80年代・バブル前夜に流行した「超越瞑想」/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

80年代のプチブーム「瞑想」

「マインドフルネス」といった言葉をやたらと耳にするようになったのは3、4年ほど前からだろうか? そのころから空前の「瞑想ブーム」が起こりはじめたようで、現在も継続中である。従来のスピリチュアルな匂いや求道的な意味合いなどはかなり薄まり、この種のネタを扱うメディアの中心はビジネス系、経済系、そして健康系のウェブサイトや書籍。

現在の「瞑想」はビジネスシーンにおいて、無数のエビデンスによって効果が保証された合理的・功利的な「自己啓発の技術」、あるいは「明日への活力」を養うためのカジュアルなリラクゼーションスキルのひとつだ。メソッド化し、ツール化し、大衆化して、最終的には「カネにする」という、いつもの米国式プラグマティズムが適用された「精神世界」の典型的な例である。

で、この「合理的な瞑想」というか「カジュアルな瞑想」という発想が日本に移植されたのは、実は今から30年も昔、80年代のなかごろだったと思う。アメリカではヒッピーカルチャー全盛の60年代に「瞑想」や「禅」が若者たちの間で大ブームになったが、この西海岸の流行が東部のホワイトカラー、懐かしい言い方をすれば「ヤングエグゼクティブ」な人々に引き継がれ、「知的エリート」たちのトレンドとして「消費」されはじめた。

こうした傾向が極東の島国に紹介されたのが、東京の主要書店の棚に「精神世界コーナー」が急増した80年代前半ごろだ。この時期に、日本でもちょっとした「瞑想ブーム」が起こっている。小っ恥ずかしくてあまり大きな声では言いたくないが、当時、高校生のいたいけなロック少年だった僕は、この「第一次瞑想ブーム」にはまんまとハマってしまった。今回の「昭和こどもオカルト回顧録」は、バブル期直前の80年代の「第一次瞑想ブーム」ついて回顧してみたいのである。

 

80年代に日本に紹介されてプチブーム化した「瞑想」のなかで、多くの注目を浴びたのは「TM」と呼ばれる「瞑想法」だった。「TM」は「Transcendental Meditation」の略、日本語では「超越瞑想」と訳される。同時期のアメリカ本国と同様、日本でも最初に本格的な形で紹介したのは経済系メディアであり、『日本経済新聞』の連載コラム「サラリーマン」だったそうだ。

が、それよりはるかに早い段階から、「TM」はロック好きな連中の間で、少なくともその名称だけはおなじみだった。80年代は50’s~60’sカルチャーのリバイバルの時代だが、特にビートルズやストーンズなどの60’sブリティッシュ・ロック、あるいはアメリカ西海岸系のサイケデリックなバンドを愛好しているヤツらには、「TM」なる「瞑想法」がフラワームーブメントの時期のミュージシャンに絶大な影響を与えたことが知られていたのである。60年代のヒッピーたちにとって「瞑想」や「禅」は薬物を使用しないドラッグ体験獲得スキルであり、「精神拡張」、いわゆる「知覚の扉(ドアーズ)を開く」ための方法とされていた。「TM」はそうしたもののなかでは最も「効く」といった見解を、さまざまなロック系のメディアでさんざん目にしていたのだ。

今から思えば、あの頃の日本で起きた「瞑想」のプチブームは、現在に連なるビジネスシーンでの「新しい瞑想」ブームと、かつてのヒッピーたちが夢中になった「古い瞑想」(「ロマンチックな瞑想」といってもいいかも知れない)がミックスされたようなものだった。アメリカのブームからタイムラグがあった日本ならではの独特な傾向だったのだと思う。

当時、友達とバンドを組み、吉祥寺のライブハウスでドアーズのコピーなどをしていたボンクラなロック少年だった僕らは、もちろん「古い瞑想」に憧れる方向から「TM」に飛びついた。ラヴ&ピースの時代にドラッグにまみれて早逝した多くのミュージシャンのように、僕らも「TM」をやれば「世界の向こう側」が見えるかも知れない……。そうしたボンクラなガキ特有の「ロマン」を抱いていたのだ。

meisou2-1
1985年7月号の「ムー」より、特集「現代瞑想オールガイド」。世界各国の「瞑想法」の系譜を俯瞰するような内容。当時、やはりブームになっていたヨガに焦点をあてた特集になっている。財界でブーム化していた「瞑想」のノリとは違って、あくまでニューエイジ的。

 

マハリシ・マヘーシュ・ヨギが開発した「TM=超越瞑想」

「TM」は1950年代にインド人の行者、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギ(当時の日本では「マハリシ・マヘッシ・ヨギ」と表記されることも多かった)によって開発された。彼は「TM」を普及させるために、50年代後半から60年代にかけて「世界ツアー」を展開し、これによって彼の名は世界各国に知れ渡るようになった。特にアメリカのヒッピーたちの間では、マハリシは一種アイドル的な「グル」として絶大な人気を博す。一節によれば、彼はサイケデリックブーム全盛期のアメリカの若者たちが種々のドラッグに頼って「精神拡張」(というか、要するに「トリップ」)を体験していることに危機を感じ、「薬物に代わるもの」として「TM」を普及させた、ともいわれている。

また、後に彼は「マハリシ効果」なるものを提唱し、「悟りの時代の夜明け」なる宣言をしている。この宣言を大雑把に解説すると、要するに一定数以上の人が「TM」を行えば、その国の犯罪率や失業率が下がる……といった理論(?)だ。つまり、「TM」を行う人が増えれば増えるほど「世界はよくなる」という主張で、東西冷戦の集結や国際テロ、戦争の減少など、すでにその「効果」は地球規模で観測されているのだそうだ。まさにラヴ&ピースなのである。

 

ヒッピーカルチャーが一段落した70年代、「TM」は教育機関や軍隊などの公的機関、プロスポーツチームなどに次々と採用され、さらにはアメリカに「マハリシ国際大学」(現・マハリシ経営大学)などが設立されるなどして、単なるサブカルチャーの粋をはるかに超えて普及していった。多くの企業も社員の「心と体の健康」維持のために福利厚生の一環として「TM」を導入、80年代の日本でも、住友重工、京セラ、トヨタ、NECなどが正式に採用したといわれて話題になった。いわばヒッピーたちの間での非生産的ブームから、エリートやセレブたちのトレンドへと変わっていったわけだ。

各分野のクリエイターたちにも「TM」愛好者は多く、たとえば映画界ではキャメロン・ディアスやクリント・イーストウッド(これはちょっと意外!)、デヴィッド・リンチなどが有名だ。リンチにいたっては「TM」の普及のために「デヴィッド・リンチ財団」を設立してしまうほどの入れ込みようで、彼の作品のアイデアの多くは「TM瞑想」によって得られているといわれている。『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』『ロスト・ハイウェイ』など、リンチ映画特有のクラクラするような迷宮的構造は「TM」の「啓示」(?)によるものだったらしい。

先述した通り、多くのロックミュージシャンも「TM」に傾倒したが、世界中のロックファンの間に「TM」を知らしめたのは、なんといってもビートルズだ(ビーチボーイズもよく引き合いに出されるが)。『サージェント・ペパーズ』の時期の彼らは「TM」にハマりまくり、68年にはインドのヒマラヤ山麓にある「マハリシ・アシュラム」(「TM」運動の拠点)にまで出向いている。後にジョン・レノンはマハリシに幻滅し、「世界はあんたを待っていたのに、あんたはみんなをコケにしやがった」と「セクシーセディー」という歌で批判したが、ポール・マッカトニーや、特にジョージ・ハリスンは以降もマハリシを熱烈に支持し続けた。

 

次回は、この「TM」が具体的にどんなスタイルの「瞑想」なのか、また、これにボンクラ少年の僕がどんなふうに関わったのかを回顧してみたい。一気にスケールの小さな貧乏くさい話になってしまうが、ご了承いただきたい。

meisou1-2

 

1983年12月号の「ムー」より。同誌が初めて本格的に「瞑想」を特集した「瞑想・超能力開発食入門」。「瞑想」のメカニズムを解説するとともに、「瞑想体質」をつくるための食事を紹介するというユニークな内容だ。ここでの「瞑想」の目的が「超能力獲得」に特化されているのが、いかにも『ムー』的で潔い。

 

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第38回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(後編)

◆第37回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(前編)

◆第36回 権力と心霊譚、「津の水難事故怪談」の政治学

◆第35回 「津の水難事故怪談」の背景にあった「悲劇の連鎖」

◆第34回 テレビとマンガが媒介した最恐怪談=「津の水難事故怪談」

◆第33回 あの夏、穏やかな海水浴場で何が?「津の水難事故怪談」

◆第32回 「小坪トンネル」は本当に「ヤバい」のか?

◆第31回 「小坪トンネル怪談」再現ドラマの衝撃

◆第30回 70年代っ子たちと『恐怖の心霊写真集』

◆第29回 1974年『恐怖の心霊写真集』の衝撃

◆第28回 「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

  • 1

この記事と同じトピックを探す

関連記事

編集部おすすめ

アクセスランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • トータル