「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

映画『霊的ボリシェヴィキ』の「妖精写真」

2018年に公開された高橋洋監督の映画『霊的ボリシェヴィキ』には、僕ら世代が子ども時代にすでに見飽きてしまっている「コティングリー妖精写真」が非常に唐突な形で登場する。

長宗我部陽子が演じる霊能力者が、子ども時代に森で見てしまったという「なにか」について語る場面だ。「それ」は言語では表現できない「表象不能ななにか」であり、映画の文脈ではケルト神話的な「旧支配者」、もしくはラヴクラフトの「クトゥルフ」のようなものであることが示唆されるが、ともかく「見てはいけないもの」であることが幼い子どもにも瞬時に理解できたという。「それ」を見てしまったがために、数日後に彼女は不具となり、一緒にいた弟は死亡している。

その「表象不能ななにか」は「表象不能」であるがゆえに言葉では描写できないのだが、その印象に一番近いもの(姿形が近いのではなく、あくまで見たときに与えられる印象)として示されるのが、「コティグリー妖精写真」の一枚なのだ。「ティンカーベル」そのもののような、あまりに通俗的な「妖精」を捉えた写真がアップで映しだされる。

 

非常に不気味な話のオチとして懐かしの「インチキ写真」が示される展開は、観客が僕ら世代だと失笑が起こってもおかしくないのだが、不意打ちのように唐突に映しだされた「コティングリー妖精写真」」を久しぶりに目にしたとき、僕は思わず身震いしてしまった。同時に、ほぼ40年前のすっかり忘れていた記憶、「コティングリー妖精写真」を初めて観たときの印象、というか「感覚」を、鮮烈に思い出してしまったのである。

 

そうなのだ、あの「妖精写真」を初めて目にしたとき、8歳かそこらだった僕はひどく怖かった。いや、「怖い」というか、前回のコラムで書いた通り、すでに見慣れた日本の「心霊写真」とはまったく次元の違うタッチがあまりにも異様で、なんだか不安な気分になったのだ。その後の「捏造である」という情報を知ったことでその印象は「なぁ~んだ」という感覚にアッサリ上書きされ、どこかへ消し飛んでしまったが、あれを「本物」として見せられ、その信じがたい光景を思わず喰い入るように眺めてしまったときの「不安な気分」は、あまりほかで味わったことのない、それこそ「表象不能」なものだったと思う。それを無理矢理にでも言葉で説明しようとするなら、「この世界の“向こう側”」が写ってしまっているという、なにか「現実の裂け目」が見えてしまったかのような「ヤバさ」の感覚だ。

あの馬鹿馬鹿しいほどにメルヘンチックな写真には、確かに「不安」が宿っている。その感覚は、19世紀後半、「心霊写真」が成立しはじめるころの人々の写真に対する感覚と、実はかなり近いのではないかと思う。

高橋洋は世代的に少し上だが、おそらく僕らと同じような「コティングリー妖精写真」体験を持っているのだろう。そして、『霊的ボリシェヴィキ』のあの場面は、最初の「妖精写真」体験の言葉にならない「感じ」、僕らがとっくの昔に忘れ去っていた「感じ」の再現をねらった見事な「離れ業」だ。そしてそれは、間違いなく「心霊写真」の、あるいは「写真」そのものの不気味さの本質を突く行為だったのだと思う。

2018movie1
映画『霊的ボリシェヴキ』(2018年/監督:高橋洋)。武田崇元が70年代に提示した「概念」をキーワードに、「あの世」を召喚する「霊的革命」を目指す集団の「実験」を描く。ホラー映画というより、今では死語となった「オカルト映画」と呼びたい稀有な怪作。

 

初めて目にした「本物」の「妖精写真」

写真は現実の忠実な投影でしかないはずなのだが、なぜか常に強烈な違和感を帯びている。その違和感は写真というものが普及しはじめたころはさらに大きかっただろうが、百数十年を経た現在も、本質的には変わらない。人間の感覚にとって、写真は根本的に不気味なのだ。なんの変哲もない写真も、あらためてじっと眺めてみれば、そこになにか不気味なものが「写っていそう」な気配が漂っている。「写っていそう」が、わかりやすく「写っている」に変わってしまったものが「心霊写真」であり、その差異は思いのほか小さい。すべての写真は「心霊写真」か、もしくは「心霊写真寸前」の写真なのだ。

写真の歴史の幕開けからほどなくして、作為的なトリックによる「作品」としての「不思議な写真」が登場し、それがさらに本当に「この世ならぬもの」を写してしまった「心霊写真」に進化(?)し、以来、それらが人々を常に魅了し続けているのは、そもそも我々が最初から写真に「現実の裂け目」を見てしまっているからだと思う。

199410mu2-1

1994年10月号の『ムー』掲載の特集「霊の姿を追い続けた心霊写真家たち」より。歴史的な心霊写真を紹介しながら、虚実入り乱れる19世紀末の代表的な「心理写真」騒動の数々を解説。

 

昨年、ちょうど『霊的ボリシェヴィキ』が上映されている期間に、渋谷区恵比寿の東京都写真美術館に「コティングリー妖精写真」が展示された。このときに僕も初めて本物の「妖精写真」を目にしたのだが、まずは現物のサイズの小ささに驚いてしまった。子どものころから勝手にL判程度の大きさのものを想像していたのだが、フランシスとエルシーが使用したカメラはくクォータプレート(手札判)カメラ。これで撮影された写真は8センチ×10.5センチで、マッチ箱を二つ並べた程度の大きさしかないのだ。つぶさに観察するには、その小さな写真に顔を近づけなければならない。

平日の真っ昼間の時間で展示会場には僕のほかには誰もいなくて、広い館内がシーンと静まり返っていたせいもあって、写真を眺めているうちに、小さなのぞき窓から「世界の“向こう側”」を覗いているような気分になってしまった。初めて「妖精写真」の現物を目にした正直な感想は、妙な言い方だが、「あまり気持ちのいい写真ではないなぁ……」というものだ。なんとなく、どうもあまり長時間眺めている気にはなれなかった。

 

1983年、撮影者のフランシスが新聞に捏造であったことを告白し、「コティングリー妖精写真」はオカルトネタとしては完全に終了したはずなのだが、しかし、この写真は今も人々を魅了しているし、「答え」が出ているにもかかわらず、真偽に関する議論はまったく絶えていない。魅力的(?)な「心霊写真」は、たとえ捏造であることがはっきりと確定しても「終了」するような類のものではないし、また、本当の意味での「捏造の確定」など、もはや撮影者にも不可能なのだ……ということなのだろう。

すでに80歳に近い老女となったフランシスは、捏造の告白をした上で、写真はフェイクだが、彼女とエルシーが実際に妖精を目にしていたことは事実であると語っているし、なぜか「最後の1枚だけは本物」だと主張し続けた。そして、その「最後の写真」は、確かに誰が見てもほかのものとはまったくタッチの違った写真であり、俗に「妖精の揺籃」などと呼ばれている「よくわからないもの」が写っている。その「よくわからないもの」を眺めていると、結局のところ、100年越しで「妖精写真」騒動に決着をつけた「捏造の告白」にも、さしたる意味はなかったのだと思ってしまう。

100年前、彼女たちが結局あの森でなにを見ていたのか、たとえ「いたずら」だったにせよ、二人の少女がなにを撮影しようと画策していたのかは、やはり今も依然として僕には「よくわからない」のだ。

201712mu
2017年の12月号の『ムー』掲載の特集「コティングリー妖精事件の未公開写真を発見!!」より。左ページ右上に掲載されているのが、フランシスが最後まで「本物」と主張した写真だ。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

  • 1

この記事と同じトピックを探す

関連記事

編集部おすすめ

アクセスランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • トータル