呪的であろうがなかろうが、自己を拡張するはずの物質に執着してしまい、しばりつけられ、ふりまわされている現代は、人間を操る呪術ネットワークが完成した時代といえる。だれも彼も、何者かの「悪偶」として生きさせられている……。

それもある意味で、人類社会が到達した苦悩との共存策なのかもしれない。

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TVアニメ 「悪偶 -天才人形-」

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毎週月曜日深夜0時~TOKYO MX、サンテレ  ビ、KBS京都、BS11にて放送。GYAO、ニコニコ生放送、dアニメストアなどでも配信中。

http://aguu-anime.com/

©騰訊動漫

(「ムー」2018年9月号より抜粋)

文=松雪治彦

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