トランプ大統領を生み出したQAnon現象とAI陰謀論

文=宇佐和通

名もなき支持者たちの実体

日本時間2016年11月9日午後。テレビやネットで、世界的イベントといえるアメリカ大統領選挙の開票速報をリアルタイムで見守っていた人は多かっただろう。そして時間の経過とともに、アメリカ3大ネットワーク各局で放送されていた特別番組のキャスターたちが心なしか声の張りを失っていくことに気づいた人もいたに違いない。

まさかドナルド・トランプ候補が大統領になることはないだろう。大多数の人間がそう思っていたはずだ。

ところが、その「まさか」な展開の戦いに勝ったトランプ大統領の誕生が、就任以来2年間にわたってさまざまなインパクトをもたらしつづけている。

だが、まず考えていただきたい。2016年の大統領選挙におけるトランプ候補の勝利は、本当の意味で「まさか」だったのだろうか。

2017年1月20日の就任式を迎えるころになると、「なぜトランプ大統領が生まれることになったのか」「トランプ大統領誕生を決定づけた理由は何か」という方向性の議論が盛んになりはじめた。民主党の牙城だった“ラスト・ベルト”(ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシン各州)での勝利。意外にも高かったマイノリティーからの支持率。そしてヒラリー・クリントン候補の国務長官時代の私用メール問題。

勝利へつながる目に見える形の要素もさまざまあった。しかしそんななか、トランプ氏は“意図的に生みだされた大統領”であるという説が囁かれはじめ、時間の経過とともに説得力を強めていった。

 

やがて、決定的な出来事が起きる。

2017年10月、アメリカの匿名イメージボード型SNS(画像掲示板)「4chan」に、Qというハンドルネームの人物が、とある文章をアップした。Qのプロフィールには「アメリカ政府の機密情報にアクセスできる権限を有する」とあった。文章はいわゆる陰謀論で、彼――あるいは彼ら――の主張によれば、トランプ大統領とその支持者に敵対する“ディープステイト”という反政府勢力が存在し、さまざまな陰謀を画策しているという内容だった。

Q1
トランプ大統領に対する陰謀論の発信源となった匿名の人物"Q"。

 

この文章はトランプ大統領支持者の間で瞬く間に拡散し、各地で開かれる集会で「I am Q」(私がQである)とか「Q: The Great Awakening」(Qは偉大な覚醒)などと書かれたプラカードや横断幕を掲げる人が多く見られるようになった。やがてディープステイトに関するバリエーションに富んだ文章がネット上でさらにアップされるようになり、トランプ大統領支持層の内部にQAnonという概念が生まれた。QのAnonymous(名もなき)支持者たち。転じてQの熱狂的支持者というニュアンスの言葉だ。

一連の流れを時系列的に追っていくと、“Q”の存在は大統領候補指名選挙あたりの時点から芽を出していたようだ。

それが民主党のヒラリー・クリントン候補との激戦となった選挙戦最終盤に本格化し、現在はトランプ大統領支持層のマジョリティーから支えられ、なかでも熱狂的なグループがいつのころからかQAnonと呼ばれるようになった。そんな図式が見てとれる。

ただ、Qもディープステイトも存在が確認された個人、あるいは組織や団体ではない。ならばQとは何なのか。

QAnon現象そのものを陰謀論として見る人たちがいる一方で、少し前から、Qの正体は超高性能AIではないかという仮説が浮上しはじめている。

すべてを陰謀論という言葉で片づけるのは簡単だが、事実はそう単純ではなさそうだ。そして、トランプ大統領はAIによるSNSを通じた世論操作によって生みだされたと主張する意見は根強い。こうした見立てをするのであれば、トランプ大統領を生みだしたのはQを名乗るAIにほかならないということになるのだ。

20190509tok

 

(ムー2019年6月号より抜粋)

文=宇佐和通

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