「小坪トンネル」は本当に「ヤバい」のか?/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

放映のたびに進化(?)した「小坪トンネル怪談」

前回はキャシー中島の名作実話系怪談「小坪トンネル怪談」を紹介したが、これが日テレの心霊特番『あなたの知らない世界』で再現ドラマ化され、多くの人々に衝撃を与えたころのことをもう少し回顧してみたい。以降のお話は「小坪トンネル怪談」の概略を知らないと「なんのこっちゃ?」なので、未読の人はまず前回のコラムをザッと読んでおいてほしい。

前回も書いたとおり、『あなたの知らない世界』の放送記録などの資料はすでに紛失しているらしいので、ここからはまったく僕の記憶だけを頼りに書くので間違いや勘違いが多々あるかも知れない……ということは断っておく。

 

定番エピソードとなった「小坪トンネル怪談」は他局でも取りあげられていたが、『あなたの知らない世界』内だけでも、おそらく数年おきに3回ほど再現ドラマ化されていると思う。で、記憶では新バージョンができるたびに演出が派手になっていった。このあたり、他局放映分と印象がゴッチャになってしまっているかも知れないのだが、クルマのフロントグラスにバシッと付く手型の跡が、最初の放映ではひとつだったのだが、後にバシバシバシッと無数の手型がつけられるパターンに進化(?)したはずだ。後のホラー映画や投稿怪談の映像化に何度も用いられる定番の演出である。

また、ズシン!と岩が落ちてきたような衝撃音がクルマの屋根に響くくだりについても、後に人間(というか心霊。確か着物姿の女だったと思う)が落下してくる、という表現になっているパターンもあったと思う。これについては、キャシー中島の話とは別に、小坪トンネルを通過中のクルマの屋根に「女や侍が落ちてくる」という怪談が地元では以前から語られていたようで、それらの怪談を応用(?)した演出だったらしい。

僕が特に印象に残っているのは、もしかしたら最初の放映分に含まれていたシーンだった気もするのだが、トンネル内で「落ち武者の姿が見える」という演出だ。ズシン!という衝撃音の後、クルマがトンネルの中ほどで停止してしまい。しばらく静寂が続く。すると、トンネルの闇の向こうから甲冑をつけた落ち武者たちの行列がやってきて、ゆっくりと通り過ぎていく……というバージョンがあったのだ。キャシー中島たちはクルマの中で身を硬くし、震えながらガラス越しに落ち武者たちの行列を眺める。落ち武者たちはまるでこちらが見えないかのように、うつむきながら静かに通り過ぎていくのだが、なかのひとりがふいに顔をあげ、キャシー中島と目があってしまう。とたんに彼女はキャーッと悲鳴をあげ、クルマから飛び出して逃げていく。みんなもそれに続くが、「ケンちゃん」だけが取り残される……という展開だったと思う。鎌倉といえば戦国時代、戦国時代といえば落ち武者……というシンプルな発想の演出だったのだろうが、照明とスモークの効果が素晴らしく、トンネルの内部が異次元に通じてしまったかのような非現実感があった。

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「ムー」1989年2月号より。「トンネル内で馬に乗った武士を見た」という読者の投稿体験をもとに取材班が小坪隧道へ赴き、下記で解説している「まんだら堂やぐら群」なども含めた現地調査の結果がレポートされている。

 

小坪トンネルとはどんな「場所」なのか?

ここでちょっとキャシー中島の怪談から離れて、「小坪トンネル」は本当に「心霊スポット」してヤバい場所なのか? というか、そもそもここはどういう場所なのか?……ということについても考察しておきたい。

「小坪トンネル」はキャシー中島の怪談によって全国的に「心霊スポット」として大ブレイクしたが、もともと古くから「お化けトンネル」として地元でも「ヤバい場所」とされていたことは確かなようだ。「古くから」がどのくらい前からなのかを特定するのは難しいが、川端康成が1953年に発表した短編小説『無言』には、このトンネルに幽霊が出ることをタクシー運転手が語る場面が描かれている(典型的な「タクシー幽霊」のお話で、この種の噂の発祥地とされる京都・深泥池のケースよりさらに古い?)。少なくとのこの小説の発表以前から地元ではアレコレの噂があったのだろう。

 

1981年の読売新聞には、「小坪トンネル」の話が「トンネルの怪」というタイトルでコラム的に掲載されている。それによると、幽霊の噂が出たのは1948~9年ごろだったという。発信元はやはりタクシーの運転手たちで、彼らの間では「若い女の幽霊が出る」と評判になっていたらしい。

ただ、ややこしいことに「小坪トンネル」とういうのは正確には6つのトンネルの総称であり、キャシー中島の怪談の舞台も、厳密にどのトンネルなのかということがいまひとつわかりにくい。『日本怪奇名所案内』には手描き地図が掲載されているが、複数のトンネルが省略されており、完全には特定できないのだ。文中、「材木座小坪を通って、逗子の背面に出るトンネルだ。二つあるうちの新しいほうがそれなんだ」というセリフが出てくるが、これについても数通りの解釈が可能だ。いずれにしても、この本には「小坪トンネル」という名称は一度も出てこない。あくまで「鎌倉のお化けトンネル」としか語られていないのである。一般的には「小坪隧道」、もしくは隣接する「名越隧道」が怪談の舞台とされているようだが、いろいろと異論もあるようだ。ただ「小坪トンネル」と呼ばれる一群のトンネルは、個々のトンネルが別々に点在しているというよりは、長いトンネルが切れ切れに続いているという形なので、このあたり一帯のトンネルはまとめて「ぜんぶヤバい」という大雑把な判断でいいのだと思う(めんどくさいし)。

 

「小坪トンネル」がなぜ「ヤバい」とされるようになったのかは、主に3つの要因があったようだ。ひとつは、付近で交通事故が絶えなかったこと。これについてはトンネルの構造の問題で、トンネル内に直線道路に錯覚してしまうカーブなど、危ないポイントがいくつかあるらしい。もう一つは、トンネルが貫く山に火葬場があること。「火葬場の下をくぐるトンネル」というイメージは、怪談を生むシチュエーションとしては絶好だろう。さらにもうひとつ、この山の上には「まんだら堂やぐら群」という墓所があること。これは現在発掘調査中で非公開なのだが(限定公開されることもある)、岩盤をくりぬいた中に火葬したお骨を収める形式の納骨施設、そして供養塔や石仏などが集合している遺跡群だ。まだ詳しくはわかっていないようだが、鎌倉~室町時代にはこの山一帯が一大霊園だったようで、いたるところに納骨用の穴があるらしい。現在までに150穴が確認されているといわれている。

山全体が太古の「巨大集合墓地」、しかも火葬場まであるとなれば、やはり「ヤバい」という評判がたたない方が不思議である。特にまだ内容や目的が正確には解明できていないらしい「まんだら堂やぐら群」は、自治体などが提供している史跡説明を読んでいても、なんだかちょっと怖くなってしまう。近年になって頭蓋骨が発見されたり、「斬首された高位の者のための供養塔」らしき石塔の跡が発見されたり、なにかしらこの山一帯は「死」にまつわる特別な場所だったことは間違いないようで、確かにこれはガチで「ヤバい」のではないかという気になってくる。ただ、僕も子どものころからこの道はドライブや学校の遠足のたびに何度も通っているが、少なくとも不可解な経験は今のところ一度もしていない。

いずれ本コラムのネタとして現地調査などをしてみてもおもしろいかも知れない。そのうちに気が向いたら決行してみよう……と思ったりもするが、たぶん気が向く日は来ないのではないかと思う(ちょっとビビッてます)。

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「ムー」2002年2月号より。こちらは近年、関西のラジオなどで何度も語られ、一部で非常に有名になった芸人・松本キック氏の「小坪トンネル怪談」。キック氏の大学時代の友人がトンネルを通過中の車中で霊体の腕に足首をつかまれるという体験をした直後、そのまま行方不明になってしまったという事件の証言だ。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第31回 「小坪トンネル怪談」再現ドラマの衝撃

◆第30回 70年代っ子たちと『恐怖の心霊写真集』

◆第29回 1974年『恐怖の心霊写真集』の衝撃

◆第28回 「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

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