懲りない悪狸――引原ごんすけ/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第56回は、大好評の京丹後シリーズ第3回。悪さをする妖狸の話が伝わる地で補遺々々します。

 

引原の悪いやつ

京丹後市網野町に、悪い狸の話があります。

木津から網野へ出る引原(ひっぱら)峠と呼ばれる道があります。

網野駅から国道178号線を歩いて40分ほどのところにあり、10月になると京都丹後鉄道の線路沿いにある見事な銀杏が美しくライトアップされるそうです。

さすがに狸のいた痕跡はなさそうですが、自転車を借りて向かってみました。

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車の交通量が多いわけではありませんが、自転車で行くのはあまりおすすめできません。広い歩道があるわけではなく、道の際をぎりぎりで走っているとすぐ横を車が通ります。

このまま自転車で行くのは危険と判断し(途中の神社で転倒したというのもあり)、トンネルの手前までにしました。この先に引原ゴルフ場や樹齢50年の銀杏があるようです。

 

その辺りは昔、大木がたくさん茂っていて、昼でも暗い道だったといいます。

そこには【引原ごん助(ひっぱらごんすけ)】という名の古狸がいて、よく人が化かされました。

お祭りの帰りに御馳走の入った荷物を食い荒らされた人もいましたし、家の風呂に入ったと思ったら小川の水たまりにつかっていたという人もいました。

 

このままでは困ると、新庄や今井(峰山町赤坂今井か?)の村人たちは相談しあい、石地蔵を建立して僧に読経してもらうことになりました。

そのため、狸は引原峠にはいられなくなり、隣村の塩江にある五石の山へと移住し、そこでも悪さを続けました。

嵐の夜に浜辺のあちこちで火を燃やし、沖を通る船をおびき寄せては難破させ、食糧や積み荷を奪うといった悪事をたびたび働いていたのです。

塩江の村人たちは、海がよく見渡せる峠に大きな石地蔵を建立し、また偉いお坊さんを招いて狸封じのお経を唱えてもらいました。

五石の山にもいられなくなった狸は、今度は但馬の山へと棲み処を移し、そこでも懲りずに人を化かしつづけました。

 

その山で、ある樵(きこり)が焚火をしていたときのことです。

そこに見知らぬ婆さんが近づいてきて、「少し火に当たらせてくれ」といいます。ですが、よく見ると婆さんには尾がついています。

――さては、こいつが噂の狸か。

そばにある燃えさしの丸太を掴んだ樵は、それで狸を打ち叩きました。

こうして悪さばかりを働いていた悪狸も、とうとう死んでしまいました。

 

井上正一「奥丹後物語 草稿」では、五色浜(ごしきはま)で悪さをしていた狸は、狸封じの地蔵とお坊さんのお経によって引原峠へと退散し、それからその地で悪さを続けたので【引原権助(ひっぱらごんすけ)】と呼ばれたとしています。夜道で人を化かし、油あげや魚を盗んだのだそうです。

 

子抱かせの怪

同じ狸だと思われますが、このようなお話があります。

 

【引っ張らごん助(ひっぱらごんすけ)】という古い狸がいて、よく人を化かしました。その狸がいる「引っ張ら」の近くに住む若者たちがこんな話をしました。

「引っ張らまで行ける者はいるか?」

そこには悪狸がいるのです。当然、好んで行きたがる者などいませんが、中には「そんなもんが化けるもんか」と強気の者もいました。こんな真っ昼間から化かされはしないと考えていたのでしょう。

「それならお前が行ってこい」

「よし行って見てきてやる」

となり、彼はひとりで引っ張らまで向かうことになるのです。

 

さて、狸が出るという峠に差しかかりますと、さっそく始まりました。

にわかに空が暗くなり、あっという間に夜になってしまったのです。

するとそこに、赤子を背負った若い女の人がやってきて、強気な若者にこういいました。

「すいませんが、この子を抱いていてくれませんか」

女の人は小便に行きたいというのです。

それなら抱いておくから行ってこいと子を預かりますが……長いのです。

どんなに待っても嫁さんが小便から戻ってこず、ショボショボという小便の音がずっと聞こえています。

いくら溜まっていたにしても、こんなに長い小便はおかしいです。

そう不審に思っていると、からっと夜が明けました。

驚いたことに、抱いていた赤子は石に変わっています。

長い小便だと思っていたショボショボという音は、水が落ちる音でした。

彼は引っ張らごん助に化かされていたのでした。

 

<参考資料>

井上正一編『ふるさとのむかしむかし』

井上正一「奥丹後物語 草稿」『季刊 民話』創刊号

細見正三郎『丹後の民話(1)狐狸ものがたり』

網野町公式サイト https://amino-info.gr.jp/sp/index.html

 

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文・絵=黒史郎

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