現地ルポ 韓国の人喰い妖怪虎「萇山虎」を追う!

文=伊藤拓馬

萇山で目撃される白い毛の生物

朝鮮半島における虎は、檀君神話にも登場する霊的な生き物で、民族を象徴する動物として畏敬の念を持たれている。今でも韓国内で昔話をするときは、「むかし、むかし、虎が煙草を吸っていたころ……」で始まるのが定番なほどである。

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李氏朝鮮時代に描かれた虎の妖怪「ボン」の図。

 

現在は朝鮮半島の虎は絶滅したとされる。だが、虎は妖怪となって生き延びている――という話しがある。ただの噂話ではなく、現実に遭遇事件として発生している例が急増しているのだ。

目撃情報が多発しているのが、釜山市海雲台地区の長山であることから、この虎の妖怪は、萇山虎(チャンサンボン)と呼ばれている。

チャンサンボンについては、慶尚北道の小白山脈一帯で古くから目撃談が語られてきた。しかし、2013年7月にネット漫画サイト「ネイバー・ウェブトゥーン」の恐怖特集で、漫画家の崔スヨンがチャンサンボンと遭遇した体験を描いたことで、全国的に知られるようになり、以降、ネット上に多くの目撃談が寄せられるようになった。今年の夏にはチャンサンボンの映画が公開されるほどの盛り上がりをみせている。

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チャンサンボンを題材にしたウェブコミック。 http://comic.naver.com/webtoon/detail.nhn?titleId=574303&no=6&weekday=mon

 

実際に釜山市海雲台区を訪れてみると、そこは長さ1.8キロの砂浜がある韓国屈指のリゾート地だった。街には高級ホテルが立ち並び、国内外から多くの観光客が集まってくる。そのリゾート街のどこからでも見えるのが、チャンサンボンが目撃される萇山だ。山中は緩やかなコースのほかに、渓流や急傾斜の岩石地帯もあり、登山客に人気がある。

萇山でのチャンサンボン目撃証言はいずれも「白くて長い毛をした1.5~3メートルほどの虎に似た生物」ということで一致している。また、悲鳴のような声をあげ、人の声を真似て子供を誘いだし、長い牙と鋭い爪で襲いかかるという話もある。

 

軍事境界エリアに出没する白い虎

チャンサンボンは、釜山以外にも仁川、大邱、そして北朝鮮との軍事境界線にある江原道や鉄原など各地で目撃されている。国境の鉄原地区は緩衝地帯として手つかずの自然が残されており、野生動物の宝庫となっているのだ。

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釜山の海雲台に位置する萇山。

 

ある職業軍人の話によると、彼が下士官だった2008年に、国境地域でチャンサンボンを見たという。ある深夜のパトロール中、近くにある大きな岩の上に何か人のようなものが座っているのが目に入った。不思議に思って目を凝らすと、それは白くて長い毛をした生物で、その姿は雪のように純白で、とても美しいと感じたそうだ。

やがてその生物は、彼の存在に気づき月夜に閃く鋭い眼光を向けてきた。彼はとっさに危険を察知し、空砲弾と着剣を装備して、睨みあいの体勢に入った。お互い目を逸らさない緊迫の時間が5分ほど過ぎた後、謎の生物は唸り声を発し、銀色に光る毛を翻して、山へ消えた。

ほかの兵士たちでだれもその生物をみた者はいなかった。指揮統制室で、昨晩起きたことを話すと、もっとも年長の上官が彼を人気のない野外へと連れ出し、こう語った。

「君が昨晩見たのは、人を食べたボン(虎)だ。動きが素早く利口だから、とにかく気をつけろ……」

そして、変な噂が広まるといけないので、この白い虎の話は忘れるようにといわれた。

 

絶滅したはずの虎が妖怪に変化した?

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直立した姿のチャンサンボンの想像図。

 

近年、小白山脈一帯で登山客がチャンサンボンと遭遇する例が増えている。韓国の山間部は軍事施設が点在し、入山統制区域になっている箇所が非常に多い。これらの軍事区域は、人が立ち入れないので自然が放置され、さまざまな野生動物が棲んでいる。

釜山の萇山も、山頂付近に陸軍と空軍の施設があるほか、朝鮮戦争時の地雷が山中に多数残されているので、人が近づくことができない軍域が多い。この広大な地雷地帯は鉄条網で覆われており、多くの自然が残されている。

萇山では、1993年に虎が出たという騒動があり、警察隊が出動したこともある。結局虎は発見されなかったが、軍事的理由で入山禁止の山間部に、絶滅したはずの虎が生き残っている可能性は、充分にありうることである。

しかし、その虎は普通の虎ではないだろう。朝鮮半島には古くから、虎は長年生きるとすべてが白く変わり、歯が抜けて角が生えるという伝承がある。チャンサンボンとは、軍域で絶滅を免れた人喰い虎が、長年生き延び、白くて長い毛を持つ妖怪に変化した姿なのではないだろうか。

だが、その実体が明らかになるには、南北の休戦状態が解かれ、すべての山域に自由に出入りできるようになるのを待たねばならない。

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萇山の山頂近くは地雷の埋まる危険地帯となっており、立ち入り禁止の区域が多い。

 

(ムー2016年8月号より抜粋)

文=伊藤拓馬

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