ちょっと怖い妖怪談 其の二〜〜二度来る僧侶/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第34回も、ちょっと怖い妖怪談から、広島県の宮島に伝わる怪異を補遺々々します。

 

高僧の不思議な体験

どんなに偉業を成した人でも、どんなに優しい心をもつ人でも、人は人であるかぎり、欲を捨てきれません。その欲心が醜いものであればあるほど、人はそれを隠し、表に出さないようにするもの。

ですが、どんなに隠しても、その心はだれかに見られてしまっているかもしれない、今回はそういうお話です。
舞台は広島県の宮島。ここには浄土宗の寺院、光明院があります。

その開基である以八(いはち)上人は、実に不思議で怖い体験をされているのです。

村上辰午郎「厳島に関する事」 『旅と伝説』通巻十六号から、そんな1話をご紹介いたします。

 

以八上人が行脚で山へ入ったときのことでした。そろそろ陽も暮れてきたので、一宿を乞おうと一軒の家をたずねました。

ところがその家は今、とても大変なときでした。たった今、この主人の妻が亡くなってしまったのです。

それでも主人は断ることなく、「このような所でもよろしいならば」と受け入れてくれました。

主人はこれから、山ひとつ向こうにあるお寺に行かねばなりません。妻の死を伝え、葬儀をしてもらわねばならないのです。迎えに行っている間、妻のことを守って留守をお願いできませんかと、逆に頼まれてしまいました。

「たやすいことです」と留守を引き受けた以八上人は、主人が出ている間、妻の死体の枕元に座って読経をしていました。

どれくらいたったころでしょうか。家に、ひとりの僧が入ってきました。

この僧、以八上人の目の前で、鳥肌の立つような不気味な行為をはたらいたのです。

 

異様な光景

僧は妻の死体に近寄りますと、何を考えてか、その衣をはぎ取りはじめました。そしてその死体の顔を、べろべろと舐めだしたのです。

なんと異様な光景でしょう。

幾度も死体の顔を舐めた僧は、そのまま家を出ていってしまいました。

今の光景はなんだったのだろう……不思議に思っていますと、主人が僧を連れて帰ってきました。

なんと主人が連れてきた僧は、先ほど来た死体の顔を舐めていった者と同じ人物でした。

これも何かの縁です。以八上人は妻の葬儀が終わるまでこの家に滞在させてもらい、後に山の向こうにあるという寺へ向かいました。

着いた寺は、本堂がぼろぼろでした。

 

怪異の真相

妻の葬儀をとりおこなった僧に会いますと、このようにたずねました。

「あなたは先日、死人が出たと報せを受けたとき、何かを心に思ったでしょう?」

そんなことはないと否認するので、あの晩に見た不思議な光景について話しますと、相手の僧は顔を真っ赤にし、「まことに恥ずかしいことです」と真実を語りました。

死人が出たという報せを主人から受けたとき、僧はこう思ってしまったそうなのです。

「ああ、これで本堂を修繕するお金が入る」と。

きっと、そんな欲が生まれてしまったため、あのような異様な光景を見せてしまったのでしょう。

この一件から、以八上人は大きな寺を建てることは欲心の基であると悟り、厳島へ来ると小さな庵に住みました。それが後の光明院であるということです。

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文・絵=黒史郎

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