映画『インフェルノ』の鍵となる『神曲』は秘密儀礼の再現だった!

文=松田アフラ

『神曲』で『インフェルノ』を知る

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ロバート・ラングドンの最後の記憶は、午後の講義のために、アメリカのオックスフォード大学の構内を歩いているところで終わっていた。だが、次に目覚めたとき、彼は頭に大怪我を負って病院のベッドにいた。しかも、病院の窓の外に広がる景色は、なんとイタリアのフィレンツェだったのだ。いったい、自分の身に何が起こったというのか……!?

映画『インフェルノ』は、世界的な大ヒットとなった映画『ダヴィンチ・コード』『天使と悪魔』に続くシリーズ第3作である。今回、お馴染みの主人公であるラングドン教授は、人類の半数を絶滅させようとする狂気の科学者との謎解き対決に挑む。

この映画の中で、重要な鍵として登場するのがダンテの『神曲』、特にその「地獄篇」である。

本稿では、映画をより深く理解するため、『神曲』とは何かを概説することにしたい。

人類史上最大の詩人と称され、ルネサンスの先駆者と呼ばれる詩聖ダンテは、元来は有能な政治家であり、一時はフィレンツェの要職である頭領にまで登りつめたが、薄汚い政争の犠牲となって、故郷フィレンツェを追放された。以後、食客として各地を放浪した彼は、最終的にはラヴェンナに落ち着き、この地で世を去ることになる。

そのダンテの代表作『神曲』。彼は元来これを『喜劇(コンメーディア)』と呼んでいた。「喜劇」とは「悲劇」と対を成す言葉で、ここでは「喜ばしい結末に終わる物語」を意味する。確かに『神曲』は主人公であるダンテが古代の詩人ウェルギリウスの霊に導かれて地獄と煉獄を巡り、最終的に天国に達するというのがその大まかな筋立てであるから、まさに「喜ばしい結末に終わる物語」にほかならないわけである。

だが後に、おそらくは作家ボッカッチョが、彼の作品のもつ超越的な価値観に鑑み、「神聖な」を意味する語Divinaを追加して『神聖喜劇(ディビナ・コンメーディア)』と改めた。現在でも、イタリア語ではこれが正式な名称とされている。日本では明治時代にかの文豪・森鴎外がこれを『神曲』と訳したことから、もっぱらこの標題で知られている。シンプルにして明快、かつ深遠な意味を含んだ名訳といえるだろう。

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ダンテ・アリギエーリ(1265~1321年)の肖像画(ボッティチェルリ画)。

 

『神曲』における中世の世界観

『神曲』は主人公が地獄界、煉獄界、そして天国を順に巡る物語であるが、当然、13世紀の世界観は現代のわれわれのそれとは大きく異なっている。

そこでまず、基本的な知識として、『神曲』における世界、宇宙はどのような構造をしているのかを、簡単に見てみることにしよう。

『神曲』の世界は、基本が天動説。すなわち地球が宇宙の中心にあり、その周囲を諸惑星や恒星が回転しているという考え方である。ただし、地球は平面ではなく、一個の球体であるとされている。この世界の中心にあるのが、キリスト教の聖地エルサレムであり、この聖地の真下の地下深くに地獄がある。

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『神曲』における地獄は全9層からなる(ボッティチェルリ画)。

 

映画『インフェルノ』でも地獄は漏斗状を成しており、上のほうは広いが、下に行くほど狭い階層構造だ。これが全9層に分れており、それぞれの層を「圏谷」と呼ぶ。上方にある圏谷ほど地獄としての刑罰は軽く、下へ行くほど重くなっていく構造だ。

その第9層、すなわち一番奥底に、悪魔大王ルチーフェロが凍り漬けになっている。彼は元来、天界で最も美しい天使だったのだが、その昔、神に対して叛乱を起す。だがその戦いに敗れた彼は、そのまま地上に投げ落とされ、その過程で醜い悪魔に変貌してしまう。いうまでもないが、「ルチーフェロ」とはイタリア語で、英語名「ルシファー」のほうが一般的には通りがいい。ルシファーは悪魔の代名詞ともいうべき「サタン」と同一人物であるとされている。

『神曲』において、ルチーフェロは腰まで地面に埋まった状態だが、そこはちょうど地球の重力の中心に当たっているため、身動きがとれないのだという。

実はこの9層から成る地獄自体、元々そこにあったものではなく、このルチーフェロが地表に激突した際の衝撃によって形成されたものなのだ。またこの際の衝撃で、南半球にあった島々が地球の南端に逃げて集まった結果、エルサレムのちょうど反対側に、巨大な山が形成された。これが「煉獄山」である。

そしてこの地球の上空を、10層におよぶ天圏が取り巻いている--というのが『神曲』における宇宙の基本構造である。

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