1960年代の「古代エジプト」ブーム/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

ツタンカーメンの呪い

社会現象となるほどの大騒ぎだったツタンカーメンのブームは、もちろん子ども文化をも直撃する。夏休みのたびに各地の博物館やデパートなどで「古代エジプト展」に類するイベントが開催され、ツタンカーメンのマスクやピラミッド、スフィンクスなどは子どもたちにとっても探究心を刺激する魅力的なアイコンとなっていった。また、同時期に欧米でも「エジプトブーム」が起きていたため、『007 私を愛したスパイ』(77年)や『ナイル殺人事件』(78年)など、子どもの人気を集めた洋画にも「エジプト推し」の作品が増え、ブームに拍車をかけていた。この時期に放映がスタートした第2期の『ルパン三世』や、同作の劇場版『ルパンVS複製人間』も、なぜか妙に「エジプト推し」の傾向があったことも印象的だ。

また、78年に東京・池袋のサンシャイン60内にオープンし、子どもたちのトレンドスポットとなった古代オリエント博物館も、こうした流れのなかに位置づけられだろう。この子ども文化における「エジプト憧れ」の傾向は、78年にヒットしたドラマ『西遊記』、80年に社会現象化したNHKの『シルクロード特集』などの「オリエント再発見」的なブームと堺を接しながら、漠然とした「太古・異国へのロマン」みたいなものとして、80年代なかばくらいまで持続していたと思う。

しかし、「ツタンカーメンブーム」が昭和こどもオカルト文化に残した最大のネタは、なんといっても「呪い」に類するアレコレである。これはもう当時の子どもたちの基礎教養であり、ツタンカーメンとかピラミッドという言葉を聞いた途端、我々世代の頭に浮かぶのは「呪い」の一語なのだ。

ピラミッドからミイラや財宝を発掘した探検隊が一人ずつ謎の死を遂げた……というおなじみのエピソードについて、『ツタンカーメンの呪い』『ファラオの呪い』『王家の谷の呪い』などなどと称し、何十冊もの児童書が刊行され、児童雑誌なども何度となく特集を組んだ。しまいには「もういいよ!」というくらいに定番のネタになってしまったが、小学校低学年で初めて知ったときは心底怖かったし、また、「呪い」説を否定する新説として一時期流行した「ウィルス説」を知ったときも驚愕した。探検隊の「怪死」は超自然の力によるものなどではなく、古代エジプト時代の特殊な細菌の感染によるものだとする説で、妙な説得力とリアリティに心から納得してしまったのである。

この種の逸話は、ほとんどが尾ヒレをくっつけまくった与太話で、そもそも探検隊員は誰も「怪死」などしていない……という説が後に有力になったが、それでも僕などはツタンカーメンの黄金のマスクを目にするたびに、いまだに「怖いっ!」という当時の感覚がまっさきによみがえってくるのである。

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少年少女講談社文庫の一冊、『ツタンカーメン王の秘密』(ハワード・カーター著/塩谷太郎・訳/1972年)。僕が最初に読んだ「ツタンカーメンもの」だったと思う。カーターによるツタンカーメンの墓発見のドキュメントで、終章にはもちろん「呪い」の話も。一応、「呪いはなかった」と結論されているのだが、それでも当時はこの章が非常に怖かった!

さて次回は、「ツタンカーメンブーム」によって再燃した「ミイラブーム」が、日本ならではの形で独自に進化(?)していったプロセスを見ていきたいと思う。70年代オカルトブームにおける心霊ネタと「ミイラブーム」の融合のような形で、テレビや児童書が盛りあげまくっていた和製ミイラ、「即身仏」のお話である。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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