自分の内側に耳を澄ませる――オックスフォード式マインドフルネス

文=文月ゆう

ヘトヘトになった心を立て直す

『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』──イギリスでは現在、こんなタイトルの書籍がメンタルヘルス分野のナンバー1ベストセラーとなっている。

著者は、役者で、コメディエンヌで、うつ病経験者のルビー・ワックス。ビジネスの成功者で、周囲の人から敬い畏れられる父と、潔癖症で子供に厳しい母の間に生まれた彼女は、「経験も才能も完全にゼロのまま」役者を目指し、紆余曲折ののちコメディエンヌとして活躍をはじめ、人気を博す。

その状態で25年間、全力疾走したものの

「心のエンジンが焼きついて、アクセル全開のまま崖っぷちから真っ逆さまに転落した」

重篤なうつ病になったのだ。

入院した先の病棟で、椅子に座ることだけしかできない状態が何か月もつづいたという。

その後、自分を立て直すべくオックスフォード大学へ入学し、マインドフルネス認知療法を学んだ。その集大成が冒頭の本だ。

「私たちの多くが、ヘトヘトになった心を抱えて生きています」と、ルビーはいう。「現代は非常事態にあります」とも。

なぜ心がヘトヘトになってしまうのか。ルビーによれば、おもな理由は次の12個だ。

 

①「ネガティブ」に引かれる

ヒトは少なくとも数十万年以上もの間、自然の猛威や外敵から逃れることに腐心していた。危険のない状態で暮らせるようになったのは、人類史のなかではつい最近のこと。しかも先進国のみだ。そのため、ヒトの脳は依然として危険に敏感で、ポジティブなことよりネガティブなことに注意を向けてしまう。

 

②ストレスも進化した

人類が誕生したころに比べると、ヒトの脳は3倍の大きさになった。巨大な脳に促されてヒトは思考を獲得し、文明を築いていったが、同時にストレスも進化した。おそらく石器時代には、ストレスで死ぬようなことはなかったに違いない。

 

③脳に情報を詰め込みすぎ!

神経科学者のダニエル・レヴィティンによると、現代人は仕事以外の時間だけでも、毎日10万語の情報を処理しているという。ただ、コンピューターと違って、人間の脳には休憩が必要なのだが、その暇がない。

「心身が発している信号に気づかなくては。スローダウンして、感覚に耳を澄ますのです」

 

④比較せずにいられない

「現代人は、いつでも他人の存在を意識しています。人と比べて自分が持っていないものを数えあげ、追いつかなくてはと思い詰めます。同じレベルになるだけじゃダメで、大きく差をつけて悔しがらせるくらいでなくちゃ、と考えています」

 

⑤選択に追われている

たとえばアイスクリームのフレーバーひとつを取っても、現代社会には選択肢が多すぎる。

「現代人は、一日の99パーセントを、選択することに費やしているんじゃないかしら。そのために心がくたびれるのは、とくに先進国に特有の問題です」

 

⑥「自動操縦」になっている

「歯磨きをする」「自転車に乗る」など、人間の脳は、複数の動作をまとめあわせてひとつの活動に落とし込む。そのため、いったん慣れてしまえば、意識しなくても一連の動作がスムーズに行える。これは便利な機能だが、危険もある。いつのまにか、さまざまなことが自動操縦モードになり、心ここにあらずという状態のまま、ただ動作だけをくり返してしまうのだ。

 

⑦マルチタスクで疲労困憊

マルチタスクは、人間だけがもつ能力のひとつだが……。

「私たちはマルチタスク能力を鼻にかけ、一度にこなせる作業の数を自慢します。でも、マルチタスクのせいで目の前の瞬間に集中できず、気づかぬうちに疲労困憊しているのです」

 

⑧過去と未来ばかり考える

「かつての人類は、茂みがガサガサしたら、猛獣がいるのか仲間がふざけているのか、すぐに見分ける必要がありました。過去の状況を思いだし、未来の結果に備えるのです。そんな能力があるからこそ、人類は生き残ることができました。動物も過去の危険を思いだしますが、ゾウに出くわしたらどうしようと考えて、不眠症になるネズミはいません。そうなったときに全速力で逃げるだけです。私たち人間は、なぜかネズミと同じようにはできません」

 

⑨孤独である

「これほどネットで人とつながれる時代なのに、私たちは孤独感を抱いています。人と直接の交流をせずにいるうちに、心の通わせ方も忘れていくようです。ネットだけで過ごすこともできるでしょうけれど、生身のだれかが笑ってくれるときと同じ気持ちになることはありません」

 

⑩幸せを捜さずにいられない

皆が幸せを求めているが、幸せの定義は人によって異なるうえ、永久にはつづかない。

「私たちは、ほんのいっときしか持続しないものを追いかけて、この人生を延々と費やしているのです。もっとも、絶頂感がずっとつづいていたら、ほかに何もできませんが……」

 

⑪充足がわからない

現代人は、「充足した気持ち」を求めているが、そうなるための方法がわからない。

「今の私が目指すのは、ハイにもローにもなりすぎない状態を保っていくことです」

 

⑫休息も弱音もNGか⁉

「人間らしくあるためには、立ちどまって、自分は弱っているといえるようでなければ。本心を隠し、心を開くことを拒絶しているせいで、私たちは寂しさや孤独を感じるのです」

 

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『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』/双葉社/定価1600円+税

 

マインドフルネスとは、何か、もしくはだれかに注意を向けて、ただそのままそこに意識を置くことだ。ポイントは、自分の内側に耳を澄ませること。浮かんでくる考えをあれこれ分析せず、一歩身を引いて見守るのである。

 

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(ムー2019年2月号 実用スペシャルより抜粋)

文=文月ゆう

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