大豆で肉を作る目的とは? 代替肉最前線1/グルメの錬金術師

文=久野友萬

おいしいは、作れる?

錬金術は人間の究極の欲望、無限の富と不老不死を追い求める。そうであるなら、今、欧米で起きている代替肉ブームは、まったくもって現代の錬金術だろう。

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代替肉は大豆など豆類や小麦などの植物性タンパク質に特殊な加工を施し、肉のような食感と味を生み出している。科学技術による食品の大幅な改良で、ベンチャー企業は食品工学をフードテックと呼び直し、資金を集めている。アメリカでは代替肉メーカーのインポッシブル・フードが上場、株式総額がおよそ300億円に達した。

大豆の代替肉なんて昔からあったんじゃないのか? そう、昔からあった。

日本の精進料理は豆腐や小麦グルテンを使って肉料理もどきを作ってきたし、台湾素食という台湾の精進料理は大豆ミートの原型のような大豆の肉もどきを料理に使ってきた。特に台湾素食はバリエーションも多く、食べたことのある人からすれば、昨今の代替肉に新規性は感じないだろう。大豆ミートのから揚げからステーキ、ハムにコロッケまで、すでにあるのにハンバーガー? 何を今さら、だと思う。

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日本の食品業界で使われている植物由来のタンパク質食品は、大豆ミートや代替肉、フェイクミート、最近ではプラントベースミートと呼ばれる。業界団体、一般社団法人日本植物蛋白食品協会の設立は1975年(昭和50年)8月のこと。きっかけは同年4月の農政審議会建議「食糧問題の展望と食糧政策の方向」で「大豆等植物たん白質の高度加工による食用への利用の拡大」が挙げられたことにある。

1972年に世界的な不作が起こり、輸入農産物の価格が高騰、一部では食糧不足の心配も出てきたのだという。そのため、資源が限られている日本は、植物性タンパク質の食用への利用拡大が必要とされた。ここから植物性タンパク質の大規模な商用化がスタートする。

現在のカロリーオーバー気味の食生活からは想像しがたいが、元々の植物由来タンパク質は、食糧難に備えてタンパク質不足を補うために開発されたのだ。

70年代から欧米でも大豆ミート(旧来の代用肉は大豆ミートと呼ぶことにする)は食用として利用されてきたが、どちらかといえば宗教上の理由で肉食できない人やベジタリアン向けの食品として扱われてきた。また肉食がコレステロールを増加させるので、健康上の理由から肉を大豆ミートで代替させることが推奨された。

 

大豆ミートそのものが健康食品として認知され始めたのは最近のことだ。1999年にアメリカの食品医薬品局(FDA)が大豆たん白質の心臓病予防効果を認めたことで、各社が大豆ミート製品を販売するようになった。FDAによると「1日あたり25gの大豆たん白を含む低飽和脂肪酸・低コレステロールの食事は、心臓病のリスクを低減させることができる」のだという。実際、大豆製品をよく食べる日本人(豆腐やみそ、しょうゆ、すべて大豆製品だ)とアメリカ人の心疾患での死亡率は、人口10万人当たり日本が201人、アメリカが401人とほぼダブルスコアである。

日本では大豆ミートは加工食品の肉の増量やつなぎに使われている。対象はハムやソーセージ、ハンバーグ、シュウマイなどの食肉加工製品から魚肉ソーセージなどの水産練り製品、冷凍食品、チルド惣菜、健康食品、製菓・製パン、飲料まで幅広い。代替肉を改めて食べなくても、私たちは普段から大豆ミートを食べているのだ。

 

大豆ミートのカサ増し疑惑

大豆ミートは油を搾った後の脱脂大豆=大豆カスから作られる。大豆カスは家畜のエサに使う。それぐらい安い。ということは大豆ミートを食品に使うというのは、家畜のエサを人間に食べさせているのと同じで、文字通りのフェイクミート、私たちに偽物を食べさせて企業が不当に儲けているのではないか?――実情を知らなければ、そう思っても仕方がないだろう。しかし調べてみると、そう簡単ではないのだ。

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まず大豆を圧迫してフレーク状にし、ヘキサン(ガソリンなどに含まれる有機溶媒)を使って油分を抜く。この段階が脱脂大豆と呼ばれる。大豆ミートが豚のエサを使っているといわれるのは、ここまでの工程が飼料用も食用も同じだからだ。

だが飼料として使う場合は、脱溶剤兼焙焼機を通して有機溶媒を除去、さらに水蒸気加熱により残った有機溶媒を無害化する。食料の場合、水蒸気加熱は使えない。熱によりタンパク質が変成するためだ。そこで蒸気式脱溶剤装置を使って溶剤の蒸気を吹き込み、熱変成を抑えつつ、溶剤を除去する。脱脂大豆をアルコールで洗ってタンパク質以外の糖分や灰分などを除去するアルコール洗浄法や酸を使う酸洗法などがある。

ではカサ増しの噂は本当なのか? 実のところ、大豆ミートはたいして安くないのだ。

ミンチ肉に混ぜて使う粒状大豆たんぱくは、業務用10キログラムの小売価格が15000円前後。100グラム当たり150円。メーカーから直接買ったとしても、価格はこの3分の1程度だろう。グラム30~50円ぐらいか。これは下手をすると輸入豚肉の卸価格より高い。だから使うメリットは値段ではない。食材としての保存性や混ぜた時の食感、保水性だろう。焼くと肉だけよりも膨らむので、見かけを良くする意味合いもあると思われる。

 

輸入品が割高だった昔はともかく、格安の輸入肉が入ってくる今となっては、カサ増しに使うには大豆ミートは高すぎるのだ。大豆ミート製品のメーカーから聞いたが、ハンバーガー用の大豆ミートパテは、どうやってもファーストフードのハンバーガーパテの数倍の価格になってしまうそうである。大豆自体はたしかに安いが、加工の手間賃がかかる。ファーストフードが扱う肉とは勝負にならない。

 

大豆ミートを使った偽装ハンバーグなどといわれるのであれば、逆手にとって、大豆ミートを使ったヘルシーなハンバーグとでも謳えば、逆に売り上げが伸びるかもしれない。

代替肉を使ったパテのハンバーガーを出す店へ行ってみた。ハンバーガー1個600円以上の高級バーガー店である。

代替肉を使った『ベジタリアンバーガー』は900円。牛肉のハンバーガーと値段に差はない。紹介する記事を読み、テレビのニュースを見たが、レポーターはだれもがいわれなければ肉だと思うといっている。

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大豆ミートのから揚げは、たしかに肉と区別がつかない。むしろ安い冷凍肉は味で負ける。台湾素食の大豆ミート食品は非常によくできていて、中華料理の味付けとあいまって、十分に肉もどきである。では代替肉はどうか?

 

……1個1000円、1500円のハンバーガーが相手では、勝負にならない。牛肉のジューシーさがないのだ。だからといってハムやソーセージとは違う。何が一番近いかというと……マル●ンハンバーグ? 高級なマルシンハンバーグの味がする。

おいしいかおいしくないかといえば、おいしい。900円出して頼むかと聞かれたら、頼まない。でもファーストフードのハンバーガーと値段が一緒ならどっち? といえば、かなり悩む。

肉と区別がつかない、とは、こういう味のハンバーグあるしな、そりゃ大豆ミート使っているんだから味は近いよな、肉と区別がつかないというよりは冷凍食品のハンバーグはこういう感じだよな、という当たり前といえば当たり前の話なのだ。

 

代替肉のパテはオランダのベジタリアンブッチャー社のものだ。その日本法人に話を聞く。

 

(次回に続く)

 

参考:『大豆タンパク質の製造と食品への利用』(崎田高史・日清製油株式会社研究所/油化学1979年28巻10号)

文=久野友萬

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