止まらない血――正体不明の嫌な鳥/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第39回は、正体不明ながら、嫌なエピソードをもつ鳥の怪異を補遺々々します。

 

忌み嫌われる鳥のイメージ

第10回の「妖怪補遺々々」では、鳥の妖怪や鳥を不吉なものとする俗信をいくつかご紹介しました。

もっとも不吉とされる俗信が多い鳥は、やはりカラスでしょうか。その見た目、声、習性などから怖いイメージに繋がるのかもしれません。作物を荒らし、ゴミをあさり、小動物をいじめ殺すといった陰湿な性格を持っているイメージもあります。

雀や鳩など、私たちが日常でよく見かける無害そうな鳥も、不吉な存在とされているケースがあります。

ですが、今挙げたものはいずれも、だれもが知っている鳥です。

出遭った状況と場所によっては不吉な存在にもなるかもしれませんが、その姿と名前を知っているぶん、そこまで怖い存在にはなりません。

怖いのはやはり、「正体不明」であることでしょう。

名前もわからない、姿も見たことがない、鳥なのかすらわからない。

今回はそんな無気味な3羽をご紹介いたします。

 

正体不明のイヤな鳥たち

  • 比江(ひえ)の怪鳥

江村老泉(えむらろうせん)は江戸時代中期から後期の書家です。

これは彼が高知県長岡郡比江村にある、とある農家に泊まったときのことです。

 

夜更けに便意をもよおしてきた老泉は厠へと向かいました。

本宅から離れたところに大きな厠があり、そこへ入ろうというときに、彼はたくさんの大きな影が空から降りてくるのを目撃しました。

それが厠の屋根の上にとまって身を震わせると、まるで地震のように厠が揺れて、今にも崩れそうでした。

いつ、襲ってくるかもわかりません。老泉は脇差を抜いて構えていましたが、どういうわけか、化け物は一向に来る様子を見せず、そのまま去っていきました。

いったい、どんな化け物だったのでしょうか。それにしても、用を足そうと急いでいるときに、なんと迷惑な鳥でしょうか。

 

  • 怪鳥

ある夕暮れどきのことです。

愛知県北設楽郡納庫(なぐら)村に住む猟師が、仕事を終えて山から帰っていました。

すると、老木の枝になにかがとまっているのが目にとまりました。

それは鳥とも獣ともつかぬ、なんとも不思議な生き物です。

猟師は鉄砲で狙いをつけ、ズドン。

その鳥のようなものを一発で打ち落としてしまいました。

さて、こいつはなんだろうと拾い上げてみますと――なんでしょう。わかりません。それは鳥ではあるようなのですが、見たことのない鳥なのです。

鳥は撃たれた傷から、おびただしい量の血を流しています。この血が、一向に止まる気配を見せない。しかたがないので、そばにある岩の上に鳥を置いておきますが、その後も血は止まることなく流れつづけます。

猟師は気味が悪くなってしまい、鳥をそのままにして帰ろうとしました――が、やはり途中で思いなおし、岩のある場所へと戻りました。

不思議なことに、岩の上に置いたはずの鳥が、なくなっています。血の跡まで消えていました。

この不思議な出来事を人に話すと「天狗の仕業だろう」という人もいたようですが……。

さて、いったいなんだったのでしょうか。

 

  • ごきとん鳥

こちらも、北設楽郡に伝わる鳥です。

秋になりますと、夜は山の木立の奥から、とても寂しい声が聞こえてきます。

これは「ごきとん鳥」の声なのです。その鳴き声から「はすとん鳥」とも呼ばれていたそうです。

この鳥、鳴き声は聞こえても、その姿を見た者がいません。

そして、この鳥の姿を見てしまえば、その者は死んでしまうといわれています。そのため、人々からはとても気味悪がられている鳥なのです。

ですが、豊根村では、こういわれていたそうです。

――鷹に似て身体が小振りな鳥。あるいは、杼 (「ひ」=機織りに使う道具。中央に「たて糸」を巻いた管を入れる凹みがある。)と似た形をしている、ともいわれていたそうです。

そうなのです。

この鳥の姿を見た人が、いるということです。その人はやはり、鳥を見た後に死んでしまったのでしょうか。

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文・絵=黒史郎

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