巨大な毛むくじゃら小僧「ナカネコゾウ」/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(毎月末水曜日)! 連載第1回となる今回は、未発見妖怪とはいかなるものかという案内から、黒史郎が出会った正体不明の謎の妖怪「ナカネコゾウ」を紹介します!

 

忘れ去られた妖怪たち

「塗り壁」「ろくろ首」「河童」「小豆洗い」といった妖怪は、もはや知らない人はいないでしょう。書籍、映像作品、ゲームなど、あらゆるメディアでその姿を見ることができます。そんな有名妖怪たちの陰に、ほとんど存在を知られていない無名妖怪がいるのをご存じでしょうか。

「河童」や「小豆洗い」とともに民衆の間で語り継がれ、恐れられていたはずなのに、いつのまにか人々の記憶から忘れ去られてしまった可哀想な妖怪たちです。

現在、妖怪の関連書籍はたくさん刊行されており、それらを読むだけでも1000体以上の妖怪が確認できますが、私たちの知らない妖怪はまだまだいます。むしろ今、私たちの知っている妖怪は全体のほんの一部といっていいでしょう。

そうした、知名度の低い妖怪たちを全国市町村の民俗誌や地域雑誌などから発掘し、日の目を見せてあげること。そして、発見する喜びを読者の皆様にお伝えしていくことが、この連載の目的なのです。

 

謎の妖怪 ナカネコゾウ

さて、さっそくですが、「ナカネコゾウ」という妖怪をご紹介いたします。

私とコゾウの出合いは10年ほど前。昭和24年に技報堂から刊行された『迷信の実態』(文部省迷信調査協議会編)という本の「妖怪に関する資料」の項に、日本各地の妖怪の名称が数頁にわたって羅列されており、その中にナカネコゾウの名はありました。

しかし、このコゾウがどのような妖怪なのか、詳細にはまったく触れられていません。

一つ目の小僧だから「一つ目小僧」、砂をかける婆だから「砂かけ婆」と、妖怪は大抵、解りやすい名前です。では、ナカネのコゾウとは、どのような小僧を指すのでしょうか。

妖怪に詳しい知人や、京極夏彦さん(小説家・妖怪研究家)をはじめとする有識者の方々にも訊ねてみたのですが、コゾウが何者か、だれもわかりません。

私たちは、この謎の妖怪の正体を調べることにしたのです。

 

「ナカネ」の意味するもの

妖怪調査のポイントは、まず一次資料をあたることです。

『迷信の実態』は多くの資料を参考にして書かれています。「妖怪に関する資料」の項に並ぶ妖怪名も、おそらく柳田國男「妖怪名彙」(『民間伝承』所収)、日野巌『動物妖怪譚』、江馬務『妖怪変化史』などから多くとられていると思われます。ですが、いずれの資料にも「ナカネコゾウ」という名を見つけることはできません。どうやら、他にも参考資料があるようです。

手掛かりは伝承地域です。『迷信の実態』には奈良県吉野北山郷の伝承であると書かれていますので、南大和地方の方言をあたってみることになり、野村傳四『南大和方言語彙』を閲覧しますと、「ナカネコゾー」とあるではありませんか。

知名度が低いのかと思えば、方言集に名前が載るくらいには有名だったのです。しかし、こちらの資料にも「化け物の名」とあるのみで詳細には触れていません。

次の手掛かりは「ナカネ」という言葉。この意味がわかれば、妖怪の正体がわかるかもしれません。調査の枠を広げ、全国の方言や民俗語など調べますと、ナカネは「下着」「海女さんの腰巻」を意味する言葉とあり、ますます混乱させられるのでした。

半ば諦めかけていたころでした。有志のひとりから「ナカネコゾウを見つけた!」と報告がありました。昭和8年刊行の高田十郎『大和の伝説』という民俗資料にあるというのです

皆、愕然としました。それはすでに確認済みの資料だったからです。

「天然和尚と山男」と題された伝承だったので、ナカネコゾウではないと思い込んでスルーしていたようなのです。

ナカネコゾウには、このような伝承がありました。

池峯という地に、天然和尚という徳の高い住職がおりました。

ある日、祈祷の仕事の帰りに中根峠という場所を通りますと、背後からザクザクと足音が近づいてきます。歩みを止めて振り返ってみますが何者の姿もない。和尚が歩き出すと足音はどんどんと大きくなり、やがて雲をつくほどの大きな化け物が目の前に現れます。それは顔中が毛だらけで人の形をしている山男でした。

天然和尚は臆することなく妖怪を睨みつけ、毛むくじゃらの右腕を掴みます。

「命だけは助けてやるが、人間にいっさい、手出しができぬよう、この峠に封じ込めてやる」

そういうと呪言を唱え、妖怪を骨無しにして力を奪いました。

それから中根峠には怪物を封じた中根地蔵が建てられ、妖怪は「中根小僧」と呼ばれるようになったのです。

私たちを散々悩ませた「ナカネ」とは、峠の名だったのです。

これは180前の話だそうですが、ただの昔話では終わりません。

大正15年、山仕事の帰りの男性が中根峠の付近で、怪物と遭遇する事件が起こっているのです。この怪物は顔が毛むくじゃらの大男で、男性を見るや大急ぎで逃げだし、下桑原のトンネル付近で姿を消したそうです。人々は伝説の中根小僧が復活したに違いないと恐れたといいます。

nakanekozou

文・絵=黒史郎

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