ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

モンスター「ミイラ男」の誕生

前回の本コラムでは、70年代なかばあたりまでの子ども文化において奇妙な「ミイラブーム」(のようなもの)が起きており、特撮ドラマなどを中心とした多くの子ども番組にミイラをモチーフとしたさまざまなキャラが続々と登場していた……という記憶について回顧した。今回は、我々世代が幼少期を過ごしたあのころ、どうして「ミイラ」があれほどまでにもてはやされていたのか、その要因を探ってみたい。

 

当時の子ども向けメディアに登場するミイラといえば、主流となるのはモンスター化された「ミイラ男」である。つまり、なんらかの超自然的な力によって蘇り、干からびた体に包帯を巻いた姿のままで動きまわる「バケモノ」としてのミイラだ。前回列挙したように、こうしたキャラは無数の特撮ドラマに悪役・怪人として起用され、また当時は盛んに読まれた『妖怪事典』の類の児童書にも、「西洋の妖怪」といった形で紹介されることが多かった。僕ら当時の子どもたちにとっては、おなじみの定番ホラーキャラだったのである。

しかし、考えてみれば変な話で、ミイラは本来、古代エジプトなどで行われた人為的加工によって長期保存された死体のことである。妖怪でもなければ心霊でもないし、誰かが創作したキャラクターでもない。現実に存在するものなのだ。それがなぜ体中に包帯を巻いた「バケモノ」として定型化され、「ミイラ男」などという妙な呼称まで与えられて、フランケンシュタイン博士の人造人間や吸血鬼ドラキュラ、半魚人、狼男などと同列の「舶来モンスター」として広く認知されるようになったのか?

……と、わざとらしい問いかけをしてみたが、この問いかけ自体に実はヒントがあるのだ。フランケンシュタイン博士の人造人間、吸血鬼ドラキュラ、半魚人、狼男と同列に「ミイラ男」が扱われていた、というところがポイントなのである。

上記のドラキュラや狼男などの超定番「舶来モンスター」たちはユニバーサル社の怪奇映画のオールスターであり、一般に「ユニバーサル・モンスターズ」と呼ばれている。それぞれ『フランケンシュタイン』『魔人ドラキュラ』『大アマゾンの半魚人』『狼男』など、30~50年代に制作された映画のシリーズによって、一気に定番モンスターとして世界中に知れわたったキャラクターだ。

で、ミイラもまた1932年製作の『ミイラ再生』という映画で主役モンスター(?)に起用され、ここに初めて「体中に包帯を巻いたバケモノ」としてのミイラが誕生する。「ミイラ男」という奇妙な訳語(「狼男」を前例にして考案されたモンスターとしての名称だと思う。原語では単にThe Mummy)が広く用いられるようになったのも、この映画の日本公開(33年)からだろう。本作でジャンル化された「ミイラ映画」シリーズは1955年までにユニバーサルで5本製作され、59年からはやはり怪奇映画で名高いハマー・フィルムに引き継がれ、71年までに4本もつくられている。

つまり、欧米ではすでに30年代からミイラといえば怪奇映画の定番モンスターだったのだ。日本でもシリーズ第1弾の『ミイラ再生』は話題になったようだが、特に国内の子ども文化に大きな影響を与えたのは、「戦後型ミイラ映画」の代表作とされるハマー・フィルムの『ミイラの幽霊』だ。59年に公開されたこの映画によって、60年代以降の日本の子どもメディアに続々と「ミイラ男」をモチーフとしたモンスター的悪役キャラが登場することとなったのである。

 

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映画『ミイラ再生』(1932年・米)。カール・フロイント監督、ボリス・カーロフ主演。以降、シリーズ化される「ミイラ映画」の原点。現在もDVD、ブルーレイの両方で販売されている。1959年のハマー・フィルム製作『ミイラの幽霊』の方は、残念ながら現行品として流通しているソフトはない。

 

日本中にトラウマを与えた『恐怖のミイラ』

ユニバーサル及びハマー・フィルムの「ミイラ映画」の直接的な影響を受け、日本でも本格的な「ミイラもの」が製作されている。

それが1961年にテレビ放映が開始された『恐怖のミイラ』だ。おそらくこの番組が日本の子どもたちの「ミイラ観」を強烈に決定づけたのだろう。テレビによる連続特撮ホラードラマの先駆け的作品で、当時子どもだった人たちの記憶によると「トラウマ級に怖かった!」のだという。火曜日7時半からの放映なのであくまでも子ども番組だが、大人たちの間でも話題になっていたようだ。

ストーリーはまさに「ミイラもの」の典型である。法医学の教授と考古学博士が、エジプトで発掘された4000年前のミイラを蘇生させる実験を密かに行っている。蘇生実験は成功するが、生き返ったミイラは博士を殺し、夜の闇へと消えてしまう。やがて街では謎の殺人事件が多発しはじめる……。

最終的には、人間の勝手な都合で生命を与えられてしまったモンスターの悲哀を感じさせる悲劇的展開になるが、これは「ミイラもの」の典型というより、『フランケンシュタイン』以降のモンスターもの全般の定形を踏襲した作品といえるだろう。

生まれる以前の作品なので僕は数年前に発売になったDVDで初めて見たが、正直、脚本や演出的にはかなりグダグダで「は?」となってしまう部分が多いものの、終始陰湿で暗い場面構成、不気味な音楽、そしてなんといってもグロすぎるミイラの造形など、確かに小学生時代に見ていたら「ひぇ~っ!」と叫んでしまうであろう場面の目白押しだった。

 

 

こうして60年代初頭に日本でもすっかりミイラはモンスター化され、以降ブームのような形で子ども向けメディアに「ミイラ男」が続々と登場する状況が定着し、僕ら世代はその後期、いわば「ミイラブーム」の残滓のなかで幼少期を過ごしていたわけだ。

多くの「舶来モンスター」同様、「ミイラ男」の荒唐無稽なホラーテイストは70年代後半にはリアリティを失い、子ども文化においてもあまり語られなくなったが、一昔前に吸血鬼映画がハリウッドホラーの新たなトレンドになったように、またギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』で突如(一瞬だけだったけど)半魚人が復活したように、ハリウッドでは「ミイラもの」復権の動きもある。というか、あった。

ユニバーサルは往年の「ユニバーサル・モンスターズ」の映画をリブートしようと、「ダーク・ユニバース」というプロジェクトを進めており、その第1弾として製作されたのが日本でも昨年公開された『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』である。1932年の『ミイラ再生』のリブート作品だ。「ミイラ男」ならぬ「ミイラ女」が大暴れするトム・クルーズ主演のアクションホラーで、ユニバーサルはこれを皮切りに往年の「舶来モンスター」映画をドシドシ送りだすつもりだったようだ。が、残念ながらこれが大コケ……。「ダーク・ユニバース」というプロジェクト自体の雲行きも怪しくなっているらしい。

もちろんミイラに思い入れのある僕は『ザ・マミー』を見たが、クラシックな怪奇映画的な雰囲気や、大味でユルい80年代風アドベンチャー映画の陽気なタッチに好感は持ったものの、やはり「なんじゃこりゃ?」というガッカリ感は否めなかった。が、それでも往年のモンスターを復活させるという時代錯誤感バリバリのアホな企画は、アホだからこそおもしろくなり得るとも思うのである。すでに投資筋はプロジェクトから逃げ出しているらしいとの噂もあるが、ユニバーサルはあきらめないでほしい。ミイラ、がんばれ!

 

 

さて、長々と語ってきたが、これまでの流れは当時の「ミイラブーム」の要因の半分を解説にしたに過ぎない。「ミイラブーム」はモンスター化された「ミイラ男」関連のアレコレだけでなく、それと並行してよりリアルなミイラに関するアレコレ、それに付随してピラミッドに関するアレコレ、またエジプト文化に関するアレコレなど、もうちょっと本格的なオカルトネタや古代史に関する話題とともに子どもたちを魅了していたのだ。

次回は、そのあたりの事情を回顧してみたい。

 

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『恐怖のミイラ』。1961年に日本テレビ系で放映された。当時から「失神する視聴者が続出した」といわれ、放映終了後は「怖すぎたから打ち切りになった」との噂がたったのだとか。『月光仮面』『遊星王子』『怪傑ハリマオ』などで知られる宣弘社プロの制作。現在もDVD、ブルーレイが販売されている。

 

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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