オリンピック黒歴史その3 テロ・戦争を招いた「平和の祭典」

文=古銀 剛

開会式が「宣戦布告」の場に

古代オリンピックでは、たとえギリシアの都市国家間で戦争が行われていても、オリンピック開催中は休戦となる伝統があった。

だが、近代オリンピックはどうだろうか。

2008年8月8日午後8時、北京市の「鳥の巣」(北京国家体育場)で第29回北京大会が開幕した。開会式には、中国の胡錦濤国家主席はもちろんのこと、アメリカのブッシュ大統領、ロシアのプーチン首相、福田康夫首相など、五輪史上最多となる80カ国以上の元首・首脳が出席していた。

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2008年、北京オリンピックの開会式。

 

だが、ちょうどその式の途中で、ロシアとグルジアの間で軍事衝突が生じたとのニュースが報じられた。ロシアとグルジアは、グルジア領下ではあったが、ロシア派の住民が多い南オセチアの帰属をめぐって、かねて緊張関係にあり、8日、グルジア軍がグルジアからの分離独立を求める南オセチアに進攻したところ、これにロシア軍が介入し、グルジア軍への攻撃を開始。両軍は戦闘状態に入った。戦闘はおよそ5日間続いて一旦停戦となったが、オリンピック期間中、しかも開会式当日に参加国同士の戦争がはじまったのは前代未聞だった。

グルジア軍の南オセチア進攻のタイミングについては、「国際的な関心がオリンピック開会式に集まるのに合わせた」という見方もでたが、開会式の裏で、プーチン首相は各国首脳と会談し、グルジア情勢をめぐる外交を展開、五輪開会式はロシアにとっては「宣戦布告の場」になったのではないか、とも揶揄された。

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グルジアの主要都市ゴリに落とされたロシアの爆弾。

 

また、2014年2月、ロシアの黒海沿岸のリゾート地ソチで行われた冬季オリンピックの期間中には、隣国ウクライナの首都キエフで暴動が起こり、ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領は国外へ逃亡して政権が崩壊。この政変が引き金となり、翌月には、ウクライナ管轄下にあったクリミアの独立をめぐってロシアが軍事介入し、大規模な紛争が勃発したことは記憶に新しい。このウクライナ政変についても、プーチンが前面に立って招致したソチ・オリンピックの期間をあえて狙ったという見方がある。

ちなみに、1940年の第12回東京大会が、日中戦争の悪化により開催地返上を余儀なくされ、幻に終わったことの背景には、「日本はオリンピックによって中国での戦争を隠蔽しようとしているのではないか」という国際世論があった。

 

五輪史上最悪の「黒い九月事件」

オリンピック会場そのものが戦闘の舞台と化し、オリンピック史にぬぐいがたい血痕が残されたこともある。西ドイツで行われた、1972年第20回ミュンヘン大会だ。

8月26日にはじまった大会が終盤に入った9月5日の朝、「ブラック・セプテンバー」を名のる武装した8人のパレスチナ・ゲリラが選手村に侵入し、イスラエル選手団の宿舎を襲撃。彼らは、抵抗した2人を殺害すると、逃げ遅れた選手、コーチら9人を捕え、人質にして立てこもった。

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パレスチナ・ゲリラ「黒い九月」のメンバー。

 

ゲリラ側はイスラエルに拘留されていた234人の政治犯釈放を要求。だが、イスラエル政府はゲリラとの交渉を拒否。西ドイツ当局がゲリラ側との交渉にあたったが、うまく進まず、結局、ゲリラと人質を国外に運び出すという約束が成立し、午後10時過ぎ、3機のヘリコプターでゲリラと人質はミュンヘン郊外の空軍基地に搬送された。

だが、基地に到着すると、待機していた警備隊が人質奪還をはかってゲリラ側に発砲。しかし、夜闇も手伝って作戦は失敗、はげしい銃撃戦となり、人質が乗っていたヘリはゲリラ手投げ弾で炎上し、全員死亡。ゲリラも5人が死亡、他に警察官が1人殉職。オリンピック史上最悪となったこの事件は「黒い九月事件」と呼ばれている。

その日、オリンピックは全競技が中止となり、翌日午前10時にはメイン・スタジアムで追悼会が行われた。IOCのブランデージ会長は、オリンピックが政治的犯罪に屈してはならない、中立性を保たねばならないと力説し、「オリンピックは続けられねばなりません」と訴え、大会はかろうじて続行されることになった。

この事件を機に、選手村の警備は非常に重なものとなっている。

全世界が注目するイベントであるがゆえに、常に国際政治に翻弄され、「戦争」の陰がつきまとい、「テロ」の脅威にさらされる。――これが「平和の祭典」オリンピックの実状である。

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駒沢に建設が予定されていた、1940年第12回五輪東京大会の主競技場の完成予想図。しかし、1938年7月に日本は大会の中止・返上を正式に決定、幻の五輪となった。

 

(ムー2016年9月号より抜粋)

文=古銀 剛

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