トーツポテンの化け物〜〜食べるな注意! キノコのお化け 其の一/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第49回は、危険なキノコの怪を、2回に渡って補遺々々します。

 

散々な目に合うトーツポテン

茸(キノコ)は見た目からして面白く、奇妙で、かわいらしく、無気味で、そしてどこかキャラクターじみています。その姿形を見て昔の人たちは、これが踊ったり喋ったりする姿を想像したのでしょう、昔話には茸の妖怪が活躍するものもあります。

 

まずは、昔話ではおなじみ、【トーツポテンの化け物】からご紹介いたします。

 

ある古屋敷に、夜な夜な化け物が現れました。

この化け物、言葉を喋るのですが、それがなんとも奇妙で不思議、へんてこな言葉なんです。

「トーツポテン、トーツポテン」

正体のわからぬ化け物が、意味のわからぬ言葉を繰り返しながら、あちらこちらを歩き回ったのですから、屋敷に住んでいた人たちはみんな、肝を冷やして逃げ出してしまいました。

無人になった屋敷のあるあたりは、村人たちにとってとても怖い場所となり、子供だけでなく大人までもがひとりの夜の外出を避けたといいます。

 

そんな村人たちの中に、たったひとり、とても勇気のある若者がおりました。

「化物なんかに負けてられるか!」

なんと彼は化け物が好む夜になってから、件の屋敷へと行ったのです。

するとさっそく、「トーツポテン」と唸りながら、大きなひとつ目玉の化け物が現れ、若者を睨みつけてきました。

ところが若者、まったく怖がることもなく、それどころか、「なんて立派な化け物だ。トーツポテンというのには、なにか訳でもあるのか」と化け物にたずねました。

化け物は地面にぺたんと座り、「よくぞ聞いてくれた」と自分の出生について語りだします。

 

彼の正体は屋敷の裏庭に生えていた茸で、この屋敷の者はみんな無精だったからだれも掃除をしに来ず、だからこんなに大きな茸に育ってしまったのです。

ある日、だれが投げたか、大きく育った茸に向かって栃の実(トッポ)が飛んできました。するとそれは茸にスポッとはまってしまい、それがどうにも痛くてたまらない。

「トッポートッテ、トッポートッテ」といっているうちに「トーツポテン、トーツポテン」になってしまったのです。

気がつくと、栃の実はいつの間にか目玉になっており、すっかり茸の化け物になってしまったのだとか。

 

聞けば聞くほどかわいそうな話ですが、それでも、ただのキノコが化け物にまで出世したのですから、これはメデタイことではないでしょうか。

「お前なら、なんにでも化けられそうだな。よし、姉さまに化けられるか?」

若者が聞くと化け物は「化けられる」と言って姉様の姿になりました。

「なら納豆には化けられるか」

化け物は大きな納豆に化けました。

「おいおい、本物の納豆はもっと小さいぞ」と教えると素直に小さな納豆に化けたので、若者はすかさず、これを摘まみとって飲み込んでしまいました。

それがいけなかったのでしょう。

若者はだんだん胸も腹も苦しくなってきて、走って土手へ行くと毒消しの草を毟って食べました。すると大きな音がし、化け物は屁になって、若者のお尻から飛んでいってしまいました。

 

ずっと放っておかれ、痛い思いもして、そのうえ騙されて食われてしまい、最後は尻から屁と共に飛ばされる……無精な人間のために散々な目にあってしまった可哀そうな茸のお話でした。

 

それにしても、いくら見た目が納豆だからといって、不衛生な場所で化け物と化した名前も知らないような茸をひと呑みにしてしまうなんて、あまりに命知らずで軽はずみな行動です。皆さんは真似をしないように。

続いて、昔話からもうひとつ、茸のお化けをご紹介します。

 

茸の化け物が怖いもの

とある村はずれの山際に、化け物の出る古寺がありました。

これまで何人もの和尚様がやってきましたが恐ろしくて住める者はなく、この寺はずっと無人のまま荒れるに任せていました。

このまま化け物に好き放題させておくわけにはいきません。

三平という爺さまが立ち上がりました。

「化け物め、生け捕りにしてやるぞ」

息巻いて、鉈や鎌を携えて問題の古寺に泊まりました。

夜中になりますと境内に、傘をかぶった化け物がたくさん現れます。

化け物たちは踊り、歩きまわりながら、こんなことをいっています。

「唐土(とんど)のトラより、おろし汁がおっかねぇ。唐土のトラより、おろし汁がおっかねぇ」

唐土のトラとは、中国のトラです。おろし汁とは大根おろしを入れた味噌汁のこと。トラよりも味噌汁のほうが怖いなんて、化け物のくせに妙なことをいっています。

 

翌朝、境内を見ると化け物の姿は1匹もなく、かわりにたくさんの茸が生えていました。その光景を見た三平は、目の前の茸たちが昨晩の化物の正体だろうと思いました。

そう考えてみると、昨晩化け物のいっていたことにも合点がいくのです。というのも、茸を入れた汁には、消化を良くし、毒を消すために大根おろしを入れるのです。

化け物たちは、大根おろしに溶かされるのを恐れていたのです。

そうとわかればやることはひとつです。三平は家に帰っておろし汁を作りますと、すぐに古寺へと戻って境内に生える茸にかけました。すると茸はみんなベタベタに溶けてしまい、それからはもう化け物は出なくなったといいます。

 

「おろし汁」ではなく、「茄子の盥水」が苦手だという話もあります。

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<参考文献>

瀬川拓男編・松谷みよ子再話「トーツポテンの化け物」『日本の民話 妖怪と人間』

本城屋勝編「化けきのこ」『ひろし爺さまの昔話』

文野白駒「蕈の化け物」『加無波良夜譚』

 

文・絵=黒史郎

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