80年代釣りブームと「ツチノコ」/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

「ツチノコ」ブームの過熱と衰退

前回は「ツチノコブーム勃発!」までの経緯を解説したが、今回はまずその続きを時系列に沿って見てみよう。

 

先述したとおり1973年に田辺聖子の小説『すべってころんで』、及びそれを原作としたテレビドラマによって「ツチノコ」はブーム化した。現在も「ツチノコ」話につきものの逸話となっている西武百貨店の「ツチノコ手配書」が配布されたのも同年のことだ。西武が「ツチノコ」に懸賞金をかけ、このことがブームをさらに過熱させるきっかけとなったとされている。広告効果も兼ねた意表を突く企画だが、これはもともと西武側が『すべってころんで』のモデルになった山本素石氏に話をもちかけて実現したもの。彼が率いる「ノータリンクラブ」(前回コラム参照)との共同プロジェクトだった。

同じく73年、僕ら世代には『釣りキチ三平』でおなじみの釣りマンガの大家・矢口高雄が、『幻の怪蛇・バチヘビ』を『少年マガジン』に連載する。「バチヘビ」とは「ツチノコ」の別名だ。矢口氏自身、かつて「ツチノコ(らしきもの)」を「チラ見」した経験を持っているという。『幻の怪蛇・バチヘビ』は、そういう彼が仲間とともに行う「ツチノコ探索」をドキュメンタリーとして描いたもので、いわば『水曜スペシャル・川口浩探検隊』風フォーマットのマンガだった。

ただ『水曜スペシャル』のように「おもしろければヤラセも辞さず!」と娯楽にフリきった内容ではなく、フィールドワークと目撃者への聞き込みをひたすら繰り返すという、少年マンガとしてはかなり地味で誠実(?)な作風。なんだかんだありがら「結局は見つからない」というオチになるのだが、だからこそリアルで印象に残る作品に仕上がっていた。また、自然と野生動物の描写にかけては右に出るもののない矢口氏が描く「ツチノコ」の想像図が随所に登場し、これがとにかく強烈だった。「ツチノコ」ブームの初期にあった「猛毒を持った禍々しい妖怪」のような恐ろしいイメージ(ブーム初期において「ツチノコ」は「見ても語っても呪われる」という「禁忌」の存在とされることが多かった)と、リアルな爬虫類感が絶妙なバランスで共存している。力感とリアリティに満ちた矢口氏の「ツチノコ」こそ、70年代の子どもたちの「ツチノコ」イメージを決定づけたと言えるだろう。

さらに74年、翌75年には『ドラえもん』にも「ツチノコ」が登場する。特に75年に小学館『小学六年生』に掲載された「ツチノコみつけた!」は僕ら世代の記憶に残る傑作だった。矢口氏のタッチとはまったくベクトルの違うF先生ならではのキュートな「ツチノコ」に、多くの子どもたちが魅了されたのである。

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『幻の怪蛇 バチヘビ』(矢口高雄・作/講談社/2000年)。73年に『少年マガジン』に連載開始されたマンガによるドキュメント風「ツチノコ探索記」。同年末には単行本が刊行され、子ども文化における「ツチノコブーム」の起爆剤となった。現在は2000年刊行の文庫版が入手可能。

その後、ブームはますます過熱。多くの「ツチノコ探検隊」サークルが結成され、人々が山深い渓流に繰り出したり、西武同樣、企業が懸賞金をかけたり、町おこし・村おこし目的で自治体が賞金付きのイベントを開催したりといった動きが各地で見られた。ブームが好事家たちの範囲を越えて拡大すれば、「場」が荒らされるのは必然である。とくにメディアとカネが絡めば怪しげな連中も参入してくれるわけで、この時期には捏造した情報やインチキな「証拠物件」を売る「ツチノコ詐欺師」的な人物があちこちで跋扈していたようだ。

ブームのオリジネーターである山本素石氏も「ツチノコ詐欺」にあっており、そのあたりで彼はブームに愛想をつかして「ツチノコ探索」からあっさり降りてしまう。彼の「ツチノコ随筆」が『逃げろツチノコ』と題されているのも、ある種の悲しい皮肉だろう。自分と仲間たちが長年追い求めてきた「密かな愉しみ」であった「ツチノコ」を、今はメディアに煽られた素人(?)や商売絡みの連中が血眼になって追い求めている。こんな奴らにシッポをつかまれるくらいなら、「ツチノコ」が永遠に「謎」のままであるほうがよっぽどマシだ。だからこその「逃げろ!」だったのだと思う。

過熱したブームがすぐに冷めるのも世の常で、大騒ぎをした人々は2年足らずで「ツチノコ」に飽きてしまったようだ。ニワカ的に結成された無数の「ツチノコ探検隊」も、もちろん成果をあげられないまま次々に空中分解。こうして一世を風靡した「ツチノコ」の狂乱は下火になっていった。ただ、ブーム以降「ツチノコ」が語られなくなったというわけではなく、オカルトネタにおける代表的UMAとして完全に定着し、愛好家たち(?)は相変わらずイベント的な探索ツアーなどを続けていたようだ。

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『逃げろツチノコ』(山本素石・著/山と渓谷社/2016年)。第一人者が自らの「ツチノコ探索」の顛末を描いたユーモラスなエッセイ。もともとは1973年に二見書房から刊行、長らく絶版状態だったが2016年に山と渓谷社より新版が発売された。新版の解説は『ムー』の三上編集長!

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